【赤羽の女・佐藤百恵48歳 #3】
学生時代から今に至るまで赤羽に20年住む百恵。非正規雇用、独身だが、行きつけのスナックが居場所となり、不自由なく暮らしている。そんな時、昔関係のあった男が亡くなったと訃報が入る。当時の友人二人と会いに行くが……。【前回はこちら】【初回はこちら】
◇ ◇ ◇
その夜、どんなにストロングゼロを煽っても、百恵は眠りにつけなかった。
死の恐怖が心理的にも物理的にも迫っているのに、身体に悪いことをしているのは、それだけまだ大丈夫だと思いたかったから。
――このまま、気持ちよく死んでしまった方がラクかも。
社保以外の保険に入っていないから、闘病するにも不安がある。心配もされたくない、ましてや実家にも帰りたくない。
結婚も、就職も、ことごとくあぶれて来たのに病気や死のターンだけは簡単に波に乗ることができる現実にやるせなさを感じる。
ふとその時。今は生きるよりも死ぬ方が最適解だと百恵は感じてしまった。思い付きで枕元の飲みかけのアルコールと買い置きの睡眠導入剤を交互に口に含む。しばらくすると、記憶が消えた。
48歳。相次ぐ友人の死。そして、百恵も…?
朝。
清々しいほど陽の光がまぶしさで百恵は目が覚めた。身体は超絶重いが、生きていることを実感した。
『百恵? どうしたの?』
スマホから声が聞こえてきていた。聞き慣れない声だ。
画面を見ると、通話時間は1時間を超えていた。声の主は詩織だった。どうやら、寝ている最中に寝返りで誤発信をしていたらしい。間違いだとはわかっていたようだが、壮絶な唸り声で心配してずっと呼び掛けていたようだ。
「ごめん、恥ずかしい所見せちゃって」
『よかった、大丈夫そうで』
大丈夫。
何の気ない言葉。だけど、今の百恵には重く響いた。
そういえば、詩織は「乳がんでひっかかった」と言っていたことを思い出した。以前、突き放したにもかかわらず、自分勝手だとはわかっている。
だけど、なんでもいい、百恵は人間の温度がほしかった。誰かに存在を確認してもらいたかった。
もしかしたら、数カ月後には、この世にいない可能性もあるのだから。
ライフスタイル 新着一覧

