千代田区民は“勝ち”だよね。通勤ラッシュを知らない自分は上流階級層の女

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-01-13 06:00
投稿日:2024-01-13 06:00

都会に暮らす自分に酔いしれる綾乃の居場所

――私って、社会のヒエラルキーの中ではどのくらいの位置にいるんだろう…。

 散歩がてら、現在の職場である大学病院へ向かう中で綾乃はぼんやり考える。自身に問いかけながらも、答えの予想はついているのだが。

 綾乃の世帯は、一般的にパワーカップルと呼ばれている。都会暮らし、持ち家持ち、夫婦ともに正社員で、世帯年収は1500万を余裕で越えている。

 そもそも、肌感覚で世間の勝ち組グループにいることは自覚している。

 この物価の高い時代の中でも、好きなものを買い、食べ、余暇には出費を気にせず旅行にも行けるのだから。

「鈴木さーん、ごきげんよう」

 本郷通りの坂を下っていると、子供が同じ知育教室に通う藤堂さんに車の中から声をかけられた。

「おはようございます、藤堂さん」

 彼女が運転するランボルギーニの助手席には、制服を着た息子の賢至くん。きっと幼稚園への送りの最中だろう。

 着飾っているわけではないが清楚で上品な身なり。彼女は綾乃を見つけるといつもわざわざ停車して、挨拶をしてくれる。

 一点の曇りもない穏やかな笑顔は、心の余裕に溢れていた。自分も同様の笑顔で彼女に頭を下げた。

住民に共通しているのは“余裕”

 この辺りの住民は、ベイエリアや武蔵小杉などのタワーマンション住民とは違う、独特の空気感があると綾乃は感じている。

 洗練されている、地に足がついている、とでもいうのだろうか。

 港区や渋谷区などの浮ついた雰囲気もない。だからといって成城や田園調布のようなお高くとまった雰囲気もない。地価が高いにもかかわらず、見栄で暮らす地域でもないので、地に足着いた富裕層が多い印象だ。

 同じマンションのご近所さんは、会社経営者、政治家のご家族、高齢の資産家のご隠居、芸能関係の人もいれば、孝憲のような大手企業勤務の会社員もいる。

 様々な種類の人が混在しているからなのか。似たような家族構成と所得者層がどんぐりの背比べでマウント合戦するような、下品な階級闘争とは無縁だ。

 共通しているのは、多くの意味での、余裕である。

 オフィスビルや学術機関などが立ち並ぶ無機質な街並みには見えるが、それぞれの空気感を漂わせた穏やかな時間が、暮らす住民の間には流れている。

親子レッスンの後は、恒例のランチ会へ

 毎週土曜日の午前中は4歳の娘、香那の知育教室がある。

「鈴木さん、もしよければ今日も私の家でランチでもいかがですか?」

「はい、ぜひ。お誘いありがとうございます」

 親子レッスンの後は、同じ教室に通うママ友とのランチ会が恒例だ。旦那さんが外資系コンサルティングファームに勤務する森さんと、実家で赤坂の料亭を営む佐橋さん、大学病院医師の妻である高柳さんが主なメンバー。

 先日の出勤の際にすれ違った藤堂さんは、彼女自身が多忙のことが多く、参加頻度は低い。だが、付き合いが悪いなどという陰口もない。余裕あるママ同士、お互いを尊重しあっているのだ。

確かめるまでもないハウスキーパーの存在

 森さんの家は、オフィス街の中心にある高層タワーレジデンスの28階にある。綾乃の家と同じ程度の広さの似たような3LDKの間取りだが、きちんと掃除や整理整頓がされた空間は、その裏にハウスキーパーの存在を感じさせる自宅だ。

「みなさん、お年賀にロウリーズのクラシックセットもらっちゃったから、そちらでもいいかしら?」

「あら、ローストビーフを頂けるんですか?」

「もちろん!」

「良かった。私もお義母様から頂いたテーベッカライを持ってきたので、食後にどうぞ」

「嬉しい。私、大好きなんです~」

 同じ価値観を持つ者同士で繰り広げる、等身大の会話に酔いしれる。

 綾乃の居場所は、確実にそこにあった。

#2へつづく:自身が勝ち組だと信じる綾乃が起こす、界隈間の歪み】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「投資額ゼロ円」でも効果絶大!仕事運UPのきっかけを作る5つの心がけ
 仕事で成功している人は、仕事のスキルだけでなく、目に見えない風水や運勢なども大切にしている場合が多いですよね。今回は、...
お豆腐メンタルでいいんです!独在住で学んだ天気とメンタルの深~い関係
 みなさんはメンタル不調が起きやすいシーズンや条件を、自分で把握できているでしょうか?  もしもイマイチよくわかってい...
40代女友達の誕生日どうする? デパコス以外に喜ばれる贈り物&過ごし方
 何歳になっても、誕生日をお祝いされるのは嬉しいものですよね。でも、自分が友達の誕生日祝いをしようとした時、「何すると友...
肉汁とチーズが♡ ガストで背徳モーニング!2023.6.15(木)
 一日の計は“朝ごはん”にあり――。今回は、ファミリーレストラン「ガスト」のモーニングに行ってきました。
お呼びじゃない? “たまたま”の胸キュンシーンにひょっこり
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
“イガイガ”の利用価値は∞!元気と金運を呼び込む「紅花(ベニバナ)」
 猫店長「さぶ」率いる我が愛すべき花屋が商売をさせていただいている地域にも、雨と仲良しにならなければならない季節になりま...
新宿立ちんぼ女性に異変…進む売春のフリーランス化、コスパと開業の裏側
 東京最大級の歓楽街・新宿では、昔から街を歩く男性に対し、女性が性交渉を含む売春を目的に声かけを行う「立ちんぼ」が存在し...
食べたいものを食べるって意外と難しい 2023.6.14(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
結婚5年子なしで不妊断定の過干渉にイラMAX!職場の深入りLINE3選
 あなたの周りには、人の「プライベート」に関する質問をズバズバ聞いてくる人はいますか? 人には「パーソナルスペース」があ...
「絶対いらない」便利グッズ5選 いいね! に乗っかり買っちゃったけど…
 100年前から比べると、時代はどんどん便利になっていますね! 今日も日本中で便利グッズが生み出されています。でも、中に...
ワイヤー矯正装着2週間、バゲット食らうコツを取得 2023.6.13(火)
「冷やし中華はじめました」の張り紙に心踊る今日この頃。「歯科矯正はじめました」の46歳女が、矯正中の食事について綴ります...
ポケモンカード強奪事件で私がとった行動 息子と上級生宅に乗り込むと…
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
尊い! カリカリタイム中の3つの“たまたま”が青空に映える~
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
ひとりでもふたりでも 夕暮れ時の過ごし方 2023.6.12(月)
 カップルもおひとりさまも、気持ちよく生きられる社会になったらいいな。  いま相手がいるからって、来年も一緒にいる...
「独身に飽きた」40代女の本音、不安の中でも日々を充実させる方法6つ
 40代で独身を貫く女性たち。充実して優雅な生活をしていそうなイメージですが、実は「独身に飽きた」と感じる人もいるようで...
「1年後の自分」はまるで別人かもしれない 2023.6.11(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...