東京駅に現れた“普通の男”に絶句。ハイスぺ男にはお預け喰らい…Wの不発

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-05-11 06:00
投稿日:2024-05-11 06:00

写真詐欺!? 35歳には見えない男に絶句…

 東京駅丸の内南口の朝9時。

 周辺のホテルラウンジもモーニングの時間であることから、わかりやすい改札口での待ち合わせとなった。

 ――まぁ、ドライブに行くってことだから…。

 相手は、写真で見ると笑顔の素敵な人だった。車で出てきてくれるということで、そのままドライブに流れる段取りだそうだ。

「こんにちは! 小島さんですか?」

「はじめまして、福田さん――」

 呼びかける明るい声に一筋の期待をもったものの、振り向いた先を見て、萌香は固まった。

「今日はよろしくお願いします!」

 弾けるような笑顔は想像通りだったものの、写真と違い、髪は明るい茶色に染められていた。その上なぜか、テカテカ光ったライダースジャケットを着ている。

 年齢は35歳のはず…。若者風の服装にもかかわらず、実際本物を前にすると目元のシワとたるみが目立つ。その差異がさらに彼の年齢感を引き立てた。

「小島萌香です。よろしくお願いします…」

 萌香は吐き出しそうな本音をのみこむのに必死だった。

“普通の人”じゃなかったの?

 そのまま駅舎からすぐのパーキングメーターに案内された。

 停めてあった福田の愛車は、至る所をカスタムした型落ちのレクサス。明らかにヤンキーが乗るような車だ。

 ――普通の人じゃ、なかったの?

 彼はドアを開けて、王子様のようにエスコートしてくれたが、外見とのギャップでその行為が怪しい詐欺師のように思えてしまった。

「…どうしたの?」

「まず確認したいのですが、今日はどこにドライブですか?」

「霞ヶ浦はどう?」

「霞ヶ浦って、茨城ですよね?」

「うん。俺の地元。東京タワーとか考えていたけど、東京在住の萌香さんが行ってもつまらないと思ってさぁ」

 いつの間にかのタメグチも気になったが、それ以上に身の危険を感じた。

いくら実業家でも実家暮らしは無理!

 福田のプロフィール上は地元で飲食店を経営する実業家だそう。そして、いまだ実家暮らしらしい。

 ――流れで地元の友人や両親を紹介され、囲まれてしまったら…。

 警戒心ゆえの嫌な予感がよぎる。こういうのは大体当たるものだ。

「ごめんなさい、遠出は体調的に難しいです。今日は気分が悪いので、またの機会によろしくお願いします」

 萌香は、動揺しながらもその直感を優先した。

 深く頭を下げたあと、男の声を背に一目散に走りだす。

「萌香さん!」

 背中に福田の声を聞きながら、ヒールと花柄のロングワンピースの女は行幸通りを必死の形相で駆け抜けた。

 そして――300メートルほど走っただろうか。東京駅の駅舎が望める広場にたどり着いた。

 萌香はその中心に座り込み、しばらく息を整える。

 心が落ち着いたところで、天を見上げた。5月の眩しいほどの青空だった。

 ――ああ、今日も時間と機会を無駄にしてしまった…。

 国崎に八つ当たりの連絡をする気も起きない。近くでは、ウエディングドレスを着た女性とタキシード姿の男が笑顔で立っていた。

 結婚式の前撮りだろうか。来月はジューンブライドだと気づく。

 萌香は華やかな道端の片隅で、ただただうなだれるのだった。


#3へつづく:普通って何? 担当の問いかけに萌香の価値観が揺らぎ始めて…】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


嘘吐きピンクローター
「知ったかぶり」という言葉がある。実際は知らないのに、知っているようなフリをすることだ。  知らなかったことを恥ず...
LINEで退職届は“フツーにある”と聞いてたが…辞めるの簡単すぎじゃね?
「退職する場合は1カ月前までに申し出ること」などと、会社ごとにルールが設けられている場合が多いですよね。でも最近は「今日...
友達褒めるはずが「シェイシェイのワンピ可愛い」で自滅…知ったか、恥っ
 人間誰しも知ったかぶりをしてしまった経験があるはず。知ったかぶりでその場を乗り切れるならいいものの、中にはボロが出て顔...
控えめな家族葬が200万ってマジ? 祖母急死で痛感!葬儀業者の“こっそり上乗せ”テク
 幼い頃に両親が離婚し母方の実家で暮らすことになりました。そんな筆者を優しく迎えてくれた祖母が2023年の11月に他界。...
2024-07-02 16:36 ライフスタイル
「楽しく暮らしています」“たまたま”が遠く離れた母上に一筆啓上
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
幸せの価値、そして――。
 家族親子恋人たちお年寄りも若者も桜に埋もれて過ごす時、人は皆幸せそうだ。  季節はもうすぐ梅雨――。
ほっこり癒し漫画/第74回「ヘルプみーこ」(中編)
【連載第74回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
今さら聞きにくい? 英語の新敬称「Mx.」や「X」って何
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
夫の胸ポケからキャバ名刺→子の刻に家出!?いいから落ち着けが止まらない
 LINEの文面だけでも、意外と「焦ってる」「取り乱してる」と分かるものですよね。今回は、そんな慌ただしいLINEを3つ...
すげえ!BoA完コピおじいに喝采。スナック常連の濃ゆいエピソード3選
 みなさんの職場には癒しキャラはいますか? スナックで働いているといろんな人を見るのですが、癒しキャラもとっても多いんで...
好きを仕事にしても「しんどい」よ。憧れだけではない現実との向き合い方
 キャリアについてよく聞くフレーズが「好きを仕事に」。確かに、好きなことでお金を稼げたら一挙両得! 幸せな毎日が送れそう...
「マタニティハイ」要注意! おブスな振る舞いが誰かを傷つける可能性も
「妊娠して幸せの絶頂です!」と感じている女性必見! 今回は、マタニティハイでやりがちなNG言動を4つ紹介します。  妊...
クネクネの正体はおとうさん!“たまたま”が真実を知った瞬間
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
【花屋実践】春から秋まで眼福♡ずぼら激推し良コスパの姫リョウブって?
 今年も自らの無計画さを後悔する季節がやってきました。  猫店長「さぶ」率いる我がお花屋の店横にある屋外LAB(「植物...
「ぼっち・ざ・ろっく!」のぼっちちゃんも仰天!承認欲求モンスター図鑑
 承認欲求は、人間であれば持っている自然な欲求。誰だって「自分の話を聞いて欲しい」「自分を認めて欲しい」と感じることがあ...
気まずい既読スルー後は演技力が命!《文章未完+矢印》で打ち途中を装う
 友達や知り合いからLINEが届いても、LINEの内容や忙しさによってはつい返信を後回しにしてしまいがち。そのまま忘れて...