なぜ女はダメ男に惹かれる? 佐藤睦美監督インタビュー<下>

大泉りか 作家・コラムニスト
更新日:2020-01-20 11:58
投稿日:2020-01-20 06:00
 1月18日(土)から24日(金)まで池袋シネマ・ロサにて『佐藤睦美監督特別上映 ロマンス/生活』と題して公開される映画『ゴミのような』『ラウンドアバウト』。恋愛と生活との間にあえぐ女性を繊細に描いた、この二作品を監督・脚本した佐藤睦美さんのインタビュー、後編です。

――わたしは今年、42歳になるんですが、ちょっと上のバブル世代の影響もあって、いまは割り勘が当然なのはわかっているけれど、最初のデートから完全に割り勘だと「あっ、そっち派なのね」って思うし、なんならいまだ「付き合ってからじゃないとセックスはしない」っていう女友達もいます。監督はいま33歳ということですが、その世代の恋愛観はどうなのでしょうか。

佐藤睦美監督(佐藤) わたし、逆ナンをよくしていたんで、一般的な恋愛の価値観をもってるかは微妙なところがあるんですが……。

――逆ナン! いったいそれは、どういった目的で。

佐藤 セックスをしたいっていうのと(笑)、あとタイプの人ってなかなかいないじゃないですか。「あっ、やってもいいな」って思う人ってそうはいない。だから見かけたら声を掛けちゃいたいなって。もともと、好きな人には「好き~!」、例え振られてもなお「好き~!」ってぐいぐい行くタイプだったのもあって、性的な欲求が増えてくるタイミング……周期があったんですけど、そういう時には逆ナンをよくしてました。

――いわゆる肉食女子ですね。

佐藤 完全に肉食です。なので、一般的ではないかもしれないんですが、世代でいうと、おごるとかおごられるとかって、わたしの世代はあまりないんじゃないかって思っていて。そんなにお金持ちの男性と出会うことってないですし、同級生とかも、男性も女性も金銭感覚はさほど変わらない。もちろん男女の賃金格差はまだあるのは確かなんですが、一方で、わたしの友達カップルなんかと見ると、女性側のほうが稼いでいる場合も多くて、男の人のほうが繊細だったり、お金が稼げなかったりっていうパターンも普通によくあるかなって思ってます。

――『ゴミのような』のヒロイン・美乃の恋人の一恵は無職、一方で『ラウンドアバウト』のヒロインのみちるにまとわりついてくる壮介は、真剣に付き合うつもりもないくせに「セックスしよう」なんて軽く言ってきますが、こういう男性についてどう思いますか。

佐藤 『ゴミのような』の一恵はちょっと古い考え方の男の人かなって思ってて。男が稼いで、彼女を楽にさせてあげたいって考えているけど、彼自身は社会に馴染めない。体育会系の「営業で一番を取るぞ!」とかの男ノリが出来なくて、就職の面接で「何がビジョンとしてあるの?」って言われても、「ないなぁ……好きな人と幸せに暮らせればいいだけだなぁ……」みたいな。そういうタイプの男の人って、就職ではあまり選ばれないと思うんです。

一方で、『ラウンドアバウト』の壮介は、そこまで自分を卑下はしてないけど、自虐っぽい感じはあるなって思っていて。自分で自分を面白がらないとやっていけないし、自分が保てない。女性が「わたし結婚できない、腐女子、モテない~」っていうのと同じノリで「俺、働けない~、紐みたいな感じ~」っていう。そういう意味で壮介は逞しいけど、繊細であるという意味では、一恵と一緒かなって思います。

――壮介は実際にいたら、すごくモテるタイプだろうなって思いますが、一方で明らかに好きなってしまったら厄介な相手だと思うんです。絶対に浮気しそうですし。そういうことを全部理解しているにも関わらす、壮介みたいな人たらしタイプの男性を好きになってしまう女性には、どういう共通点があると思いますか?

佐藤 人に対しての好奇心が強い人じゃないですかね。「この人、本当のこと言ってるのかな、それとも嘘かな。本当だったら嬉しいな」みたいなことを楽しめちゃう人。

――不安定さを楽しめちゃう人ですね。

佐藤 あと「ちょっと変わった人が好き」っていう女性。わたしの女友達でも、普通の男性にはまったく惹かれないって子がいて、「男性としゃべってる時に、『何部だったの?』って聞いたら『野球部』、『趣味は?』って聞いたら『映画』とか、一問一答で帰ってきて無理だった」って言ってたんですけど、普通の人って、そんなもんじゃないって思うんです。けど、それが彼女は嫌。でもそこで変わったことをいってくる人って、変な人で、その分、社会に馴染めない人が多いんじゃないかなとも思うんですよね。社会に馴染めないから、お金が稼げなかったり、何かに溺れちゃっていたりする。

――「変わった人」はやっぱり変わってる分、当然、付き合うのに苦労しますよね。

佐藤 しかも、そういう恋人についてって、女友達にあんまり相談できないじゃないですか。相談したところで、どうせ否定されるから。わたしも、実際過去に、そういう男性とお付き合いしていた時はあんまり相談しなかったですね。ネタ的にはいえるけど、本気に悩んでることは相談できなかった。

あとは真面目な人が多いと思うんです。真面目だから、きちんと向き合っちゃう。一回くらいやった男の将来の心配したりして、端からすると「そんなのどうでもよくない?」って思うんですけど(笑)。

 なので、意外と承認欲求が強い人とか、メンヘラがダメな男と付き合うっていうよりも、いろんなことに興味を持っちゃうタイプの女の人が「この人、なに!?」って、思ってハマっちゃうことが多いんじゃないかなってわたしは思うんです。ちゃんと自分の生活を確立できている分、経済力をある人を求めなくていいし……とにかく「面白い人が好き」って本当に危険なワードだなって思ってますね。

――ああ、痛いほどわかります。しかもハマってしまうと、なかなか別れられなくて。あれってどうしてなんでしょう。それこそ、映画へのコメントで、漫画家のドルショック竹下さんが「彼を突き放せないわたし」って表現していて「これ!」と思いましたが。

佐藤 わたしが突き離せないのは、コミュニケーションを諦めたくないっていうのがあるからですね。相手を変えられるとは思ってないけど、いつか伝わるんじゃないかって。「この人は、もう無理」って思いたくないんです。「この人はわたしがいないとダメ」とは思ってないし「わたしにこの人がいないとダメ」っていうのではなく、ただただ、わたし自身が諦めたくない。

――なるほど。人との関係を投げ出したくない、ギブアップしたくないっていうのはよくわかります。

佐藤 あとはまぁ、ダメな人ほど繊細な気持ちを持っているので、女心のポイントを押さえてくるっていうのもありますけどね。色気ですよね。それに、ダメ男なほど、真剣に言ってくれてるような気もしちゃう。いわゆるちゃんとした人、仕事ができる人だと、何を言われても「ちゃんとしてるな」って思うけど、不器用な人だと「それ、本心だよね」って。

――そうした男性と付き合って別れた後って、恨みや後悔が残りがちですが、どうしたら別れた後も憎まずに済むのでしょう。

佐藤 結果、ダメで別れることになっても、100パー向こうが悪いとかはあまりないですよね。それに、離れる、離れないっていうのは、自分で決めること。セックスもそうで、すごい好きっていうわけでもない人と、すっきりするためにやるってことがあってもいいと思うし、セックスをする時に、そんなに相手のことを思い詰めて好きではなくてもいい。ダメな人を選んだことも「選んじゃった」って思う必要もない。自分で決めてやりたかったことをして、それで自分が何か救われたり、感情が動いたんだったら、結果はどうであれ、そこを肯定すればいいじゃんって思ってます。

――確かに、毎度、終わった恋を否定するのではなく、前向きに肯定していったほうが次の恋に進む勇気も出そうです。今日は楽しいお話、どうもありがとうございました!

佐藤睦美(さとう むつみ)
1986年宮城県生まれ東京都在住。2016年よりニューシネマワークショップにて映画制作を学び、在学中に撮影した「ゴミのような」が2018年福岡インディペンデント映画祭にて優秀作品に選ばれる。卒業後、働きながら「ラウンドアバウト」を撮影。現在は、初の長編作品撮影に向けて準備中。

【新人映画監督特集vol.5 “佐藤睦美監督特集上映「ロマンス/生活」”】

 

予告編

●上映作品
『ゴミのような』 2017年 | 日本 | 28分 | カラー | DCP
美乃は、優しく尊敬できる存在だが無職の恋人・一恵と同棲中。仕事をしながら家事もこなし、一恵を支えようとする美乃。しかし
一恵は日々卑屈になっていった。日常の中で小さく傷つけ合い、すれ違っていく2人。
出演:小畑みなみ 西留翼 賀津塔 櫻井保幸 鳥羽優好 柳原光貴
監督/脚本:佐藤睦美 プロデューサー:高橋正樹 撮影:岩本真 録音:宍戸絹代 助監督:長谷川雄規 美術:宍戸絹代、チルカ
サトシ 制作:青山孝 主題歌「ごみのような」作曲/演奏:高橋正樹 製作:ニューシネマワークショップ

『ラウンドアバウト』 2019年 | 日本 | 39分 | カラー | DCP
夢だった飲食店に就職したが、過酷な環境だったため退職したみちる。母親から安定した仕事を探すよう言われているが、内緒で
再び飲食店で働いていた。葛藤するみちるのもとに、元恋人の壮介が現れて―。
出演:田口夏帆 櫻井保幸 岩松れい子 小畑みなみ 松岡真吾
監督/脚本:佐藤睦美 プロデューサー:高橋正樹 撮影:川崎誠 録音:芦澤麻有子、藤本匠 助監督:松隆祐也 制作:坂入
亞津然 撮影助手:岩本真 録音助手:森健一 テーマソング「fraction」作詞/作曲/演奏:タカハシナミ タイトルデザイン:
広谷紗野夏 製作:ニューシネマワークショップ

●チケット情報
前売り券:1,300円(税込)
当日:1,500円
リピーター割引:「佐藤睦美監督特集上映」の半券ご提示で一般1000円

●上映劇場:池袋シネマ・ロサ

●上映期間:2020年1.18(土)~1.24(金)1週間限定ロードショー
Twitter:https://twitter.com/satogumi_eiga
Instagram:https://www.instagram.com/satogumi.eiga/

大泉りか
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作家・コラムニスト
ライトノベルや官能を執筆するほか、セックスと女の生き方や、男性向けの「モテ」をレクチャーするコラムを多く手掛ける。新刊は「女子会で教わる人生を変える恋愛講座」(大和書房)。著書多数。趣味は映画(映画館で年間100本以上)、海外旅行。愛犬と暮らして14年目の犬飼い。X

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