東京の「Fラン大学」を出たママの誇り。お受験戦争の渦中、優秀な娘に人生を重ねる傲慢な願い

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-02-08 06:00
投稿日:2025-02-08 06:00

【横浜の女・林 愛子33歳 #2】

 横浜に暮らす経営者の妻の愛子。長女の美愛はまだまだ甘えん坊の小学生。横浜山手御三家と呼ばれるお嬢様女子校に狙いを定めて、愛子は美愛と共に中学受験に挑むことを決意したが…。【前回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 そうと決まれば、愛子はさっそく美愛に中学受験で圧倒的な実績を誇る学習塾・SAPIXの入室テストを受けさせた。

 実は0歳児から先々を見据えて七田式、小学校に上がると公文と玉井式を並行して受けさせ、タブレットの通信教育でも自宅学習の習慣はつけさせていたため、難なくクリアした。

 比較的おっとりした性格の美愛を競争社会に飛び込ませることは愛子にとって多少は躊躇したが、合格のためには皆やっていること。そう言い聞かせ、心を鬼にする。

ぐんぐん娘の偏差値が上がっていく

 幸いなことに、SAPIXの方針は美愛の性格に合っていたようだ。

「ママ見て。この前のテスト、満点だったの。またクラス上がっちゃうなあ。せっかく隣の席の子と仲良くなったのに」

「そうね…。でも、きっとその子もじきに追いついてくるよ」

「うーん。その時は美愛がもっと上のクラスに行っていたらどうしよう」

 自分に似て流されやすい彼女の性格がいい方向に影響しているようだった。度重なるテスト、学力別クラスなどで競わされることにより、自然に机に向かうようになっていた。

 そして、4年の入室時には当然底辺クラスだったのが、驚くことに5年生の終わりにはSAPIX内偏差値も60を超え、クラスも最上位域に入ってきたのである。

自分も環境が違えばもっと上に…

 ――だったら私も、MARCHくらいには行けたのかしら。

 美愛が持ち帰ってくるテストの結果を眺めた後に必ず襲ってくるのは、自身の人生への悔いだった。

 中学・高校時代、遊びと恋愛にうつつを抜かした自分が悪い。

 補導も、休学も経験した青春の傷。人生の時間を無駄にした過去は消せない。

 環境が違えば、自分も娘のように勉強ができて、いい学校に入り、別の未来が拓けていたのかもしれない…、と。

私と夫の娘だもの、優秀なはず

 ただ、そんな環境でも東京の大学に入れたことは微かな自信だ。名前だけがグローバルなFランと分類される大学だが、塾ナシで合格している。

 美愛の父親の晴信も、就職氷河期世代で就職難民ののち、飲食店バイトからのし上がった商才と野心あふれる根性の男だ。

 そんな2人の血を引く美愛が、過酷と言われる中学受験を乗り越えられないはずがない。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


結婚7年目 夫の誕生日に用意したプレゼント 2023.2.18(土)
 結婚して数年目にもなると、だんだんとナアナアになってくるのがお互いの誕生日。まあ、毎年相手の欲しい物を考えるのも大変で...
行動監視→別れを強要…逃げて! 毒親からの怖すぎるLINE3選
 親への不満や悩みは、なかなか周りへ相談しづらいもの。そのため、毒親を持つ人の問題は水面下で深刻化しがちです。  ...
2023-02-18 06:00 ライフスタイル
実は広い大都会の空 それを知っているのは…2023.2.17(金)
 大都会で空の筋雲を眺めている人は何人いるだろうか。  高層ビルを見下ろしながら考える。  実は広い大都会の...
職場で都合のいい人になってない? やめるためのメソッド5つ
 職場で無理なことを頼まれたら、あなたはちゃんと断ることができますか? 断り切れず受け入れ続けていると、「都合のいい人」...
ハマると地獄! 絶対にやってはいけない最低な自信のつけ方
 自信をつける方法はいっぱいありますよね。意外なこともあれば、まあそうだよなという無難なものまで多種多様なので、絶対の正...
オトナ“たまたま”に釘付け…ちびにゃんたまよ、大志を抱け!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
日本初!? 新宿2丁目の銀河系メンズコンカフェに行き、胸が熱くなったこと
 最近どんどん増えているメンズコンセプトカフェ(通称「メンズコンカフェ」、さらなる省略形が「メンコン」)。秋葉原や池袋か...
バレンタインに考えた 僕らが物を贈る意味 2023.2.15(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
「男性に花を贈る」とめちゃ喜ばれる! 植物を選ぶ際の5カ条
「花屋」という職業上、ネットや書店にて花にまつわる資料を探す機会の多いワタクシ。  ちょっと前まではお高い写真雑誌...
コワモテ部長が「襲ったらごめん♪」と誤爆…気まずいグループLINE3選
 仕事やプライベートでの連絡ツールとして大活躍のグループLINE。大勢の人と一緒に会話できて便利ですよね! でも、世の中...
にゃんたまを求め東へ西へ…私の人生にはどんな因縁がー!?
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
夢と現実が入り交じる場所 2023.2.13(月)
 ミュージカル映画で歌が始まると、慣れなくて一瞬だけ気恥ずかしくなる。  だけど、すぐにそんなことは忘れて、スクリ...
窓の外を眺めて1日が終わったっていい 2023.2.12(日)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
人付き合いの“やらかし”から学ぶ「感情系語彙力」の大切さと鍛え方
 みなさんは、自分のことを語彙力が豊富な方だと思いますか? それとも口下手だとか、無口な方だと思うでしょうか。円滑なコミ...
トルコ大地震前に“不気味な雲”の目撃情報が…注目すべき前兆現象とは?
 トルコ南部のシリア国境近くで6日、マグニチュード7.8の地震が発生し、両国では1万5000人を超える死者が出ている(日...
冷気に青空が滲みる、春はまだかな? 2023.2.10(金)
 鉢に張った水をのぞくと、青い空が映りこんでいた。  空気が澄んでどこまでも広がる冬の空はきれいだけど、こうも寒く...