差出人はまさかの元カノ?
「これな……、咲子が心配するものではないんだけど、だけど、わざわざ見たいものでもないはずなんだよな。まさか本当に届くとは俺も思っていなかったからさ……、正直ものすごくびっくりしてる。これはね……、ごめん。元カノからの手紙なんだよね」
封を開けたわけでもないのに、陽介はなぜか中身が何であるのかをわかっているような口ぶりだ。
「えっ? 元カノ……? どういうこと!?」
夫が現在進行形で浮気をしているに違いないと思っていた咲子は、夫からの予想外の言葉に拍子抜けした。
「これなぁ……、昔、地元にいた頃に付き合ってた子と、ふざけて貯めていた結婚資金の通帳。その時はお互い真剣に付き合ってたから、バイト代からせっせとふたりで貯金貯めてたんだよ。それで別れるときに、貯まったお金どうする? ってなってさ……。そうしたら、この元カノが『陽ちゃんが結婚したのを知ったら、お祝いとして通帳ごと送るよ!』って、言ってたんだよな……」
陽介は封筒の中身を見なくても、そこに何が入っているかわかっていたようだ。しかし、なぜ元恋人である女性に、陽介たちが引っ越してきた新居の住所が分かったのだろうか。咲子はその疑問を夫にぶつけた。
「実は先週、地元の仲間から連絡あって。『元カノのちぃちゃんが、俺の住所をどうしても知りたいって言うから教えちゃった』って、謝られたんだよな。だから、その話を聞いた時から、ひょっとしてあのときの通帳を本当に送ってくるんじゃないかって思ってたってわけ……」
ここまでの陽介の話に、どうやら嘘はなさそうだ。咲子は、ほんの数時間とはいえ、白い封筒の中身も確認しないままに夫の浮気を疑った自分を反省した。
「そっか〜! なーんだ。そういうことなのね!? 本当によかった! 陽介が浮気してるんじゃないかって心配で仕方なくて、頭がおかしくなりそうだったんだから!!」
不審な封筒の真相がわかり、さっきまでのモヤモヤした感情が嘘のように消え、すっかり心が晴れた咲子。どうやら今回の疑惑は、すべて取り越し苦労だったようだ。
「ねぇねぇ。じゃあ今、一緒にこれ開けてみよう……?」
いつものいたずらっぽい表情に戻った咲子は、陽介の隣に腰掛けた。ふたりで顔を見合わせると、思わずゲラゲラと笑い声が溢れた。
夫婦2人で手に入れた念願のスイートホーム。庭からリビングにそよぐ風が秋の訪れを告げていた――。
(完)
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