「偽善者か?」歌舞伎町の野良猫に2年間、毎日ご飯をあげ続けた男性の話

コクハク編集部
更新日:2023-07-28 06:00
投稿日:2023-07-28 06:00

文句しか言っていない“想いびと”の存在

「かわいくないんですよ~(笑)。『なんだよ』って文句しか言っていない。好き嫌いは多いし、忙しいときに限って、ご飯を食べてくれない。でも四六時中、考えていますね」

 これは付き合っている人に向けられた言葉、ではなく、元・野良猫の「たにゃ」(♂)に向けられたものです。

 現在「たにゃ」と暮らす男性は、新宿の歌舞伎町を中心に20年以上飲食業に関わってきました。インバウンドで賑わった2010年代後半は「これまでで一番景気がよかった」といいます。

「自分は仕事ができるんだと勘違いしていましたね」

 しかし、コロナ禍で状況は一変。歌舞伎町から人が消えてしまいました。男性は飲食店を継続させるため、金策に走ることとなります。

 ところが毎日、早朝から関係各所に挨拶に出向くも、そうそうお金を貸してはもらえません。

 すっかり肩を落として車を停めてある駐車場に戻ったとき、出会ったのが野良猫の「たにゃ」でした。

人の消えた歌舞伎町での出会い

 人の気配がせず、酔っぱらいの声も聞こえない。「たにゃ」にとって、おびえてものかげに身をひそめる必要のない時期でもあったのでしょう。

 じっとこちらを見つめる「たにゃ」。男性は仕事がうまくまわらず、精神的に追い詰められていたせいもあったのでしょう。それまで気にかけたこともなかった野良猫がふいに気になり、思わず声をかけました。

 こうして男性と「たにゃ」との駐車場での交流が始まったのです。

2年間一度も触れずにご飯をあげる生活

 男性は毎日、駐車場で「たにゃ」にご飯や水をやる生活を約2年間続けます。この間「たにゃ」は男性も一定の距離をとり、一度も触らせてくれません。

 男性は、野良猫である「たにゃ」の生き方を尊重したいと思う気持ちと、保護して清潔な自宅で暮らさせたほうがいいのでは? という思いの狭間で悩みます。

 せめて寝やすい環境を作ってあげたいと、男性は行動に出ます。

 古びた毛布を敷いてあげれば済みそうなものですが、「それではここに野良猫がいることが他の人にわかってしまう」と、藁を敷くことに決めました。

自宅の風呂に入ってビールを飲む自分はなんだ?

 その後は都内や近郊のホームセンターに電話をかけ、最終的に千葉県まで行って藁を購入したといいます。

 そこまでしても男性は、自分自身を責めずにいられなかったとこう話します。

「『たにゃ』にご飯をやった後、家に帰って風呂に入って、ビールを飲む。結局、自分はそういう薄情な人間なんだと。偽善者じゃないかと。『たにゃ』を思うなら、自分も外で寝ろよって」

 そして「たにゃ」と男性をつなぎとめていた駐車場が、取り壊されることに――。

 男性はついに「たにゃ」と共に生きる決意を固めますが、実際に暮らすようになるまでには、さらに1年間を要するのでした。

野良猫は人に懐かないところも魅力

 自身を「たにゃパパ」と名乗る男性と「たにゃ」とが少しずつ心を通わせていくさまはTwitterを通して拡散され、共感を呼びました。また、『歌舞伎町の野良猫「たにゃ」と僕』として書籍化され、この夏、発売されます。

 信頼しているけれど、甘えているわけではない。くっついているわけでもないけれど、いなくならないでほしい。

「たにゃ」と「たにゃパパ」は、そんな適度な距離感にあります。

「野良猫は、自分で考えて生きていくことが基本。人に懐かないこともまた魅力です」

「たにゃパパ」さんはそう語ります。そこには、まるで長年付き合った恋人同士のような関係性が築かれているようです。

(写真/『歌舞伎町の野良猫「たにゃ」と僕』より)

コクハク編集部
記事一覧
コクハクの記事を日々更新するアラサー&アラフォー男女。XInstagram のフォローよろしくお願いします!

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ぽっちゃり体型見て妊娠と断言するなんて…ドン引きした「親戚エピ」5選
 非常識な人を見ると「あんな風にはなりたくないな」と距離を置いたりするものですが、非常識なのが親戚となると話は別。身内と...
耳がちょっぴり痛いかも?「世間知らずの大人」がたどる怖~い末路
「自分は世間知らずだな」と最後に思ったのはいつですか? もしも思い出せないくらい昔なら、ちょっと自分の住む世界が狭くなっ...
最後に乗ったのは誰? 観覧車の思い出と窓の中に見えた夢
 最後に観覧車に乗ったのはいつだったろう?  かつては親にせがんだものだけれど、いつの間にか自分がその立場になって...
共働きなのに不公平! 妻の不満が爆発する「育児の負担割合」問題
 近年では、夫婦共働きの家庭が増えています。実際に、夫の稼ぎだけで生きていくのは難しい時代になったと感じる人は多いはず。...
もうプレゼント選びに迷わない! 40代女性が欲しいものテッパン5選
 欲しいものは、年齢によって変化するものです。だからこそ、プレゼントを贈る時には、年齢に合わせた好みがわからないと迷って...
「ChargeSPOT」活用で充電忘れてもブルー回避! 2023.8.31(木)
 外出先でスマホのバッテリーが切れそうでピンチ! だからと言ってモバイルバッテリーを常に持ち歩くのも重いし、荷物になりま...
猫が優勝! 鹿との“たまたま”脳内対決で「奇跡的可愛さ」を実感した報告
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
ガチとの線引きはどこ? 嫌われやすい「にわかファンあるある」6選
 スポーツ界やアイドル界には、多くのファンがいますよね。ファンについて最近よく言われるのが「にわかファン」の存在。ガチフ...
【花選びの新常識】高感度な人たちは「豪華すぎない切り花」が好き!?
 猛烈に暑い今夏。暑すぎて「切り花は日持ちがしない」という買い渋りの声はよく聞かれますが、それでも植物はなんだかよく売れ...
抱えきれない気持ちは外に出したほうがいい 2023.8.30(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
メンタルと財布を死守! 大人女性の「心が荒まない」節約術
 物価が上がり続け、日々の生活にかかるお金が増えていることを意識しつつも、生活の満足度は下げたくないのが大人世代。過剰な...
初対面でも距離感ゼロ民! ズカズカと踏み込んでくる“クセ強”LINE3選
 人は千差万別でいろいろな性格がありますが、初対面で戸惑ってしまうのが「距離感ゼロで近づいてくる人」。普通は少しずつ仲良...
彩どりの中の暮らし 2023.8.28(月)
 モノトーンを身に着けた若い女性。  これからたくさんのことを経験して、いろんな色を取り込んでいくのだろう。 ...
カメラマンの珠玉の1枚!台風一過の純白“たまたま”を見て♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
30代40代からでも「褒め上手」になれる?円滑な人間関係を構築するコツ
 あなたは人を褒めることが得意ですか? 「すごい!」と思っていても、どう伝えたらよいのか分からず、スルーしてしまう人もい...
【セリア&ダイソー】人気定番3品でイライラ激減! 2023.8.27(土)
 引っ越しをして生活環境が変わり、顔を洗うだけでも無駄に時間がかかり、とにかく鈍くさい。なぜかって? 洗顔フォームの定位...