モブキャラ自認の23歳が「パパ活」に落ちるまで。50万円のヴァンクリに「興味ない」は言い訳?

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2024-12-14 06:00
投稿日:2024-12-14 06:00

【恵比寿の女・山本 晴乃23歳 #1】

「倉持様、こちらでお待ちいただけますか」

 恵比寿から徒歩5分。山手通り沿いのビルにある美容整体サロン。受付の山本晴乃は、来店した倉持まひなに穏やかにほほ笑んだ。

「…はぁーい」

 まひなは手元のスマホに目を留めたまま、無言でLady Diorを晴乃に差し出す。待合ロビーの猫足ソファに当たり前のように腰を下ろし、すらりと伸びた脚をおもむろに組んだ。

 艶めくロングヘアをかき上げながら、気怠そうにLINEを打つまひな。耳元には、クローバーを象ったピアスが揺れていた。

 ――また違うピアス。ヴァンクリだけでいくつ持っているんだろう…。

 自分と目が合わないことをいいことに、晴乃は彼女をまじまじと見つめる。年齢は23歳。お客様カルテに職業は会社員と書いてある。

 ロエベの財布から覗く社員証を見るに、偽りではないだろう。ただ、何かしらの「副業」を営んでいることはゆうに想像できる。

 このあと、顧客である年上男性に会いに、麻布や六本木界隈に繰り出すのだろうか――。

私は「姫」に使える召使いみたいだ

「ねぇ、まだ? ボーっとしてるんなら早く通してよ」

 晴乃の視線に気づいたのか、まひなは不機嫌そうにつぶやいた。

「申し訳ございません。前のお客様がいらっしゃいますのでお時間通りのご案内となります」

 うっすらと舌打ちが聞こえた。眉間にしわを寄せているが、それでもまひなはとても美しかった。

 このサロンで行う小顔フェイシャルエステの料金は1時間で4万円。カイロプラクティックも取り入れた美顔施術だ。晴乃の1カ月の食費と同じ料金であるが、それ相応の価値と効果がある。

 現に常連客の彼女はこんなに輝いているのだから。

「――あのさ、喉乾いた」

 まひなの低い声が小さなロビーに響く。施術前のお客様にお茶は基本出していないが、お姫様の機嫌を損ねぬよう晴乃は慌ててお茶を淹れ、彼女の前に跪いた。

「お時間になりましたらお呼びいたします。ごゆっくりどうぞ」

「…」

 同じ恵比寿という華やかな場所に立つ、同じ年齢のふたり。

 だけど、晴乃はまひなの物語のモブキャラ未満の存在である。彼女の日常を進めるためのエキストラにすぎない。

 晴乃はそれを十分理解している、まひなは別世界の人物…の、はずだった。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


通り過ぎた季節、むせかえるほど深い秋景色の中を歩いた
 何層にも重なった、むせかえるほど深い秋景色。  通り過ぎた季節を想うとやたらと切なくなるのはなぜだろう。 ...
【45歳からの歯科矯正】医療費控除の手続き、確定申告で役に立つアレ
【これまでのお話し】 45歳で歯科矯正を始めようと思ったワケ(#1)/45歳女、5年越しにワイヤー矯正を決断!(#...
ほっこり癒し漫画/第67回「おかえり銀ちゃん」
【連載第67回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「しっぽ...
私「あ、大丈夫よ?」勘違い女「なんとか調整する」いや誘ってないから!
 自意識過剰だったり、自分に自信があったりする女は“勘違い女”になりがち。そんな女性からのLINEには、思わず「いやいや...
ペラペラさが逆に良い!100円均一のトラベルグッズが海外旅行で重宝した
 コロナが落ち着いて旅行する機会が増えた方も多いのではないでしょうか。  トラベルグッズを買い揃えるために100...
ババア(婆)と言われ、架空の48歳妹になりすました73歳女に思うこと
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
ミス日本は不要? 開催意義と椎野カロリーナ不倫発覚で“分不相応”の根拠
「ミス日本コンテスト2024」に選ばれたウクライナ出身のモデル・椎野カロリーナさん(26)が2月5日、グランプリを辞退し...
2024-02-10 06:00 ライフスタイル
酒豪の友達を持った宿命? 飲み会で「割り勘負け」を防ぐ6つの賢い方法
 友達との飲み会は楽しいけれど、気になってしまうのが大酒飲みとの割り勘。お酒を飲まない人なら、会計時に「ソフトドリンク1...
“子供部屋”を出てチヤホヤされて 36歳女性が勘違いから気づいた現在地
 西荻窪の実家で母親と2人で暮らし、工場でパート勤務をしているかおり。平坦な毎日だったが何気なくインスタに投稿していたシ...
工場での単純作業は悪くないが…恋愛経験ゼロの女に起きた“タグ付け事件”
 西荻窪の実家で母親の信美と2人で暮らし、工場でパート勤務をしているかおり。彼女は今の生活に特別な不満もなく、趣味のカフ...
私は子供部屋おばさん?彼氏ナシ・非正規でもシフォンケーキで満ちる日常
 工場内に終業のチャイムが鳴った。  機械の停止音とともに「お疲れさまでした」が飛び交う。  同じロゴの入っ...
蛙化現象わかったフリしてない?恋愛中でもどこか冷静な若者のリスク管理
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
うんざりするけども!目上の人の苦労話は“秒”で遮断するのはもったいない
「今の人は恵まれてる、昔はさ~」から始まる目上の人の苦労話、みなさんもうんざりするほど聞いてますよね。  その苦労話で...
台湾最高!くまのプーさん気分も味わえる「40女激オシ台湾産ビール」3種
 仕事の後のビールは、全てを忘れさせてくれる大切な存在。そんな1日の終わりに飲む1杯にはこだわりたいですよね。  そこ...
2024-03-07 18:25 ライフスタイル
戦うべき相手は過去の自分 時には昇ってきた階段を振り返る
 時には昇ってきた階段を振り返る。ずいぶんと上がった、と誇りに思うこともあるし、まだこんなところか…と凹むことも。 ...
親を嫌いになってもええやん? 40女が手放せた“無理と我慢”
 早いものでもう2月。新年をきっかけに、今年こそは! と決意を新たにした方も多いのではないでしょうか。  筆者もそのう...