そんなえりのボスのもとにはウワサを聞きつけ、今日も悩みを抱えた女性が、ふらりと立ち寄ったようですよ。
1. 生理前の眠気がひどすぎて、仕事でも彼ともうまくいかない
今回のご相談は、あゆみさん(34歳女性/仮名)からです。
「最近、生理前になると眠気が強すぎて、彼氏とのデートの約束をすっぽかしてしまって。しかも次の日は仕事も失敗して部長に怒られました。私はどうしたらいいのでしょう?」
あゆみさんは思いつめたように、えりのボスに相談します。
「眠気はどんな感じなの?」
「とにかく寝ても寝ても眠たくて。永遠に寝ていたいくらいの眠気です。仕事中も勝手に目が閉じていくほどで…」
「わかるわ。私も生理前になるといつも眠たかったの。布団から起きるのが毎月ツラいわよね」
「そうなんです。どうしてしっかり夜寝ても眠たくて仕方なくなるのでしょう?」
「原因はPMSによる過眠の可能性が高いわね」
あゆみさんは驚きを隠せない表情です。
「PMSは頭痛や腰痛、腹痛、イライラだけではないんですか?」
これは放っておけません!
2. PMSによる過眠は対応できる!
「PMSによる過眠の症状は、女性ホルモンであるプロゲステロンが原因よ」
「なぜ、女性ホルモンで眠くなるのですか?」
「プロゲステロンによって眠くなる理由は2つあるの。1つ目は体温を上げる作用よ。人のからだは体温が上昇すると眠気が生じるのだけど、排卵後にプロゲステロンの分泌量が増えると常に体温が高くなってメリハリがないから、睡眠の質も下がって日中も眠くなるとされているわ」
「なるほど、勉強になります! もう1つはなんでしょうか?」
「2つ目は、プロゲステロンが分解すると作られるアロプレグナノロンよ。睡眠の質を向上するとされるGABAの受容体にアロプレグナノロンが結合するの。結合すると、GABAが活性化して眠気を感じるようになるのよ」
「なるほど」
メモをしながら真剣にうなずくあゆみさんに、えりのボスはこう続けます。
「PMSによる眠気は、生理予定日の1週間前くらいからスタートして、生理が始まると徐々に収まっていくの。あゆみさんはどんな感じかしら?」
「私も、生理が始まると徐々に眠気が落ち着いてきますね」
「やはり、PMSの可能性が高いわね。対策方法もあるからしっかり伝えるわね」
「お願いします!」
3. PMSによる過眠の対策方法
PMSによる過眠の対策方法は4つ、あります。
3-1. 運動や日光浴で睡眠の質を上げよう
PMSの過眠を緩和させるためには、睡眠の質を上げることが大切です。PMSの眠気には夜の睡眠の質が低下することも原因の1つとして考えられているからです。
具体的には、朝起きたら日光浴をして体内時計を整えたり、日中に軽い運動をして疲労を与えたりするなどの方法があります。
3-2. 食事を見直して眠気対策をしよう
朝食でしっかりとタンパク質を摂取するとセロトニンが増加し、睡眠の質の向上や自律神経のバランスを整える効果が期待できます。
厳密にいうと、タンパク質を摂ることでセロトニンを作るトリプトファンを摂取できます。トリプトファンが多く含有されている食材は、大豆製品、乳製品、卵、赤身の魚などです。
いつもの朝ごはんに納豆やお味噌汁、ゆで卵などをプラスするといいでしょう。タンパク質に加えて適度な炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維をバランスよく摂ることが理想です。
とはいえ、朝はバタバタしている方が多いかと思います。そのような方は、食後の血糖値の急上昇を抑制する食物繊維をしっかり摂ることを意識するといいでしょう。
3-3. 血行をよくして交感神経の働きを活性化させよう
日中に眠気を感じたときは、ストレッチなどの軽い運動で血行をよくしましょう。眠気を感じているときは副交感神経の働きが活性化しているため、眠気を抑えるには交感神経を高める必要があります。
手軽に交感神経を高める方法は、ストレッチがあります。からだを動かすと刺激され交感神経が優位になり眠気が緩和されることがあります。
3-4. 過眠に悩む場合は漢方薬を試してみて
どうしてもつらい過眠の症状には、漢方薬を試すのもおすすめです。過眠に対しては「自律神経の乱れを整え、ストレスが原因の疲労や睡眠の質の低下を改善する」「血流をよくして中枢神経の機能を回復し、眠気を改善する」「栄養を全身に届けて、心とからだを元気にする」などの作用を含む漢方薬を選びます。
漢方薬は飲むだけですので、手軽に続けられるだけでなく、持ち運びも簡単なので毎日忙しいという方でも気軽に取り入れられるでしょう。
心とからだのバランスを整える漢方薬は、繰り返す不調や長引く不調に対して、根本からの改善にアプローチできるという特徴があります。そのため、生活習慣や食事の工夫などでは不調が改善しなかった方でも、効果が期待できます。
・加味逍遙散(かみしょうようさん):疲れやすく、イライラや気分の落ち込みがある方のPMS症状や不眠症に用いられます。自律神経に働きかけて生理に伴う不快な症状を和らげ、精神を安定させるため不眠の改善に役立ちます。
・酸棗仁湯(さんそうにんとう):体力が消耗して、心身が疲弊している方の神経症や不眠症に用いられます。不安を和らげ、眠りのリズムや睡眠の質を改善します。
ただし、漢方薬はその方の体質に合っていないとよい効果が見込めないだけでなく、思わぬ副作用が起こる場合もあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
4. PMSの過眠対策をして過ごしやすい生活を手に入れよう
「PMSの過眠症状は食事やストレッチなどで対策できるから、ぜひやってみてね!」
「はい! ありがとうございます! 早速実践していきます」
明るい表情をしたあゆみさんが答えます。
「また気になることがあったら、いつでもサロンへいらっしゃい」
優しい表情でサロンを去っていくあゆみさんを、えりのボスは笑顔で送り出しました。
★サロン「コクハク」のオーナー えりの
顔と口調は若いものの、年齢不詳。タヌキか妖怪の噂も囁かれる謎めいた主人だが、ココロやカラダ、健康に関する知識はズバ抜けており、何気にハイスペック。ムスメ時代に苦労してるため、自分より“後輩”の女にはしあわせになって欲しいと願っている。愛称は、えりのボス。
(漫画/腹肉ツヤ子)
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<この記事の監修者>
あんしん漢方薬剤師 中田 早苗(なかだ・さなえ)
デトックス体質改善・腸活・膣ケアサポート薬剤師・認定運動支援薬剤師。病院薬剤師を経て漢方薬局にて従事。症状を根本改善するための漢方の啓発やアドバイスを行う。健康・美容情報を発信するMedical Health -メディヘルス-youtubeチャンネルでは、お薬最適化薬剤師として「無駄な服薬はお財布と体の敵!」をモットーに薬の最適な選び方を解説する動画を公開中。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」でも薬剤師としてサポートを行う。
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