「お母さんより長生きしてほしいな…」
婦人科がんを専門にしている先生は、これまでにたくさんのがん患者さんを診てきています。がんになったことで、女性が失う可能性があるもの――仕事、お金、趣味、恋人や夫、健やかな心と身体、そしていつかの未来に産まれたかもしれない子ども……。
これらのいくつかはきっと失われてしまうけど、それでも「がんにすべてを奪われてはいけない」というメッセージを、先生がくださったような気がしました。
「あ、刺激で出血しちゃうから、性交渉だけはだめね」
ちなみに出血していなければ性交渉はOKで、当然ながらがんは移りません。
この日はMRIやCTの正確な画像診断結果が出ておらず、がん転移の有無が不明でしたので遠隔転移がないという前提で、「手術は広汎子宮全摘手術、両卵巣も摘出。後日、診断結果を見て手術日程を決めましょう」ということで診察は終わりました。
病院を出て、母とカフェに寄ります。
「あの先生はいい先生って気がするな~。お母さんはこれは治るなって思った!」
「私も思った」
「お母さんがコクリコちゃんの病院に行くって言ったら、お父さんが『俺も頭痛いからこれから病院に行くのに……?』って言うのよ! どうやらついて来て欲しかったぽいのよ! 冗談じゃない。あの人、娘にやきもち焼いてるのよ!」
「……お父さん……」
「一人暮らしだと心配だし、入院まではうち(実家)に戻って、そこから会社に行く!?」
「いい。今の家にいる」
緊張が解けたのか、母はおしゃべりを続け、私はカフェラテをすすりなながら相槌を打ちます。その後、ふたりそろって最寄駅まで歩き、それぞれの家に帰るため、母と私は逆方面の電車に乗ることに。
別れ際、母が私の背中をさすりながら、「がんばるんだよ。とりあえずコクリコちゃんには、お母さんより長生きしてほしいな……」とつぶやきました。
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