なぜ女はダメ男に惹かれる? 佐藤睦美監督インタビュー<上>

大泉りか 作家・コラムニスト
更新日:2020-01-20 11:49
投稿日:2020-01-17 18:40
「幸せになりたいのに、いつも、ちょっとダメな男性ばかり好きになってしまう」、そんな心当たりはありませんか。なぜわたしたちは、“ダメな男性”に惹かれてしまうのか。“ダメな男性”はなぜ魅力的なのか……そこで今回は、1月18日(土)から池袋シネマ・ロサにて『佐藤睦美特集上映 ロマンス/生活』と題して公開される『ゴミのような』と『ラウンドアバウト』。恋愛と生活との間にあえぐ女性を繊細に描いたこの二作品を監督・脚本した佐藤睦美さんにお話をお聞きしました。

――無職の男性と同棲中だったり、「セックスしよう」とずかずかとつめ寄ってくる元彼を強くはね除けられなかったり、と『ゴミのような』『ラウンドアバウト』の両作品とも、いわゆる“ダメな男性”に振り回される女性が主人公ですが、なぜこの題材を選んだのでしょうか。

佐藤睦美監督(以下、佐藤) 個人的な話になるんですが、わたしは、働くのが向いていない男性を好きになることが多いんです。無職の人なんかが、結構タイプで。なぜかっていうと、こういうとちょっと語弊があるかもしれないけど、働くのってずるい部分があると思っていて。

 例えば仕事で、ちょっとした事故みたいなのがあった時に、いかに自分側のミスじゃなくするか、いかにお金を取ることにいくか、みたいなことってあるじゃないですか。嫌いな人の前で笑ったり、嘘をついたり、コントロールしたり。わたしはそれが出来ちゃうんですけど、人間としてのずるさというか、正直じゃない部分だと思うし、だからこそ、それが出来ない人のことを「かっこいいな」とか「素敵だな」って思ってるところがあるんです。

――不器用な男性に惹かれてしまうんですね。

佐藤 そう。うまく人に合わせられない人のことを、純粋だなって思っちゃうんです。けど、そういう人ってやっぱり働けないというか、ちょっとしたことで仕事を辞めてしまったり、そもそも、面接でも、志望動機なんか適当なことを言えばいいのに、「志望動機はありません」とか言い始めたりとかして、当然選ばれないんですよ。そういう人が好きなんです。

――監督自身、なかなかのダメな男性好きなわけですね。

佐藤 今って、いわゆるダメみたいに言われる男性の幅が広がってるって思います。昔ってお金を盗むとか、金遣いが荒いとか、ギャンブルにハマっていたり、女遊びするとかだったと思うんですけど、例えば『ゴミのような』に出てくる、ヒロインと同棲している一恵は、一途だし、ヒロインのことを大事に思ってるし、家事もできちゃう。

 じゃあなんで、この人がダメって言われるのっていうと、お金を稼ぐ気持ちはあるけど、稼げないってだけなんですよね。昔は働く意欲がないのがダメな男だったと思うんですけど、働けないってことだけでダメ男だっていうのは、ちょっと違うかなって。それに、こういう人と付き合いたい人もいるのかなって思うんです。

――ヒロインは一恵に「専業主夫になって欲しい」って言ってますよね。

佐藤 そう。わたし自身も結婚するなら専業主夫の男性もいいなって思ってて。子供とか産むとなっても、わたし自身、子育てをするって覚悟がまだ全然決まってないので、一緒に育てることは前提で「メインは俺が担う」って人がいれば、結婚して産むっていう選択肢を考えてもいい。

 そういうふうに、自分が稼ぐから専業主夫になってくれてもいいって思う女の人は、増えてると思うんですけど、逆にまだまだ、専業になってもいいって男性は意外と少ないんですよね。「専業主夫になってくれる人と結婚したい」って飲み屋とかでしゃべってて、「いいなぁ、俺、なりたいよ」なんて言われるけど、実際に付き合って「じゃあ、なって」っていうと「さすがにそれは世間体がさ」っていう人のほうが多いことが、どっちかっていうと問題だと思っていて。それが『ゴミのような』を作った時に考えていたことではあります。

――一恵自身、やっぱり働いていないことにコンプレックスがあるから、ちょっと不機嫌なんですよね。むしろ彼のダメさはそこにあると思うんですが、かといって彼女への負い目だとか、罪悪感だとか、自分への苛立ちで機嫌がよく出来ないのもわかる。

佐藤 そう。お金を稼ぐとか、家事とかって、それぞれ、やりたい方、得意な方がやればいいじゃんって思うんです。

 男女平等でどうっていうんじゃなく、恋愛や家族は個人的なことでしかないから、自分たちで意志を持って決めていくしかない。作品中でも、ヒロインは「働くのが向いてないなら、わたしが働くから、あなたは家のことをしていればいいんじゃない」って言ってるんですが、けど、なぜか一恵のほうは、不機嫌になることで優位に立とうする。

 あそこで一恵は、完全にダメ男になっちゃったなっていうのはあると思います。

――仕事で帰ってきて、家に不機嫌な無職の人がいるって、まぁ想像するとしんどい状況ですよね。けれど、このご時世、誰でも無職になる可能性はあって。自分が仕事をしている状態で、無職の男性と付き合う時に、気を付けるべきことって何かありますか?

佐藤 気を付けること、うーん……あんまり気にしないってことですよね。向こうの生活がどうだろうと、例えお金がゼロになろうと、それって自分に関係あることじゃなくて。勝手に生活してくれって。 

 でも、一緒に生活したいって自分が思うんだったら、やむを得ないので出すしかないと思う。その場合は、家のことをある程度はやって欲しいですけどね。ただ、無職の人と付き合っていた時、彼はわたしのほうが忙しくしてると、余計にへこんじゃってましたよね。かといって、働くのに向いていない男性が仕事をしていても、やっぱりイライラしたり、へこんで帰ってきたりする。

 時々なら仕方ないのですが、だんだん激しくなってきたりすると、相手の気分に自分が惑わされてしまうんです。相手の気分が悪いことが自分に影響する。だったらいっそ、軽い仕事にして気分よくいてくれたほうがいい。専業主夫ってものをやれる人じゃない限りは、お互いに働いていたほうが上手くいくし、だから、どんな人でもやれるような仕事、単純作業の仕事が消えないで欲しいです。

 佐藤睦美(さとう むつみ)

 1986年宮城県生まれ東京都在住。2016年よりニューシネマワークショップにて映画制作を学び、在学中に撮影した「ゴミのような」が2018年福岡インディペンデント映画祭にて優秀作品に選ばれる。卒業後、働きながら「ラウンドアバウト」を撮影。現在は、初の長編作品撮影に向けて準備中。

【新人映画監督特集vol.5 “佐藤睦美監督特集上映「ロマンス/生活」”】

予告編


●上映作品
『ゴミのような』 2017年 | 日本 | 28分 | カラー | DCP
美乃は、優しく尊敬できる存在だが無職の恋人・一恵と同棲中。仕事をしながら家事もこなし、一恵を支えようとする美乃。しかし
一恵は日々卑屈になっていった。日常の中で小さく傷つけ合い、すれ違っていく2人。
出演:小畑みなみ 西留翼 賀津塔 櫻井保幸 鳥羽優好 柳原光貴
監督/脚本:佐藤睦美 プロデューサー:高橋正樹 撮影:岩本真 録音:宍戸絹代 助監督:長谷川雄規 美術:宍戸絹代、チルカ
サトシ 制作:青山孝 主題歌「ごみのような」作曲/演奏:高橋正樹 製作:ニューシネマワークショップ

『ラウンドアバウト』 2019年 | 日本 | 39分 | カラー | DCP
夢だった飲食店に就職したが、過酷な環境だったため退職したみちる。母親から安定した仕事を探すよう言われているが、内緒で
再び飲食店で働いていた。葛藤するみちるのもとに、元恋人の壮介が現れて―。
出演:田口夏帆 櫻井保幸 岩松れい子 小畑みなみ 松岡真吾
監督/脚本:佐藤睦美 プロデューサー:高橋正樹 撮影:川崎誠 録音:芦澤麻有子、藤本匠 助監督:松隆祐也 制作:坂入
亞津然 撮影助手:岩本真 録音助手:森健一 テーマソング「fraction」作詞/作曲/演奏:タカハシナミ タイトルデザイン:
広谷紗野夏 製作:ニューシネマワークショップ

●チケット情報
前売り券:1,300円(税込)
当日:1,500円
リピーター割引:「佐藤睦美監督特集上映」の半券ご提示で一般1000円

●上映劇場:池袋シネマ・ロサ

●上映期間:2020年1.18(土)~1.24(金)1週間限定ロードショー
Twitter:https://twitter.com/satogumi_eiga
Instagram:https://www.instagram.com/satogumi.eiga/

大泉りか
記事一覧
作家・コラムニスト
ライトノベルや官能を執筆するほか、セックスと女の生き方や、男性向けの「モテ」をレクチャーするコラムを多く手掛ける。新刊は「女子会で教わる人生を変える恋愛講座」(大和書房)。著書多数。趣味は映画(映画館で年間100本以上)、海外旅行。愛犬と暮らして14年目の犬飼い。X

エンタメ 新着一覧


「ばけばけ」振り回されっぱなしの錦織(吉沢亮)が気の毒…ふたりの会話は聞き捨てならない
 しじみ売りに花田旅館を訪れたトキ(髙石あかり)は、主人の平太(生瀬勝久)やツル(池谷のぶえ)、ウメ(野内まる)と共に、...
桧山珠美 2025-10-30 18:05 エンタメ
復縁って本当にアリ?『ラブ トランジット』3、女性メンバーが思う“ヨリを戻す”前の恋愛ルール
 10月16日(木)よりスタートした『ラブ トランジット』シーズン3( Prime Video)は、元カップル5組10名...
中村未来 2025-10-30 12:00 エンタメ
『ラブ トランジット』3、全てがひっくり返る展開に衝撃! 人の心って本当に読めないなぁ【4話~6話レビュー】
『ラブ トランジット』シーズン3(Prime Video)、3〜6話目までが配信されました! ラブ トランジット(以下ラ...
中村未来 2025-11-05 11:10 エンタメ
元カレと再会したら心は動く?『ラブ トランジット』3、女性メンバー3人が感じた“過去の恋”と向き合う勇気
 10月16日(木)よりスタートした『ラブ トランジット』シーズン3(Prime Video)。本作は、元カップル5組1...
中村未来 2025-10-29 12:00 エンタメ
【芸能クイズ】全員元モデルだが? “女性向けファッション誌”出身の俳優は誰でしょう
 テレビやネットでふと耳にした、あのひとこと。記憶の片隅に残る発言の背景には、ちょっとした物語があるのかも?  ネ...
「ばけばけ」なんともチャーミングなヘブン。“ラストサムライ”おじじ様との関係性はどう変わる?
 ついにアメリカから英語教師レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)が松江に上陸した。大興奮の観衆の中、知事の江藤(佐野史郎...
桧山珠美 2025-10-28 17:53 エンタメ
『ラブ トランジット』3、男性参加者が“復縁ナシ派→アリ派”に変化した理由って?「両想いってマジで奇跡」
 10月16日(木)よりスタートした『ラブ トランジット』シーズン3(Prime Video)。本作は、元カップル5組1...
中村未来 2025-10-28 12:00 エンタメ
復縁に正解はある?『ラブ トランジット』3、男性参加者を直撃! 元カノと再会した際のリアルな本音
 10月16日(木)より待望の『ラブ トランジット』シーズン3( Prime Video)の配信がついにスタートしました...
中村未来 2025-10-27 12:00 エンタメ
『大脱出3』が示した“地上波じゃ絶対無理”なお笑いの可能性。攻めたバラエティの生存戦略とは
『水曜日のダウンタウン』などを手掛ける藤井健太郎氏が企画・演出・プロデューサーを務めた『大脱出3』がDMMの総合動画配信...
平野紫耀らNumber_iに疑問噴出…「アイドル性」は必要なのか? 3人の“本気”がファンに問う覚悟
 平野紫耀(28)、神宮寺勇太(27)、岸優太(30)からなる3人組ボーイズグループ・Number_i の全国ツアー「N...
こじらぶ 2025-10-28 14:02 エンタメ
「ばけばけ」髙石あかり、恐るべし。“微妙な表情”の変化に気付いた? 「半分弱」に寺尾聡の元妻を思い出す…
 下宿では教員試験を終えた錦織(吉沢亮)の慰労会が行われ、トキ(髙石あかり)はお祝いの出し物を披露することになり、大好き...
桧山珠美 2025-10-25 11:08 エンタメ
『ラブ トランジット』3が修羅場で面白すぎ!平和主義男子と爆発女子が激突。イケてる男女って展開早いの?【1話~3話レビュー】
 ついに『ラブ トランジット』シーズン3(Prime Video)がスタートしました! ラブ トランジット(以下ラブトラ...
中村未来 2025-11-05 11:10 エンタメ
「ばけばけ」傳ロスからの“国宝”級イケメンが登場! 吉沢亮、怒りを孕んだ表情の美しいこと…
 出奔した銀二郎(寛一郎)を探し、東京を訪れたトキ(髙石あかり)。銀二郎が住む下宿でトキは、松江随一の秀才・錦織友一(吉...
桧山珠美 2025-10-21 18:50 エンタメ
横浜流星、『国宝』はここから? “圧巻の演技”を見せた出演作4選。吉沢亮とは2012年に共演、肉体美の披露も
 公開からすでに4カ月以上が経過しながらも、いまだ連日超満員の映画『国宝』。このままの勢いで、歴代邦画実写史上1位の興行...
zash 2025-10-21 11:45 エンタメ
「ばけばけ」銀次郎、逃げて~! あさイチ・博多大吉の言葉に同意してしまった
 傳(堤真一)の死から数日、機織り工場は閉鎖が決まり、トキ(髙石あかり)は仕事を失ってしまう。借金取り・森山(岩谷健司)...
桧山珠美 2025-10-20 17:40 エンタメ
菊川怜「今も台風の真っただ中にいる」3人の子育てと仕事の両立という選択。忙しくても“譲れないこと”とは
 1998年にモデル活動からスタートし、現在ではシングルマザーとして、6歳、4歳、3歳のお子さんを育てている菊川怜さん(...
望月ふみ 2025-10-19 11:45 エンタメ