東京駅に現れた“普通の男”に絶句。ハイスぺ男にはお預け喰らい…Wの不発

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-05-11 06:00
投稿日:2024-05-11 06:00

【東京駅の女・小島萌香29歳 #2】

 結婚を望み、婚活に励む萌香。週末はいつも東京駅周辺のホテルラウンジでお見合いに臨んでいる。だが、なかなかピンとくる男性は出会わない。“普通”の人でいい、そんな単純な条件にもかかわらず…。【前回はこちら

  ◇  ◇  ◇

「ええっと、もえさんですか? kentoです」

「はじめまして。もえです」

 土曜の昼下がり。

 待ち合わせ場所のいつも利用するホテルラウンジで萌香の目の前に現れたのは、見るからにスポーツマンといった厚い胸板の男性だった。

 白シャツの上にグレーのテーラードジャケットを羽織り、ツーブロックの髪型も清潔感がある。まさに仕事の出来るビジネスマンというところ。その通り、外資系保険会社の営業だそうだ。

 あれから萌香は、相談所からの紹介を一旦休むことにして、婚活系のマッチングアプリを始めてみた。

 アプリは初めてだったが、ひとまず胸を撫でおろす。

 ――最初からこっちで婚活しておけばよかった。

 相談所の男性より、男性の第一印象が雲泥の差だからだ。

「もえさんは本当によく笑いますね」

「そうですか? 実は緊張しているんですけど…」

 世間話だけで、あっという間に時間はすぎた。kentoさんは久々に、将来を共に歩む姿を想像できる相手だった。

 彼がお会計をしている間、夢見心地で萌香は次の段取りを考える。そして、席を立つ時、萌香は勇気を出してkentoさんに誘うような目線を送った。だが、返ってきたのは無情の言葉だった。

「じゃあ、僕はここで。実はこの後もアポがあるんです」

「え…」

「久々の休日なんですよ。今日はもえさん含めて3件ハシゴです。すぐ連絡しますね!」

 一点の曇りない瞳で微笑む彼に、萌香は何の反論もできなかった。

マッチングアプリは釣り合わない男ばかり

 ――次、次!!

 婚活では、複数の相手との同時進行や仮交際は当然とされている。だから彼は悪くはない。かといって当人に真正面から告げるのはどうかと思うが…。

 すぐ連絡すると言ったにもかかわらず、デート終了後5時間が経ってもkentoさんからのメッセージは来なかった。自分から送っても既読はつかない。

 その晩、萌香はマッチした男性に片っ端からメールを送信した。それは同時進行された悔しさを自分も同時進行することでチャラにするための行為だった。

 何の意味もないということはわかっている。だが、こうでもしなければ気が紛れないのだ。しかし…。

『明日の午後は大丈夫ですよ。ただ、待ち合わせが東京駅のホテルラウンジというのは緊張します。一駅行けばファミレスもあるのでそこはどうでしょう』

『ホテルラウンジ指定というところにヒキました。すんません』

『ヤエチカで軽く呑みませんか。今からでもいいっすよ』

 萌香にとって、自己肯定感が下がるような返信ばかりやってくる。

 今日の自分に後悔をしながら、萌香は枕に顔をうずめた。

相談所での新たな紹介。“北関東の男”に期待が膨らむ

「なるほど、そんなことが…」

「私にアプリは合わないみたいです。国崎さん、またよろしくお願いします」

 国崎はオンラインツールの画面の中で、悲しそうにほほ笑んだ。

「気軽に登録できる分、質や本気度もピンキリですからね。大丈夫です。また一緒に頑張りましょう」

「はい…」

 ハッキリとした目鼻立ちにシャーリーズ・セロンようなベリーショートの国崎は、キツそうな第一印象とは裏腹に、人の痛みに寄り添う温かさがある。

 時々、ポジティブすぎて話がかみ合わないところはあるが、イマイチな人を連続で紹介されても、担当変更を申し出ないのはそんな人柄だからだ。

「ではさっそく、ぜひご紹介したい人がいるんです。北関東にお住まいの方なのですが…」

「普通の人なら、誰でも構いません。結婚したら仕事も辞めますし」

「ありがとうございます。段取りしますね」

 国崎は柔らかい笑みで萌香を包む。希望が体中に充填された。

 話はトントン拍子に進み、翌週の土曜に東京駅で待ち合わせをすることになった。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ほっこり読み切り漫画/第60回「はじめましてウシオです」
【連載第60回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「しっぽ...
元チャゲアス・ASKAはナゾの投稿…身近な人が陰謀論を唱え始めたら?
 ミュージシャンのASKA(65)がSNSで最近、意味深な投稿を続けている。10月24日にはX(旧ツイッター)を更新し、...
見ず知らずの人に電車代を貸せる? 一生大切にしたい人が分かった話
 みなさんは人を信用しやすい方ですか? それとも疑い深い方ですか?  私はどちらかといえば後者で、人を簡単には信用で...
切り取られた街を見上げる 「もっと見たい」は人間の性かな
 ふと見上げたら、切り取られた街が隙間からのぞいていた。  これもチラリズムなのか。全体を見せられるよりも刺激され...
海外駐在妻の驚愕実態!閉鎖的な女のドロドロ、とかくママ友が面倒くさい
 海外駐在ママというと、どこか華やかで羨ましいイメージがありますよね。でも、中には、現地でのママ友との面倒くさい関係に疲...
パワハラ認定は回避を…叱り上手な人が実践するコツ5つ&間違った叱り方
 人を叱るというのは、意外と難しいものですよね。部下や後輩が失敗した時「ビシッと言ってやろう」と思いながらも、パワハラだ...
「俺を撮ってくれよ」な“たまたま”様、地を這うカメラマン冥利です
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
球根いつ仕込む?「秋」の今でしょ!植えっぱなしにオススメの花は7種類
 猫店長「さぶ」率いる我がお花屋は、神奈川の真ん中の片田舎で商売をさせていただいておりますが、今年も悩ましい秋でございま...
とことん落ちないと浮上できない 放っておいてあげる優しさ
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
「花屋前にいる」「どこ?どこにでもいる顔だから」実は傷つきLINE3選
 誰かの何気ない一言に深く心が傷ついた経験は誰しもあるはず。  相手の性格にもよりますが、ほとんどは相手に悪気がな...
お疲れ様はNG、お元気様はOKのナゼ…職場のうざいローカルルール5選
 社会一般ではない通じない「職場独特のローカルルール」が存在する会社って多いですよね。入社したての社員からすれば、ドン引...
青空に踏切の音が映える 季節は秋でも絶対に手放せないもの
 ここ数年ですっかり浸透したものに男性の日傘がある。 「男が日傘なんて」という謎の気負いも、死を覚悟する日差しには...
たまたまもゴロンと全開!幸せそうなにゃんたま様に昭和CMを思ふ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
中年のババア、もとい「中年女性」になった私たちへ
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
「聞いてよ!」「で、結論は?」せっかち君のLINEはタイパ重視ですって
 世の中には、1秒でも時間を節約したい「超せっかちな人」が存在します。なぜ生き急いでいるのかはわかりませんが、とにかく少...
#1 芸能界に執着する35歳女の密かな楽しみ。裏アカで吐き出す腹黒い本音
「いらっしゃい、シゲさん今日は早いんだね」  阿佐ヶ谷駅の北口の飲み屋街・スターロードにひっそりたたずむ小さなスナ...