身を滅ぼしてもウソがやめられなかったコスプレ虚言癖男の話

神田つばき 作家・コラムニスト
更新日:2020-07-31 06:00
投稿日:2020-07-31 06:00

嘘は言葉とは限らない!ニセ身分を擬態するコスプレ虚言男

 ある地方の総合病院のナースステーションで噂になった、虚言癖男の話をしましょう。男は40代独身、病院の電子機器をメンテナンスする会社のサービスエンジニアでした。

 この病院では医師・看護師は赤、検査技師と療法士は青、外部のエンジニアや売店スタッフは緑のネックストラップでネームプレートを下げることになっています。でも、男はどこで買ってきたのか、赤のネックストラップに勝手に付け替え、白衣を羽織って作業しているというのです。

 看護師長からやんわりと注意したところ、驚くべき答えが返ってきました。

「あれ、知りませんでしたか? 私、医師免許を持っているんですよ。てっきり皆さんご存じだと思って、ドクターのストラップを使ってたんですけど、まずかったですか?」

 まずいに決まってるでしょ!医師なんて嘘だろう!と思っても、あまりに堂々と言うので看護師長は言葉に詰まってしまったそうです。

解雇を告げられても崩れない笑顔の仮面と華やかなウソ

 でも、白衣姿で職員食堂で食事をし、病棟をフラフラ歩き回るので、医師だと思いこんで頭を下げる患者もいます。通販でいろいろ買い集めたらしく、オペ着で手術後のドクターになりきっている日もあれば、ネクタイにドクターコートでポケットに両手を入れ、えらそうに歩いている日もあり……と、コスプレ全開になっていきました。病院もそのままにはできず機器会社に連絡し、契約社員だった白衣男は上司に呼び出されて、契約解除を言い渡されたのです。

全取引先にウソだらけの退職挨拶回り!?

 それでも男は言いわけも謝りもせず、笑顔で言い放ちました。

「ああ~、ちょうど良かった。実家の病院から、そろそろ戻って後を継げと言われて、困っていたんです。やっと親父に孝行できます」

 とっさに口から出る華やかなストーリー、恐るべき厚顔無恥ぶりです。男は、担当している各病院に、「このたび、実家の病院を継ぐことになりまして……」と挨拶して辞めていきました。

 実家が病院、医師免許を持っている、などというのは同僚も上司も聞いたことがなく、全員が呆れていたそうです。

称賛のまなざしを一瞬で手に入れたい

 職を失ってまでやめられない嘘、クビが決まってからも吐き続けた虚言の魅力とはなんなのでしょうか。「実家が病院で」「私は医師で」と聞いた瞬間、多くの人は尊敬や驚きの表情を浮かべます。

 この反応が、嘘つきのプライドをくすぐるのです。

 ほめられたり、感心されたりする瞬間の良い気分が忘れられず、あちこちで嘘を言うようになり、嘘を成立させるために工夫するようになります。

 電子機器会社をクビになった虚言癖男は、その後どうしているのでしょうか? 大きな総合病院に行くと、廊下を歩くドクターたちをつい目で追ってしまう私です。

神田つばき
記事一覧
作家・コラムニスト
離婚と子宮ガンをきっかけに“目がさめて”、女性に生まれたことの愉しみを探そうと緊縛写真のモデルとライターに。私小説「ゲスママ」、女性の悩みや疑問を解き明かすコラム「性に纏わるあれこれ」
イベント「東京女子エロ画祭」「親であること、毒になること」などの企画も。X

ライフスタイル 新着一覧


親不孝じゃないよ! 実家に帰省しない時の冴えた言い訳6選
 シルバーウィークが終わったら、もう年末年始はすぐそこ。長期休暇に帰省をする人は多いですよね。「実家でのびのびすごそ〜♡...
頭重感とは?MRIは異常なし、頭痛の“震源地”は肩こりだった!【薬剤師監修】今すぐできる改善法
 彼女の名は、えりの。女性の心を癒すためにはじめたサロン「コクハク」のオーナーで、界隈では「えりのボス」の愛称で知られ、...
懐かしの「アジャパー」ポーズを激写! お茶目な“たまたま”にほっこり
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
仏様のお供えは「花」とは限らない! もうすぐお彼岸、仏花にまつわるケンミンSHOW的な話
 ねこ店長「さぶ」率いる我がお花屋は、神奈川の仏事に手厚い土地柄の片田舎にあります。とりわけ、夏のお盆からお彼岸月の9月...
ロボット掃除機より優秀!? “激落ちくん”のお掃除スリッパが突き付けた我が家の床の現実
 話題のコスメや、広告でよく見かける化粧品や日用品。「webでよく見るあの商品、本当にイイの?」「買ってみたいけれど、口...
私の心が狭いのか? 甥っ子が放った「お金持ちだから好き」発言にモヤモヤした話
 あっという間に、9月ですね。早い! 夏休みの帰省で姪っ子や甥っ子に会った方も多いのでは。  筆者にも、5歳の甥っ子が...
テーブル下でこっそり放熱中…ステンレスで涼をとる賢い“たまたま”君
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
子どものいない祭り
 都会の喧騒の中で見つけた祭り。  そこにははしゃぐ子どもの姿はなかった。  たまにはいいかな、自分のためだ...
ほっこり癒し漫画/第81回「センセッ ジカンデスヨッ」
【連載第81回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
「鉄漿」って読める? ヒント:最古のメイク
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
子ども同士のLINEにもドラマが!将来の夢はスパイに忍者…ピュアな感じがたまらん
 最近では、小学生でもスマホを持っている子が増えていますよね。連絡ツールとして友達とLINEを使いこなし、時代は変わった...
女はお嫁さん要員? 年収800万でも「行き遅れ」と見下される田舎の地獄
 西新宿の高層ビル内にある大手食品会社のデザイン室に勤務し、初台に暮らす咲子。実家とはほぼ縁を切ってはいるものの、悠々自...
毒親の介護をしたくない 実家から逃げた女が「決別」のため払った金額は
 西新宿のビル内にある大手食品会社のデザイン室に勤務し、初台に暮らす咲子。実家とはほぼ縁を切ってはいるものの、おひとりさ...
田舎を捨てた「独身女」は不幸ですか 絶縁した家族が来て…今さら何の用?
 いまだ残暑が残る9月の初め。月曜日のAM7:30。  すでに汗ばむ陽気に包まれながら、西村咲子は新宿西口の高層ビ...
職場で飛び交う「大人のちくちく言葉」4選。無意識に同僚・後輩のモチベを下げてない?
 人の気持ちを不快にさせる、ちくちく言葉。子どものちくちく言葉は「アホ」「バカ」「マヌケ」などストレートですが、大人にな...
“たまたま”に見覚えあり!尾道市立美術館の「ケンちゃん」ではないかぃ?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...