「時代に挑んだ男」加納典明(41)「お篠は『宮沢りえを脱がせたぜ』って子供みたいな…」
【増田俊也 口述クロニクル】
作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。第1弾は写真家の加納典明氏です。
◇ ◇ ◇
増田「篠山紀信さんは宮沢りえさんのあのヌードを撮ったり、話題になる作品を多く残してますけど、それに対して典明さんはどう感じられていたんですか。以前も少しだけお聞きしましたが、もう少し詳しく」
加納「相変わらずお篠だなって感じ。宮沢りえというタイトルを彼は利用してるわけだよね、結果的に。そういうものを撮って、それだけの、要するに『誰も宮沢りえを脱がせたことないのに俺は脱がせたぜ』って、そういう意味で子供みたいな、いいところを持ってるわけだよ」
増田「そう読むわけですね」
加納「社会において俺はどう思われてるのか。社会にとって何をやったら1番俺は認められるのか、評判になるのか。そういう意識がこう、もう見え見えなんだよ、お篠ってのは」
増田「なるほど」
加納「それはそれで悪くないけど、結局は有名人を撮ったり有名人を脱がしたりっていうことに賭けて動くわけだよ。それはニュースになるし、メディアとしてはありがたい話なわけだから。でも俺は写真はそれとは違うと思ってるわけだ。俺の写真はね」
増田「すごくわかりやすいシノヤマキシン論です」
加納「もちろん彼は彼のやり方でいいわけだよ。そういう写真家もあっていいわけだし。その辺りは別に否定する気はない。ちゃんとした写真家だしね。でもあいつがもうちょっと自分を探して、違う写真を、例えば静物写真でもいいや、普通のヤツが撮らないような写真に突っ込んでったら、もっともっと面白かったのになと時々思うよ」
増田「実力は図抜けてるわけですからね」
加納「もちろん。技術も持ってるし、広告会社にいたからね。技術的基盤がしっかりしている」
増田「ライトパブリシティですね」
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加納「だから写真レベルは相当に高い。俺だって商品撮らしたら誰にも負けないけど、あいつはもっと凄いかもしれない。でも、そういう技術や精神を持ち合わせていながら評判になりたくてしょうがないんだよ。評判が大好きなんだよ。俺が言いたいのは、評判の質なんだよ」
増田「質ですか」
加納「なんて言うんだろう。みんなに受け入れられるとか、評判が高いとか、そういうのは興味ない。俺はもっと個性だけでいいっていうか、もっと偏ってていい。武士の日本刀と一緒で、カメラ一台あればいいやっていう感じで俺はいたいから」
増田「アラーキー(荒木経惟)さんはどうですか」
加納「荒木のいいところは自由人なんだよね。本人はこう、がんじがらめの自分になってんだろうけどね、割と。でも本質的に自由人なんだよ。彼も電通にいたけども、フリーランスになって見つけた世界っていうのは、非常に、なんちゅうんだろう、日常、コンテンポラリーなところの良さがある」
増田「写真には畳がよく映ってますね。畳の部屋で撮るヌードが多かったように記憶してます」
加納「うんうんうん。コンテンポラリーなスナップショットってのは、あいつはやっぱり巧みだよね。目を持ってるよね」
増田「3人のなかでは典明さんが一番若いですが、態度としては一番でかいですよね(笑)」
加納「そうかな(笑)。俺は俺という普通をしてるだけだよ」
増田「2人とも呼び捨てにするじゃないですか。彼らのほうが歳上なのに」
加納「それは親愛を込めてるからだよ。そこで何々さんなんてつけたくないんだよ。彼らを世間一般の商品みたいなかたちをしたくないんだよ。俺にとってはもっと大切なものだから」
(第42回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。
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