「私も、そんな風に思っていた時期、あったよ」
年子育児が大変なことは承知している。純粋な反応に違いないが、ブランクを一度で済ませるために、麗菜は〝あえて”そうしているのに。
保活において、この地では2子同時申請が加点やランク的にかなり有利であると聞いている。そうした上での戦略的な判断であるがゆえ、憐れまれる筋合いはなかった。
麗菜は相手を心配するふりで反抗した。
「晶子さんの方がむしろ大変じゃないですか? 一番上の子は10歳くらいですよね。それに、その赤ちゃん……」
「そうそう。高齢出産だし、金銭的にも体力的にも大変よ」
言い過ぎたかと過ったが、満面の笑み。晶子が鈍感でよかったと胸をなでおろした。
「いまお仕事はされているんですか?」
麗菜は、答えが分かり切っている質問を投げてみた。赤ちゃんを抱いているのだから、していないに決まっている。回答は、想定通り「いいえ」だった。
「私はこの子が生まれたら、すぐに復帰の予定なんです。しばらく時短になると思いますが、できる限り早めにフルで復帰しようと思います」
麗菜が分かり切った質問をしたのは、彼女に対する無念を当てつけたかったのかもしれない。案の定、晶子の目の色がよどむ。
「私も、そんな風に思っていた時期、あったよ」
先輩ママの言葉は「言い訳」にしか聞こえない
遠い目の晶子は、胸の上で眠る我が子をさすりながら、さらにつぶやいた。
「上の子が生まれたばかりの頃は、私もそのつもりだったな。でも、保育園に入れなくてね。結果的にはよかったと思う。第二子不妊だったし、コロナもあったから」
「大変でしたね」
バトルに勝利した如き爽快感を同情の言葉で装いながら、麗菜は心の中で彼女を軽蔑した。
――晶子さん。それは所詮、言い訳ですよ。
保育園はこの辺りであれば、選ばなければ供給も十分のはず。不妊治療だって、恐らく年齢的に時間がかかったのだから、もう少し早くから始めていればよかっただろう。晶子が結婚したのは20代の時だったと聞く。
コロナ禍も、むしろ結果的に在宅勤務が促進されたこともあり、働くママが受ける影響として悪いことばかりではない。なにより、何もせず愚痴ばかりの晶子にうんざりした。ため息も出ないくらいに。
晶子は愚痴るように、さらに続けた。
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