突然の電話
「つかぬことをお伺いしますが……」
猫店長「さぶ」率いる愛すべき我が花屋には、お客様から毎日のように“ちょっと困ってます”的な問い合わせがございます。この日はヘビーユーザー様から沈んだ声での電話でした。
お客様は先日、ご親戚が亡くなられ、故人に供える枕花を切り花でなく、胡蝶蘭の鉢花をお持ちになられました。そして、ご葬儀を終えたある日、お嫁さんからこのように言われたのだとか。
「枕花は“命短し”の花で良いのだから、胡蝶蘭じゃなくてもいいのよ。お義母さんには黙っておくからね」
胡蝶蘭って枕花で持っていっちゃいけなかったのか? と考えたら、なんだかモヤモヤしちゃって……からのご質問でした。うーん、そういう言われ方もどうなんだ? とも驚きましたが、お嫁さんが言いたかった次の言葉が思い浮かびますよー!
ワタクシはウン百回、お客様にご説明させていただいたでしょか。今回は「胡蝶蘭の鉢物はお祝いだけって誰が決めたの?」の解説でございます。
目から鱗の話から
ご葬儀や枕花などに供える花は、胡蝶蘭の鉢物ってアリ、っていうか、大アリでございます。「根付きの鉢物って『根付く』っていうからダメなんじゃない?」や「胡蝶蘭ってお祝いの花なんじゃないの?」って思ってらっしゃるアナタ。
まぁ25%ぐらいは合ってます。根付く問題は入院なさっている場合などに贈る際に考慮すべき話で、亡くなっている方には当てはまりません。
お祝いに贈る花というのも確かにそうですが、お悔やみの花としても胡蝶蘭は相応しいことをお伝えいたします。
ずいぶん昔、お得意様の寺から同じ宗派の住職が亡くなったので胡蝶蘭を届けてもらいたい、とご注文いただきました。
この手の胡蝶蘭の注文は初めてで、ワタクシも驚き、「大丈夫かな~」などと恐るおそるお届けしたのですが……。お届け先は「胡蝶蘭の品評会でもやっているのかぃ?」と思うほど、たくさんの胡蝶蘭の鉢物でお寺が埋まっておりましたw。
注文してくださったお寺の方いわく、「住職が亡くなったりすると、ものすごい数の花が届く。ありがたいのだけれど、切り花だと一日の大半がそのお世話で終わってしまう。胡蝶蘭の鉢物はお世話の心配がないし、鉢物はお供えしてはいけないわけではないので、今後、寺間のやりとりは鉢物が主流になるんじゃないかな」。
まさに目から鱗な話。言われてみれば確かにそうで、固定観念で物事決めちゃいかんぜよ! な話でございます。
それから10年ほど経ちましたが、地方や地域の違いはあるかもしれませんが、ワタクシの知る限りのお寺間でのやり取りは、胡蝶蘭の鉢物が主流に。一般のお客様も枕花をはじめとした葬儀・お悔やみ花に胡蝶蘭をチョイスなさるのは、当たり前になってまいりました。
もちろん、故人のイメージを反映しやすい切り花のアレンジメントや花束も大アリですが、亡くなってすぐのお供えで四十九日まで花を欠かすことができなかったり、日持ち問題に話が及ぶと「胡蝶蘭もアリですよ」とオススメするようにしております。
胡蝶蘭が比較的お求めやすい時代、「胡蝶蘭の鉢物はお祝い花」なる固定観念に凝り固まる必要はないのでございます。
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