草彅剛、ジェシーらは「演技が下手」なのか? 棒読み俳優がドラマで重宝される理由を解説

小政りょう ライター
更新日:2024-12-10 06:00
投稿日:2024-12-10 06:00

「棒読み」だからこそ心に響く理由とは

 西島秀俊さんの『ドライブ・マイ・カー』や東出昌大さんの『寝ても覚めても』で知られる濱口竜介監督も、まずは出演者たちで「感情を排除した本読み」をくりかえして、セリフを自分のものとしていく演出方法をとっているそうです。

 濱口監督作品は、ストーリーの展開より、登場人物の心の機敏を訴えるような作品が多いです。繊細な感情の変化を大事にしているからこそ、たとえ棒読みに聞こえようともリアルなセリフ回しが重要になってくる。それが狙い通り観客にも伝わっているから映画としての評価も高いのでしょう。

 映画の中の素晴らしいセリフも、棒読みである=役者の言い方に余計な装飾がないことによって、観客の心に言葉そのものを刻ませることに成功しています。

 NHKの朝の連続テレビ小説『あまちゃん』で鮮烈な印象を残した福士蒼汰さんは、デビュー当時はそこまで棒演技だとは言われていませんでした。それは、抑揚のない喋り方が、東北地方のイントネーションにバッチリハマっていたからだと思われます。

 また、草彅剛さんの『ブギウギ』での羽鳥役が好評だったのも、その平坦な喋り方が前述の小津映画をはじめとする「昭和の映画の喋り方」のようで、昭和期の雰囲気に合っていたからと個人的には考えます。

抑揚のない言い回しを求められる

 棒演技と呼ばれがちな抑揚のないセリフ回しは、監督の演出だけでなく、作品の内容によっても求められています。

 たとえば、難解で説明が多く必要な事件ものや法廷ものの作品で、説明役を担う役者は、今後の展開に繋がる情報をわかりやすく受け手に伝えることが重要視されているため、感情を込めた演技の必要はありません。感情を込めると内容が逆に伝わりにくくなるからです。

 また、平坦な話し方をすることで、語る内容や語り手そのものが謎めき、ストーリーへのさらなる興味も引き寄せられます。

棒読み=演技が下手ではない

 なので、棒読みだから演技が下手、ではないのです。ジェシーさんの演技も『モンスター』の内容が緻密な法廷ドラマだからこそ、情報を伝える語り手として適しているのではないかと筆者は考えます。

「棒読みすぎて気になってしまう」という意見の理由を探すとすれば、趣里さんや宇野正平さん、古田新太さんなどの名優に囲まれ、経験が少ないゆえの未熟さが際立っているだけではないでしょうか。

 ジェシーさんも、モデルやアイドル活動だけでなく、演技の経験を積んで、このセリフ回しが味になるくらいの活躍を期待します。

小政りょう
記事一覧
ライター
映画・テレビの制作会社等に出入りもするライター。趣味は陸上競技観戦

関連キーワード

エンタメ 新着一覧


寅子の同級生・崔香淑が「香子ちゃん」として出現!気になるのは…
 家事審判所と少年審判所の合併の話し合いはまったく進展しない。しかし多岐川(滝藤賢一)には今一つやる気が感じられない。 ...
桧山珠美 2024-06-12 16:00 エンタメ
渡部建を“腫れ物”扱いするテレビは古い! めちゃ美味しい“食材”なのに
 2020年6月に複数の女性との不倫スキャンダルが勃発し、活動自粛していたアンジャッシュ・渡部建。活動再開後、徐々にメデ...
堺屋大地 2024-06-12 06:00 エンタメ
太陽とシスコムーンとの共通点にザワッ Z世代に人気のIS:SUEがたまらん
 6月7日、太陽とシスコムーンの楽曲がサブスク解禁され、40代を中心としたお祭り状態になっていましたね。懐かしすぎて私も...
よねと轟の新「相棒」爆誕!男と女“くっつく思考”に冷や水を浴びせた
 花岡(岩田剛典)が違法である闇市の食べものを一切拒否して栄養失調で亡くなったと聞き、衝撃を受ける寅子(伊藤沙莉)。花岡...
桧山珠美 2024-06-10 16:20 エンタメ
“マッチ先輩”近藤真彦がうたコン降臨!ヤンチャ返上?謙虚な発言に驚き
 4日放送のNHK「うたコン」は「作曲家 筒美京平特集」。尾崎紀世彦「また逢う日まで」、太田裕美「木綿のハンカチーフ」、...
花岡死す「栄養失調で死亡」見出しの衝撃…“甘党男子”桂場は和洋イケる口
 穂高(小林薫)は法の道へ導いて不幸にしたと寅子(伊藤沙莉)に謝罪し、新しい仕事を紹介すると言い出す。しかし寅子はむしろ...
桧山珠美 2024-06-07 15:30 エンタメ
公園ランチの約束は叶うのか? 花岡の“しょんぼり言動”が不穏すぎる
 ホーナー(ブレイク・クロフォード)から子供たちにとチョコレートをもらった寅子(伊藤沙莉)は、公園で花岡(岩田剛典)に再...
桧山珠美 2024-06-06 17:00 エンタメ
いよいよ裁判官編。NHK制作陣の遊び心、8時14分過ぎに見たり
 昭和22年3月。新しい日本の憲法に希望を見出した寅子(伊藤沙莉)が向かったのは法曹会館。そこには空襲で被害を受けた司法...
桧山珠美 2024-06-03 16:05 エンタメ
「虎に翼」お宝物件!三山凌輝はピアスにアクセジャラジャラの“チャラ”男
 先週のNHK朝ドラ「虎に翼」第9週「男は度胸、女は愛嬌?」は、ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)にとって、悲しみの連続でした。...
刮目!伊藤沙莉“静”の演技、「佐田優三 仲野太賀」表示も期待は泡沫に…
 これまでの後悔と秘密をすべて打ち明けて、直言(岡部たかし)は安らかに亡くなった。  寅子(伊藤沙莉)は何事もなか...
桧山珠美 2024-05-30 19:10 エンタメ
古谷徹は“あの役”降板?声優不倫騒動の後始末、カギは「キャラの私物化」
 レジェンド声優・古谷徹(70)の不倫報道が世間を騒がせている。 『文春オンライン』よって報じられた37歳年下女性...
優三も草葉の陰で苦笑い? 前代未聞な別れの“懺悔”は直言らしい名場面に
 直言(岡部たかし)は栄養失調と肺炎でもう長くはないと診断される。直言が大事なことを隠していたと知った寅子(伊藤沙莉)の...
桧山珠美 2024-05-30 18:50 エンタメ
「見るんじゃない」と直言。ダチョウ倶楽部の“押すなよ、押すなよ”を彷彿
 直言(岡部たかし)の体調が優れない。寅子(伊藤沙莉)と直明(三山凌輝)はマッチ製造の仕事を紹介してもらい、はる(石田ゆ...
桧山珠美 2024-05-28 15:30 エンタメ
視聴率苦戦だから失敗に物申す!山下智久と錦戸亮、5年ぶり民放作の意義
 山下智久(39)が主演を務める「ブルーモーメント」(フジテレビ系)、錦戸亮(39)がキーマンとして出演する「Re:リベ...
こじらぶ 2024-05-25 06:00 エンタメ
「おいしいものは一緒に」出征前の河原デート。はて?初回を思い出すと…
 寅子(伊藤沙莉)は訪ねてきた後輩の小泉(福室莉音)から、女子部が閉鎖されることになったと知らされる。  今年は高...
桧山珠美 2024-05-24 15:30 エンタメ
優三の優しさシャワー全開!寅子のゴロゴロ床入り作戦も大成功だった神回
 昭和17年3月。直言(岡部たかし)の工場は軍からの注文が途切れず、順調に稼働を続けていた。戦時下で食べ物が貴重になる中...
桧山珠美 2024-05-21 15:30 エンタメ