「報われない世代だって言われているんですよ」
「私、第一子の時は、ちょうど『日本死ね』の時だったんです。前職の退職を余儀なくされたんですが、今は私も落ち着いて、こういう集まりに参加できる余裕ができたくらいです」
「――私が、生まれた時代がよかったと言いたいと?」
言い返すと、彼女は力なくほほ笑んだ。目を逸らすと、ママさんの中心で語っている晶子の笑顔が見えた。
「逆に、晶子さんの世代はいま、報われない世代だって言われているんですよ」
重い弾丸を正面から受け止めたような感覚に陥る。
頭がクラクラしてきた。もう何も言うことはない。
生き生きとママの中で活動している様子が見ていられなかった。彼女が本来いる場所は、やっぱりここではないような気がして。
「麗菜さんごめんね、誘ったのにあまり対応できなくて」
楽しくおしゃべりをするママさんたちをながめながら、ローズヒップティーを傾けていると、晶子さんが輪の中を抜けて話しかけてきてくれた。
ママという肩書きに埋もれる現実
「いえいえ。楽しんでいます。先ほどはナナミさんとずっとお話をしていました」
「ナナミさんて、先ほど帰られたママさん? あの方、元官僚なのよ。見えないでしょう」
「え!?」
「制度や法令に異常に詳しくてね。自治体に陳情をあげたり、企業に協力を求めたりするときにも色々と力になってくれたの」
驚くとともに、晶子さんを含むこれだけの有能な女性たちが、ママという肩書の中に埋もれていることを実感する。
「――あの、晶子さんの活動のお手伝いさせてほしいんですが」
自然と口から出ていた。
育休中だろうが、リスキリング中だろうが、保活で忙しかろうが関係ない。罪滅ぼしではないが、自分も彼女のなにかの力になりたかった。
すると、晶子は即座に首を振る。
「あなたは、自分の生きたいように生きて幸せになってよ」
「だけど――」
「それが私の活動のお手伝いなの」
拒否に見せかけた、前向きな呼びかけだった。
私は、仕事も家庭も、みんな手に入れる
晶子がかつて自分にかけてくれた言葉は、呪いではなかった。応援と適切な助言だった。
麗菜が今後、壁にぶつからないように、心の準備をしてもらうための。
「道を、つくってほしいのよ。その先に行ったらお話を聞かせて」
自分が今歩いている道は、晶子さんたちのやるせなさと怒りでできている。
努力しても、どうしようもない時代が、世界があったのだ。今も誰かがどこかであがいているのかもしれない。
――私は、仕事も家庭も、みんな手に入れる。
欲張りに前を進みたい。それは、自分のためだけじゃない。未来の誰かのためでもあることを祈って。
Fin
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