【独自】すいかばか初の“夕方専用すいか”、気になる出来栄えは?

Koji Takano フォトグラファー
更新日:2024-08-03 14:15
投稿日:2024-07-12 06:00
 すいか生産量全国47位、ごくごくレアな山梨県ですいか作りに情熱を注ぐ「寿風土(こどぶきふうど)ファーム」代表の小林栄一さん(58)さん。
 彼のことを周囲は親しみとリスペクトの意を込めて、「すいかばか」と呼んでいる。すいかばかの“2024年夏の陣”を追う――。

すいかばか'24~究極のレシピを求めて#2

 6月末の白州。空は重そうな雲がのしかかり、早朝の空気は湿気を多く含んでいるが、都会とは違う涼しさも感じた。

「今年は蝉が鳴かないんですよねぇ」

 灰色の空を見上げ小林さんはどこか不安げな顔。例年なら5月末にはジージーとアブラゼミが鳴き、夕刻にヒグラシの声が聴こえてくる白州が、今も静かなままである。

「カエルも鳴かないし姿も見ないんですよ。何か大変なことが起こらないか、心配になりますよ」

【究極のレシピを求めて#1はこちら】⇒「寿風土ファーム」代表・小林栄一さんのある決意

  ◇  ◇  ◇

 数年から取り組み始め、今年は更に力を入れているのが、ホワイトコーンだ。すいかだけでも目が回りそうなのに、自分が食べたいから始めたと話すが、作ると決めたら手は抜かないのが「ばか」の性分。

おそらく日本で一番早いホワイトコーン!

 ホワイトコーンは、いわゆる黄色のものとは一緒に作れないという。半径500m以内に黄色があったら花粉が混ざり、マダラのコーンになってしまう。通常では黄色のトウモロコシの出荷を終えてから作られるため、「おそらく日本で一番早いホワイトコーンじゃないかと思いますよ!」と嬉しそうだ。

 すいかと同じ酒粕を肥料にした土で育てるトウモロコシ。味は保証付きだ。通常1本の樹から2、3本収穫するところを1本しか採らないこだわりよう。糖度22度を超える透明に近い白い粒はプチプチした触感で、たまらなくうまい。

「白蜜の甘極」に込めた思い

 毎朝5時に収穫したホワイトコーンは、「道の駅はくしゅう」の棚に並ぶ。ブランド化が大事と常日頃から唱えている通り、ホワイトコーンのネーミングにも、アイデアが満載だ。

「白蜜の甘極」と書いて、ヒミツノカノカンゴク。果たして客の心に響くネーミングかどうかはわからないが、“この甘さの虜になったら逃げられない”と言いたいそうだ。

 6月に入ると店頭に並び、7月に入ると終わってしまう限定品。静岡や県をまたいで買いに来るファンも増えてきたという。

すいか畑に“ある異変”が…

 すいか畑は蔦が伸び、葉っぱで覆われて隙間から緑の縞模様や黄色いすいかがちらちらと顔を出し始めた。

 順調に育っているようだが、葉の先が黄色く枯れている部分も見える。水不足の影響か。

 いつもはほとんどしない水撒きの作業も毎日のようにせざるを得ず、手間も経費も増えるばかりだ。気候変動はここ白州にも甚大な影響を与えているようだ。

「これまで梅雨っていうのはしとしとと雨が降り続き、水が土中にじわじわと沁み込み湿潤な良い土が生まれてきたんですよ。それが土砂降りの雨では沁み込む間もなくそのまま流れて行っちゃうんですよね」

 土に含まれる水分が寒暖差で朝霧となり、すいかを育てるが、近頃は朝でも地面が乾いたままの日もあるという。

 とはいえ、条件が悪くとも一度始めた挑戦を放り出すことはできない。肥料に酒粕使った土を採用し、新種のすいかの生産にも取り組んでいる。

夕方に食べると一番うまい「夕焼けのセレブ」

 朝の起床時、10時、12時、15時、食後に、あるいは24時間OKなどと、よりおいしくすいかを食べることができる推奨時間を品種ごとに設定し、打ち出してきたが、夕方だけ抜けていた。だが、今年は初めて、“夕方専用”の「夕焼けのセレブ」に挑んでいる。

 外方帰って真っ先に口にするすいかは、堪えられないうまさだが、実際に包丁を入れてみるまで、イメージした色と味わいになっているかは小林さん本人にもわからない。

 満足のいくものでなかったら、来年再び一からやり直しだ。期待と不安の中、絡まる蔦を整理し、品種ごとに交配させ、虫がつかないよう消毒をし、畑中に水を撒く。その合間には雑草を刈り、トンネルのビニールを外したり張ったりの作業もある。広い畑を歩き回り、日々やるべきことに明け暮れている。

2024年、すいかの初売りは明日7月13日

 すいかの初売りは明日、7月13日。気候変動に、新しい品種の夕焼けのセレブ。期待と不安の中、2024年のすいかばかの晴れ舞台がいよいよやってくる。

 作業を終えた夕暮れ時。少し明るさを残す空の下、カナカナとヒグラシの声が聴こえた。

「寿風土ファーム」
address:山梨県北杜市白州町台ヶ原615

Koji Takano
記事一覧
フォトグラファー
1963年神奈川県横須賀市生まれ。日芸写真学科卒業後、外国航路の船乗りとして世界を股にかけ、出版社勤務を経て、現在はフリーのフォトグラファーとして活動。近著は写真集「東京の風に漂う」(銀河出版)。
http://www.kojitakano.com/

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


【調香師直伝】汗かいても“爽やかフェロモン女子”!夏の疲れを癒す簡単手作りデオドラントスプレーも紹介
 汗をかく行為はフェロモン放出にとって重要ですが、汗自体のにおいがよくないとフェロモンを上手に活かせません。  本...
育休明けのモヤモヤがしんどい。先輩ママの体験談から紐解く3つの解決法
 育休明けのママたちは、職場復帰するにあたって多くのモヤモヤを感じているようです。子供と仕事と生活の間で、ベストな答えを...
透明ボードの下から失礼しますよ♡ 不思議&かわいい空飛ぶ“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
未来のような街の先に…
 未来のような街は、まるで先の見えないトンネルのよう。  その先にあるものは明るいものであってほしい。
ほっこり癒し漫画/第77回「もふもふサマー」
【連載第77回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、「コクハク」に登場! 「しっぽのお...
【難解女ことば】蒲魚、何て読む? 予測変換出てこない…
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
8年前に“ゆるFIRE”した男 新NISAより確実なリターンは自分への投資
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(64)。多忙な現役時代を経て、56歳...
母親は夢を諦めなきゃダメですか?夫を「支えてあげて」の言葉が悔しい
 かつて漫画家を目指していた夫婦の絵里奈と拓郎。双子の子供ができたことを機に、夢を諦め堅気の生活をしている。  夜...
浮気より酷い夫の裏切り SNSには私の知らない「もう1人の彼」がいた
 かつて漫画家を目指していた夫婦の絵里奈と拓郎。双子の子供ができたことを機に、夢を諦め堅気の生活を暮らしている。 ...
妊娠妻の電話に出ない…いまだ夢見る漫画家志望の夫とワンオペ妻の軋轢
 初夏の印象が霞むほどの汗ばむ陽気の午前中。  林絵里奈は井の頭公園の池のほとりのベンチに腰を掛け、在りし日のデー...
「晩ごはん何?」焼肉、すき焼き却下でもやし炒め! 家族間攻防LINE3戦
 仕事で疲れて帰宅した時、一番楽しみなのは晩ごはんですよね! とはいえ、主婦としては毎日の晩ごはんのメニューを考えるのも...
【ファミマ】コンビニ衣類正直レビュー、ショーパンゆる履きはOKだけど
 ファミリーマートとファセッタズム(FACETASM)のデザイナー落合宏理氏が共同開発した衣類「コンビニエンスウェア」。...
インフルエンサー退職願望のアラフォー、“発信=スキル”なる大きな勘違い
 普通の会社員を続けることに不安を感じる女性が増えています。周囲に自分の才能を活かして稼いでいるがいると、「自分も何か発...
職場やママ友“ケチな人”との付き合い方5選 1円単位で文句ブーブーは勘弁
「この飲み会、私はあまり飲んでないから、あなたたちが多めに払ってくれるよね?」「ここの料理、5,000円もするの? え〜...
背徳感がたまらにゃい♡ ガラステーブルの下から見る涼し気“たまたま”
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
夏場の観葉植物、様子が変!間違った育て方、救済法、最新便利グッズまで
 危険な暑さが続く夏。猫店長「さぶ」率いる我が愛すべきお花屋は古い平屋の建屋のため、エアコンをフル活用しても、毎日が熱中...