別れた後の反動が怖い…
――怖い……ですか?
「はい、怖さのほうが先立ちます。おそらく私たちはもう一度抱き合うでしょう。ダブル不倫という十字架を背負い、それでも抑えきれない欲望を抱えて、肌を重ね合うはずです。
彼の気持ちは分かりませんが、少なくとも私は『大人の男女の割り切った恋』とは言えない状態にあります
彼に抱かれている時は、どっぷりと幸せに浸れるものの、別れた後の反動が怖くて……あの夜、実家の布団の中で、声を殺して泣いたことが忘れられないんです。
急速にこみ上げてきた孤独感や、決して手に入らない彼への執着心……。自分の感情をうまくコントロールできるか不安で心配でたまらなくて……」
「彦星と織姫になりたい」に込められた願い
――お気持ち、分かります。
「でも、そんな不安などおくびにも出さずに、日々、家族のために食事を作り、家事をこなし、時々、医師の奥さま連中とランチをする自分がいて……。
ただ、自分の心の声を聞くと、やはりK君との8月の逢瀬が待ち遠しくて……」
――そうですよね。あれほど憧れていた彼ですから。
「ありがとうございます。ご存じですか? 北海道の七夕祭りは、七月七日ではなく、1カ月遅れて8月にあるんです」
――北海道の七夕は8月……。
「ええ、彼に逢ったら『私たち、彦星と織姫になりたいわ』って言ってみようかなと思っているんです。年に一度でも彼に逢えれば……そして存分に抱かれれば、私の人生もより充実したものになると感じてしまって……変でしょうか?」
――とんでもない、変じゃありませんよ。
筆者は純粋にそう答えたものの、通話口から聞こえるE子さんの声が、涙交じりになったのを聞き逃さなかった。
「いきなり電話をしてごめんなさい。K君から連絡があったことだけお伝えしたくて……。気持ちを切り替えて、これから家族の夕食の準備をしなくちゃ。じゃあ、また」
◇ ◇ ◇
――通話が切れた。声こそ明るかったが、彼女が鼻をすすったのが分かった。
禁断の果実を食べてしまったからこそ、予想外の風景が見えてしまう――それは彼女にとって困難な人生になるかもしれない。
得るものが大きい分、失うものも大きいだろう。
それでも、筆者は彼女の幸せを祈るばかりだ。
私は憂いを孕んだ微笑を浮かべる美しいE子さんを夢想した。
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