三人でセックスをしているかのような不快感
ーーおつらいですね。続けてください。
「その夜は寝ようとしても、なかなか寝付けません。彼がベッドに入ってきて寄り添って寝てくれても、目をつぶるとあの忌々しいフェラチオの光景がよみがえってくるんです。
芸能界に限らず、どの業界でも多少の色恋は存在しますが、まさかGさんが師匠のカメラマンと……。
でも、そのことを彼に告げることはできません。
私たちの恋愛はうまくいっていました。セックスも……たっぷりと丁寧に愛撫してくれる。大切に扱われているのが分かるんです。
ただ、セックスの際は苦しかったです。私が彼のペニスをしゃぶったり、ヴァギナに挿入される際は、あの大御所カメラマンの顔がちらつきました。
同時に、おぞましいほど鳥肌が立ちました。愛する彼に抱かれている間、常にあの大御所カメラマンが亡霊のように付きまとってきて……まるで三人でセックスしているかのような不快さに包まれてしまうんです……」
リストカットは師匠への怒りもあった…?
ーー続けてください。
「不快感や嫌悪はぬぐえませんが、それもいつしか薄れていくのが分かりました。彼はセクハラの件にはいっさい触れず、以前のようなリストカットもしなくなり、私に今まで以上に優しく接してくれるようになったからです。
私自身も、彼が安心して過ごせるように言動や服装にも気をつけました。
彼に言われたように地味目の服を着て、一緒の時はなるべく笑顔を心掛けて……ただ、ふとした時、あのキッチンで『ちくしょう……ちくしょう』と泣きながらカッターで手首を切っていた光景がフラッシュバックする時もありました。
もしかしたら、あれは私にではなく、いえ……私だけではなく、師匠に対しての怒りもあったのではないかと思うようになって……」
ーーお気持ち、分かります。
「言いたいこと、訊きたいことはいっぱいです。でも、言葉にすると彼を失ってしまうのではないか……そんな不安が常にありました。
もし、師匠との肉体関係はあってもそれは『単にビジネス上のことかも』と割り切っている自分もいたり……。とにかく彼を失いたくない一心で、笑顔の仮面をかぶって過ごす日々が続きました。
それでも、彼が出張などで仕事で逢えない日が続くと、よからぬ妄想が膨らみますね。
あのフェラチオの光景がいくども脳裏をかすめ、私を苦しめるんです。
普通の人なら『信頼できる人に相談する』という選択肢もあったと思いますが、毒親育ちのせいか、万が一、彼の秘密が広まってしまったら……という恐怖もあるんです。
楽観的な人には、とうてい理解できないでしょうね」
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