では、トシキさんはなぜ自分の周囲に対して、妻のことを悪く言い続けているのでしょうか。
妻に非はないけど、ただ怖い!
「あー……、それはですねー……。ちょっとした事情があるんです」
“困ったな”という表情をしながら、口ごもるトシキさん。どうやら、妻のことを悪く言っている理由について、話しにくい事情があるようです。
「うーんと、こんなことを言うのは本人には悪いなって思うんですが、僕は奥さんが怖くて……。
怖いって言っても、妻が怒りっぽいとか冷たいとかはなくて、向こうは普通にしているだけだと思うんです。僕に意地悪をするってわけでもないですし。
えーっと……、妻はなんでもチャキチャキと片付けて要領が良い人なんですけど、僕は真逆のタイプなんですね。それで、妻と一緒にいると僕の劣等感がくすぐられると言うんですかね……、無言の圧をかけられている気持ちになるんですよ」
妻への劣等感が恐怖心に変わってしまった
結婚以来ずっと、自宅にいても心が休まらないと感じているトシキさん。妻が家事や仕事をきちんとこなす姿を目の当たりにするたびに、劣等感を抱いてきていて、やがてそれが「恐怖心」へと変わってしまったと悲しそうに話します。
「だから、誰かに家庭のことを聞かれても話せることもないから、“ウチのヨメは鬼嫁で”って話しているんです。そうすれば、多くの人はそれ以上のことは訊いてきませんから。
“鬼嫁”って言えば、だいたいの人は家庭がうまくいっていないのかなって察してくれるから、助かるんです。
実際、ウチはうまくいっているかと言えば、特に円満ってワケでもないと思いますし。娘がいるので、娘が成人するまでは離婚はしたくありませんが、生涯を通じて妻と一緒にいるのかと訊かれれば、自信がないですね……。
妻に対しては、こんな夫で申し訳ないなぁっていう気持ちはあるんです。でも、僕はやっぱり妻のように要領よくいろんなことができるわけでもないし、頭も悪いんで。ときどき、ものすごく今の環境から逃げ出したくなります。でも、逃げても何も変わらないって思うので、行動には移していないですけどね」
「結婚生活って難しい」
トシキさんは、今後も家庭生活が今よりも良くなる可能性は低いだろうと諦めているとのこと。ただ、妻に非があるわけでもなく、すべては自分の受け止め方の問題だと認識しているそうです。
「結婚生活って、思っていたよりもずっと難しいんですね……」とため息をつきながら話しているのが印象的でした。
◇ ◇ ◇
恋人同士であれ、夫婦であれ、100%同じ価値観を有する男女は稀です。ましてや交際前の男女となれば、なおのことです。少しのすれ違いが、大きな溝に発展することも少なくないのが異性間における現実でしょう。まさにこれこそが、男女関係における醍醐味にもなれば致命傷にもなる“冷酷と激情”のはざまなのかもしれません。
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