誘導尋問に引っかからない女
聞きたいことはひとつなのに、聞き方を誤るといくら81歳でも怪しまれると思い、婉曲表現しかできません。beat around the bush。居心地が良い、気持ちが良い、気持ちが良くなった、セックスした、くらいまで、どうにか核心に迫りたいけれど、彼女が下手くそな誘導尋問に引っかかるとは思えません。
と、一方で、わたしの心は千々に乱れます。酔い覚めにマンションに行っただけのはず、そのはず。だって、その証拠にひろしは帰ってきてすぐ、わたしとセックスしたもの。
そこでまた石鹸の香りが、思い出したくない香りが蘇ります。すべては繋がります。赤坂のマンションには、まだわたしは連れて行ってもらったことはないのです。
浮気男のなかには、愛人と夕食を食べて、その後また帰宅して妻の夕食も食べる人もいると聞いたことがあります。そしてその後、前回お話ししていたような「平等に」セックスをすることだって、可能です。
お前、そうして飄々と妻を騙くらかしている男の相手なんていくらでもしてきたじゃないか。
そう自分に説教してみます。しかし、その妻的立場、裏切られているかもしれない立場になれば、そんな既成事実や状況証拠は雲散霧消します。
既成事実よりも状況証拠よりも、信じたいことだけ信じる、信じるものは救われる。騙くらかされていることは認めたくないので、臭いものに蓋プレイです。
成りすましがバレても真相が知りたい
部屋に行っただけ。
そうであって欲しいからそう。
心臓が早鐘を打ったように身体中を振り動かします。
〈ちょっと飲みすぎたみたいで、そこでなにがあったかおしえてもら〉
いくら81歳でも、こんな脳みそ崩壊したLINEを送ったら、こいつヤヴァと思われるに違いないと、そして、絶対に成りすましとバレると思ったのですが、それならそれでいいや、と思い、送ろうとしたそのとき。
「おかあちゃん、なにしとんねん。また起きとんのかい」
突然寝室からやってくるひろし
寝室の方から声が聞こえ、こちらに近づいて来る足音がします。急いで今までのLINEのメッセージを削除し、ひろしの携帯を隠してダイニングのテーブルの上で頬杖をついて物思いにふけっているフリ。傍らには、濃いめのジンリッキー。
寝ずに酒を飲んでいて怒られても、昨夜のことがあるのでわたしには然るべき理由があります。普通の男なら不貞をはたらいて帰ってきて、恋人が寝られず寝酒にふけっていたら多少なりとも罪悪感を感じるはずですが、ひろしはいい意味でも悪い意味でも、いつでもフラット❤️
「また酒飲んどんか!!!」
「昨日、本当は誰と飲んでいたの?」
不意打ちを食らって、少しうろたえたように見えるひろし。
「Oや」
「なんで帰りがあんなに遅くなったの」
「Oの事務所に呼ばれて新しい設計図を見せられとったんや。あのおっさんも売り上げを上げるのに必死やで。気づいたらあんな時間になっとって、すまんかった。まだ怒っとんか」
そういうとまたわたしの乳首をまさぐりはじめます。
わたしは極度の緊張状態にいるので、全身が感じやすくなっているのか、こんな探偵ごっこはもうヤメて、全部信じてしまいたいから信じる、ひろしのことを信じる、と、また足を開いたのです。
次回に続きます。
エロコク 新着一覧