【赤羽の女・佐藤百恵48歳 #2】
学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らしている。そんな時、昔関係のあった男が亡くなったと訃報が入る。当時の友人二人と会いに行くが……。【前回はこちら】
◇ ◇ ◇
大野壮一の終の棲家は、都会の幹線道路から少し入った住宅街にある大きな一軒家だった。出迎えてくれたのは私たちより10歳以上年下の凛とした綺麗な女性だった。保育園児という小さな男の子もいた。
「結婚したのは知っていたけど…逆玉に乗っていたとはね」
彼の家の敷地を出た途端、詩織がつぶやいた。それはみなうっすら思っていたことだった。百恵も思わずそれに乗る。
「しかも奥さん、若っ! 何歳差よ。子どもも小さいところを見ると44から45歳の時の子? それまで相当フラフラしてたし、諦めで結婚した感がわかる」
「肝臓がん、っていうのもらしいよね」
生きている場所が違えど、それは平等に訪れる
長年会っていなかったからだろうか、彼の死が実感できないからだろうか、不謹慎な彼への嫌味が3人の中から湧き出た。
「奥さん、うちらにどういう感覚でハガキだしたんだろう」
「育ちよさそうだし、わざわざ年賀状を遡って一通り送ったんじゃない?」
実は、百恵、詩織、美鈴の3人は、共に同時期に壮一に想いを寄せていた。ドロドロしたものではない、ファンクラブの様なものだったが。
しかし、百恵が壮一と身体の関係を結んだこと、いわゆるぬけがけにより、壮一を中心とした歪な関係は終わりをつげた。大学卒業もあいまって、『わざわざ会う』関係から、『集まりの中にいたら会う』という関係になった。
「まあ私もこの前、乳がんで引っかかって。初期で何とかなったけど」
「え、詩織も大変だったね。でも、そういう年頃よね」
そんな適当な話題で場を繋いでいたら、代田橋駅に到着した。壮一の家から駅まで、よさげな店があったら入って休もうという空気があったが、よさげな店が何もなかった。
すると、詩織がつぶやいた。
「赤羽、行く? 百恵、今も赤羽暮らしなんだよね」
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