言われたくない! ただのオジサンになった「元彼からの一言」に怒りが…

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-11-09 06:00
投稿日:2024-11-09 06:00

少しだけ「あの頃」を思い出す

 梅が丘にある小さなアパートで、TSUTAYAで借りた映画を21インチのテレビデオに映し出し、同じ方向をまっすぐ見ていた頃を思い出す。今もまた、共に子供のいる方向をぼんやり眺めているのは共通している。

 銀二のひとり語りによると彼の妻は商社に勤めるキャリアウーマンという。飲み屋で知り合い、強引なアプローチに流されるまま結婚したそう。銀二は今、旅行会社で働く営業マンだそう。

「ああ、だから…」

「そう土日出勤が多いから、今日は休みでチビのお守り。ねえ、凛ちゃんの着ているアンパンマンのズボンいいね。どこで買ったの?」

「ホームズの西松屋だけど」

「へぇ、今度見てみるか。うちの息子もアンパンマン好きでさ」

「でも、サイズがね――」

 と言ったところで、真央は口を噤(つぐ)んだ。

「真央はずいぶん落ち着いたよね」

 これ以上、会話を続けたくなかった。掘り下げたい部分はあったものの、知りたくない思いが勝った。

「…どうした?」

 整えられた短髪に、綺麗に剃ってあるヒゲ、クロコダイルのワンポイントが入った長袖のポロシャツは、今の銀二にピッタリと似合っている。

「武が…小学生の息子が帰ってくるから、そろそろ」

「へぇ、お兄さんは、武くんっていうんだ。実はさーうちのチビ、礼音(れおん)っていうんだよねー」

「そう。じゃあまた」

 なぜかテンションが高くなった銀二を適当にあしらって、真央は凛の手を取り出口に急いだ。すると、思いもよらない言葉が背中を突き刺した。

「でもさぁ、今日はびっくりしたよ。真央はずいぶん落ち着いたよね」

 あの短い間に、凛は礼音くんとだいぶ仲良くなったようだ。

 礼音くんの名残惜しそうな「リンちゃんまたね」という声が、キッズルームの奥から聞こえてきた。

#3へつづく:お互いの「子どもの共通点」に愕然。平凡になったのは元彼と私、どっち?】

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


世界的にフラワーバレンタインが来てる!愛の告白より感謝を伝える日に
 立春(2月4日)を迎え、暦の上では春。ですが、この記事を書いている最中にもテレビ画面には「本日関東地方は雪」ニュースが...
入籍お知らせで赤っ恥!させていただきますはダメ、巷でよく聞く変な敬語
 日本語って本当に難しいですよね! 中でも、日本人ですら間違えてしまうのが、敬語です。    案外、正解を知っている...
飛び立つのは怖いけど…いくつになっても思い切りって大事
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
“万年毛玉ジャージ”のママ友ん家がレベチ!良くも悪くもドン引きしたエピ
 人は見かけでは判断できません。特に、相手の本当の部分が垣間見えるのが「家の中」です。  いつも綺麗な人なのに家がすご...
朝寝坊にイチャイチャバレ…夫の実家に帰省した時の“珍”失敗談4つ
 結婚すると、長期休みや年末年始に夫の実家に帰省する人が多いですよね。そして、夫の実家への帰省中に、夫の家族から引かれる...
発達障害児の長男 児童精神科で勧められた「プレイセラピー」を受けたら
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
ちょいワルと見せかけて…実はおしゃべりな“たまたま”にキュン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
鉄橋の間をゴーゴーと風が通ってゆく…ここは夢と現実の境目
 鉄橋の間をゴーゴーと風が通ってゆく。眼を閉じて、橋と共に吹き飛ばされる自分を想像してビクッとする。  と思ったら...
太陽のように明るく!「娼」の成り立ち、知っていますか
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ソロウエディングってなに? 痛いとは限らない意外なメリットと注意点
 最近流行っている「ソロウェディング」をご存知ですか? ソロウェディングは、一人で結婚式を挙げたり、ドレスを着たウェディ...
中途入社ちゃん「ご迷惑では ご都合は ご連絡は」接客AIか?気遣いすぎ
 人への気遣いは大切。まったく気を遣わなければ、ギクシャクしたり口論になったりするため、最低限の気遣いは必要でしょう。 ...
新しいことに挑戦してみよう! 40代からのおすすめ習い事6選
 40代になって、「何か新しいことに挑戦したい」と感じる人は多いようです。でも、いざ習い事を探してみると、たくさん種類が...
眼内コンタクトレンズ「ICL」装着で視力0.1→2.0!最も感動した景色は
 小学生から分厚いメガネをかけていたド近眼人生ですが、37歳で思い切ってICL(眼内コンタクトレンズ)の治療を受け視力が...
【失敗談】人とモメないために重要なのは我慢よりも確認!
 みなさんは人と意見が違ったら、「まあ私が我慢すればいいか」と思うタイプですか?  私はずっと我慢するスタイルで生き...
今すぐやめたい40代のやばい口癖 ネガティブな言葉で人生ダメになる?
 口癖は、なかなか自分では気がつかないものですよね。ポジティブで前向きな口癖ならいいのですが、中にはネガティブすぎてやば...
「空」と「海」と「風」と…すべてが揃った特別な場所
「空」と「海」と「風」と…すべてが揃った特別な場所。  あの電車から、あのヨットからはどんな景色が見えるんだろう?...