地味な女に負けた? 夢を諦めた“こたつライター”の「プライド」が砕かれるまで

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-10-12 06:00
投稿日:2024-10-12 06:00

地味な同級生がニュースになっていた理由は

 ――臥上玖美…文学部のゼミで同じだったような。

 確か大学で同級生だった。同じゼミで、海外のミステリー小説のマニアだった印象がある。

 話したことはあるが、どこか小賢しい部分があり、ノリも合わない地味な女の子だったため、静かに距離をとっていたコだ。

 気になって名前を検索すると、彼女がアマチュア向け投稿サイトで公開していた小説の数々がヒットした。

 受賞プロフィールによると、ネットで小説公開の傍ら、新聞社で校閲をしながら小説教室に通い、コツコツ投稿を続けていた模様だ。既にアマチュア向けの賞をいくつか受賞しているという。

 受賞作は、社会派の本格ミステリー。あらすじだけみても独創的で、素直に読みたくなってしまった。ジェンダー問題や格差社会に深く切り込んだことも評価されており、勿論、有名作家が述べる選評も絶賛ばかりだ。

 ――なるほどね…。

 目を通しながら、私は大学時代を思い返す。

私は「作家になりたい」と言えなかった

「小説家になりたいんです」

 ゼミの初顔合わせの際、玖美さんは教授に向かってそのように自己紹介をした。実は私も密かに同じ夢を持っていたが、胸を張って言い切る彼女への反発なのか、むしろ引いてしまい「趣味はカフェ巡り」と無難に濁した。

 一度だけ、ゼミ終わりに誘われてお茶をしたことがある。

 大学ラグビーで有名選手だった先輩・大輔と当時から交際していた私。玖美さんに「執筆している小説にラガーマンの登場人物を出したいからいろいろ聞いてみたい」と言われたから。

 軽い気持ちで受けたが、彼女からの質問項目がルールやラグビー界の現状など、あまりにも細かく、自分も答えられないことが多かった。結局、大輔の伝手で別の部員を紹介することになった。

アクセス1位でもどこか恥ずかしい

 …ただそれだけの、彼女との思い出。

 知り合いと自慢するのもおこがましい。

 だが、記憶は憂鬱と化して胸の重りとなった。

 気持ちを奮い立たせるため、アクセス数1位となった自身の記事「秋アニメ声優イケメン5選」を読み返した。

 こうやってサイト上で同級生と肩を並べることになるとは思っても見なかった。どこか恥ずかしい。その恥ずかしさの意味を有耶無耶にしたまま、記事にぶら下がった自分宛てのコメントに目をやる。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


3万のフレンチ? 1カ月の食費ですけどー!心で泣いた“女子飲み”の誘い
 仲良くしている友達や、恋愛対象として見ていた人との会話で「私とは住む世界が違う……」と感じた経験はありませんか? 今回...
【45歳からの歯科矯正】歯科矯正の洗礼か! 頬がこけ、そして便秘に…
 総費用160万円かけてワイヤー矯正(表側)に踏み切った“40代半ば婦人”の歯科矯正ほぼほぼリアタイ体験談です。  今...
男性用のレース下着って知ってる?トム・クルーズと極道の「色気」の正体
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
やっぱりハブられてる? 飲み会に自分だけ誘われない理由と3つの対処法
 自分は仲良しだと思っていたグループで、自分以外のメンバーが飲み会をしていた…… なんてことが発覚したら、かなりショック...
察知できないから危険でヤバい!「ステルス地雷系の競わせ屋」の罠こわっ
 みなさんの周りには、どんなヤバい人がいますか? あ、いると決めつけてすみません……。でも正直、「この人、ヤバいな」とす...
縦も横もななめも…直線だけで造られた街の違和感と落ち着き
「なんだか不思議な風景だな」とファインダーを覗いたら、その理由に気がついた。  縦も横もななめも、すべて直線だけで...
私は佳代だよ、レイちゃんってかすりもしねえ! 関係が終わった決定打!!
 仲良しの女友達や意中の彼からのLINEでも、幻滅したり、縁を切りたいと思ったりすることはありますよね。  今回は...
40女スーパー銭湯でととのえず、ぴーちくぱーちくな先客にモヤった話
 スーパー銭湯が好きです。週末のランニングがてら、あちこちの施設に出向いております。広い湯船にざっばーん! からの~、サ...
まるで御神体のよう! 美しく雄々しい“たまたま”に幸せを祈ります…
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
どれくらい実践してますか? 家でできる環境にいいこと「7つの習慣」
 子供たちに限りある資源を残すためには、私たちの日々の努力が欠かせません。今回は、みんなが普段心がけている環境にいいこと...
胡蝶蘭はお祝い専用? 寺の住職から聞いた「お悔やみ花」としての需要
「つかぬことをお伺いしますが……」  猫店長「さぶ」率いる愛すべき我が花屋には、お客様から毎日のように“ちょっと困...
台無しなんですけど!家族旅行なのに「夫のイライラ言動」と4つの予防策
 世の女性の中には、せっかくの家族旅行中、「夫のイライラする言動」によって、楽しい雰囲気が台無しになってしまうケースも…...
“頑張り屋のメンヘラ”が「セルフラブ」という人生の処方箋を知りました
「セルフラブ」という考え方は、確実に私の人生に大きな影響を及ぼしています。  セルフラブについて学び始めた時「世界...
【にわか呑み鉄】電車とビール好きにたまらない「流鉄BEER電車」に参戦
 さる9月2日(土)、千葉県流山市で「電車好き」と「ビール好き」垂涎の1日限りのイベントが開催されました。  通常は入...
かつて入り浸った店も 横丁の思い出も時代と共に変わってゆく
 昼間の細い路地を軽装の観光客が闊歩する。  誰かにとってはノスタルジーでも、また違う誰かにとっては新鮮に映るんだ...
にゃんたま写真の成立には“たまたま”への愛のピントがマスト
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...