#1 10代で絶頂期の30歳元アイドル、まだ終わらないと信じる女の日常

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2023-11-18 06:00
投稿日:2023-11-18 06:00

10代で人生の絶頂期を迎えた女の苦悩

 AKBやももクロなどのトップでもない、2流のアイドルグループ。その3番手メンバーなど、解散したら何の価値もない。……と言ったら言い過ぎかもしれないが、ファンは一気に去っていった。

 SNSの反応も、日を追うごとに減っていく。

 それ以上に、投稿する報告がなくなったことがつらかった。朝の挨拶や、何でもない日常を綴るという更新のやり方もあるが、活動予定がほとんどない現実と自分は向き合えなかった。SNSからも離れがちになった。

 結局、解散から1年ほどで事務所との個人契約も終了となった。

 他のメンバーは、アダルトビデオの類に出演したり、地下に潜りアイドル活動を続けているものもいる。

 センターポジションだった子だけは今でも引き続き事務所と契約は続いているようだが、現在の活躍状況は深夜ドラマに端役で出演しているのを時折見かけるくらいだ。

高校時代の彼氏と結婚、一般人に

 その中でも、自分は賢い方だと思う。

 事務所と契約終了してすぐ、活動中も密かに連絡を取り合っていた高校時代の彼氏と結婚したのだから。

『一般人』に戻ることに抵抗がなかった、と言えばうそになる。

 だが、いつ離れるかわからないファンをつなぎとめるために、ちっぽけなプライドを守るために、精神をすり減らして生きていくのはこれ以上耐えられなかった。

 当時、小さな新興の事務所から所属契約の話もあったが、麻美は確実に自分を好きでいてくれるひとりのものになることを選んだ。

 不安よりも安定を選択した、人間として普通の決断をしたまでである。

 だが、その安定的だったはずの愛も、鈴音を産んだ後から空気のようなものになっているのだけれど。

時給2000円、スマホの前が新たな仕事場

「さてと……」

 麻美は今日も鈴音を幼稚園に送り出した後、お迎えまでの空虚を埋める作業に入る。

 スーパー等でパートをしようかと考えたこともあるが、ここは400万人が住むという多摩地区の中でも一番大きな街である。

 万が一、かつてのファンが現在の自分に気づいたら……、僅かに残っているプライドが邪魔をする。

 だからこそ、微妙な自意識を存分に利用することにした。

 時給は約2000円。週に5回、10時から12時まで。メイクと加工を施したら、スマホの前が麻美の仕事場だ。

ある朝、いつもの配信に異変が…

「おまたせしましたー。おはよーございます。まみりんです」

 声は気怠さで満ちているが、その挨拶に視聴者たちは一斉に反応する。

「はるおくんおはよー、いちごちゃんおはよー、たっぷさんはじめまして」

 どちらかというと口下手な麻美であるが、友人のように話しかけてくる彼らの質問に答えたり独り言を繰り返すだけなので、2時間は十分持つ。

 加工のせいか、出産後増えたまま戻していないふっくらとした体形のせいだろうか、今のところ、フォロワーには自分が元アイドルの配信者だと気づかれていない。

 悲しくもあるが、麻美にとっては、それで十分だった。

 ただ、その時までは――。

#2へつづく:配信活動で気づいてしまった、抗えない麻美の欲望とは】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


塩対応に負けるな! “にゃんたま”君の思いが届きますように
 にゃんたマニアのみなさま、こんにちは。  きょうは、かわいいあの子ににゃんたまωをアピールするも、そっぽを向かれ...
キャッシュレス払いは賢く!クレジットカードとの付き合い方
 オリンピックが近づいていることや経済産業省の推進もあり、キャッシュレス決済が広く認知されることになりました。これまで現...
乳がん検診を思い出して「プリンセチア」は女性の味方です
「自分のオッパイが足りなくて、酷い目にあったわ」  ある日、ワタクシの知り合いが仕事の打ち合わせで会って早々、興奮...
シングルマザーが胸を痛める 子供の“パパへの憧れ”の解決策
 男女問題研究家の山崎世美子(せみこ)です。離婚は人生での大きな決断です。お互い好きになってくっつくのは簡単ですが、別れ...
コンビニにGO! 二日酔いの朝に摂るべき食べ物&飲み物6選
 ひどい二日酔いの朝、グロッキーな中で「もう二度と飲まない!」と決意した経験がある方は多いはず。でも、そんな人に限って、...
ほっこり幸せ…クリスマスプレゼントに“にゃんたま”はいかが
 もうすぐ楽しいクリスマス。  大好きなあの人に、気の利いたクリスマスプレゼントを考え中なら!  リンリンリ...
栄養士が教える! 冬に取り入れたい「温活食習慣」のススメ
 冷え込む日が増えて「冬がきた」と実感する日も多くなりましたね。芯から冷えた身体は、女性の大敵。日頃からしっかり温活をケ...
生活が楽しくなる! 介護士が案内する介護施設のメリット3つ
 介護施設について、「介護のプロが集まっているから大丈夫」と考えてもらえることは、私たち介護士にとってすごく嬉しいことで...
就職や結婚をしても 一生大切にした方がいい女友達の特徴3選
 女子の友人関係は環境で変わります。いえ、男女関わらず、環境によって友人は変わっていくものです。  例えば結婚する...
がんで子宮を全摘したアラフォー独身女が最優先していること
 私は42歳で子宮頸部腺がんステージ1Bを宣告された未婚女性、がんサバイバー2年生です(進級しました!)。がん告知はひと...
ほっこり癒される…愛すべきイマドキのおじさんあるある5選
 親戚のおじさんから、たまたま電車で隣に座ったおじさん、職場にいる上司がおじさん、etc……。身の回りには数えきれないほ...
“喧嘩するほど仲がいい”の落し穴…彼とラブラブでいるために
 付き合った当初はラブラブだったのに、気づくとあまり会えてなかったり、返信がそっけなかったり……。恋人との関係の継続って...
大事な“にゃんたま”を守って名誉の負傷…早く治るといいね
 きょうは、とっても立派なにゃんたまω!!! あっぱれ!  多くのにゃんたまωを撮影していても、このサイズのにゃん...
節約の敵!「ボーナスで衝動買い」やめたい時の4つの対処法
 節約する際、自分の金銭の使い道を見直すことってありますよね。その度、「なんで買ったんだろう」と思う不可解な買い物を後悔...
なぜ月経不順になるの?それって「多嚢胞性卵巣症候群」かも
 日本は不妊治療の件数は世界一なのに、体外受精で赤ちゃんが産まれる確率は最下位。そんな状況を変えるために、ミレニアル世代...
自宅派のあなたに…クリスマスディスプレイのオススメを紹介
 今年のクリスマス、あなたはどう過ごされますか? とあるネットリサーチ会社の統計では、近年ではクリスマスの過ごし方の定番...