親に植えつけられた男性への警戒心が恥ずかしい
優紀さんの母親はいわゆる過干渉で、優紀さんの異性関係をくわしく聞きたがる人でした。高校のときに男性経験はありましたが、「責任を取ってくれない男性に体を許してはダメ」と母親に言われ、相手がきちんと避妊をしてくれなかったことを理由に別れたこともあります。
写真家の先生は独身だし、強引に連れこんだわけではなく、当たり前のような顔でカメラバッグを持ってホテルの中に入っていきました。優紀さんは、「これってセクハラなのでは?」という疑念と、「まだ撮影の続きがあるのかな?」という気持ちのあいだで迷いながら、部屋に入りました。
やさしい笑顔に不安と緊張も消えて
乱暴に腕でも引っぱられれば「やめて」と反射的に言葉が出ますが、平然と密室に入って行かれると、断ったり相手の気持ちを問いただしたりするキッカケを失ってしまいがちです。
セクハラや性犯罪の裁判で「彼女は拒否せずにホテルの部屋についてきた」と加害者が主張するのは、こういうケースが含まれているのではないでしょうか。困った顔をしている優紀さんにA氏はにっこり笑いかけ、髪に手を伸ばしてきました。
「シャワー浴びたほうがいいよ。山の植物でアレルギー起こしたら困るから」
いつのまにか髪についていた草の実を取ると、優紀さんにバスルームの場所を示して、A氏は自分だけ部屋に入っていきました。ベッドに誘われるのかと緊張しましたが、運転途中の休憩を取りたかっただけで、変なことをする意図はないのかも知れない……。
シャワーを浴びながら、優紀さんは疑り深い自分が恥ずかしくなりました。両親の潔癖な教育のせいで、男性に対する警戒心が強すぎるのだと思いました。男性の好意を、性的な下心かも……と不安になって拒絶し、彼氏ができかけてもうまくいかない……ということが過去に何度もあったのです。
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