《体調不良につき休演》投稿で飛び交う憶測…。無理しちゃったストリッパーに見えた?

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-03-22 06:00
投稿日:2025-03-22 06:00
 踊り子として全国各地の舞台に立つ新井見枝香さんの“こじらせ”エッセーです。いつでも、いついつまでも何かしら悩みは尽きないし、しんどいことだらけの日常ですが、生きていく強さを身に付けるヒントを共有できたらいいなという願いを込めまして――。

遠征先で4日間のオーシャンビュー入院

 2月の終わり、遠征先の熱海で体調を崩し、4日ほど病院の世話になった。過去に病気で会社やステージを休んだことは一度もなく、唯一弱点の歯痛で早退しただけという、やたら体の強い人間であったため、本人がいちばんびっくりの出来事である。

 そこはたまたま熱海の海沿いに建つ大学病院で、私はその見事なオーシャンビューに、少し浮かれてさえいたのだ。

ストリッパーの休演裏事情

 入院している間は、ステージに穴を開けることになる。ただ我々ストリッパーの場合、歌手なんかとは違って、そこまで大ごとにはならない。ストリップはあくまでも、ストリッパーの公演ではなく、ストリップ劇場の営業だからだ。

 私が休んでも当然開店するし、ひとり欠けたからといって、入場料が安くなるわけでもない。しかし、SNSで出演を告知している以上、自分を目当てに足を運ぶ人がいないとも限らない。それなら、なるべく早く休演を伝えるべきだ。

 通常、劇場からの告知は必要最低限で、マネジャーがいるわけでもないから、情報の拡散はほぼストリッパー自身に委ねられていた。

【こちらもどうぞ】電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと

「体調不良につき休演」投稿の思わぬ余波

 ベッドに横たわったままスマホを握り、ひとまず「体調不良につき休演」と自分のSNSに投稿した。自らそれができるくらいの状態なら、インフルエンザやコロナの流行り病だと思って、さらりと流してもらえるだろう。

 しかしその想像は甘かった。詳細を説明しなかったせいで、様々な憶測が飛び交ったのだ。

 直接知りもしないことを、勝手な予測だけで無責任に語り、またそれを確かめもせずに鵜呑みする、頭に藁クズが詰まって、詰まっていることにも気付いていないような連中は、いつだって、どこにだって、わらわらしているのである。

「無理はしない」と書いたよ?

 このままでは劇場に迷惑がかかると判断し、今度は入院していることを書いた。本来なら、そんなプライベートなことを知らせる意味はないし、知る必要もない。ネタなら面白くもなんともないし、道路に長ねぎが落ちている画像をUPするほうが、はるかに有益なくらいだ。

 だからなるべく完結に、迷惑をかけたことを詫びた上で、「無理はしないと決めているので、ご心配なさらぬようお願いいたします。」と綴ったのである。

 それなのに…。投稿に付くコメントも、DMも、仕事用のメールアドレスも、知り合いからのLINEも、「無理しないで…」という言葉が今年の流行語大賞確定の勢いであった。

 文章が読めないのだろうか。もう、こっちが無理!

世の中「無理」を乱用している説

 ちなみに「無理」という言葉の意味は、字の如く、道理に無い、理に反することだ。ほぼ不可能である、のニュアンスに近い。しかし昨今の流行りなのか、「マジ無理なんだけど(笑)」のように、できなくはないけどやりたくない、といった軽い意味で使われることが増えてきた。

 それをここであえて使うことで、私のバチギレを誤魔化せるかと思ったのだが、成功しているだろうか。

脳内を占拠するバトミントンおじさん

 私の頭の中には、「無理しないで…」と言われて、必ず浮かぶイメージがある。30年前にバトミントン部でバリバリ活躍していたおじさんが、昔の友達と酔った勢いでバトミントンをして、両足のアキレス腱を切った(実話)。これぞ「ザ・無理をしないで…」、無理をして病院行きになった人の典型だ。

 それとて、当人は無理をしたつもりは毛頭なく、当然できると思ってやったら、全然体が追い付かなかった、という残念な結果でしかない。

ストリッパーの複雑な心境

 つまり私のストリップは、無理しちゃったおじさんみたいに見えていた、ということだ。私は全くそんなつもりはないのだが、それはバドミントンおじさんも同じである。無理しないで…と気遣ったつもりが、これほど私を複雑な気持ちにさせるとは、言葉ってなんと難しく、残酷なのだろう。

 もちろん悪意はなく、心配しているのだと、頭では理解できる。そう受け取らなければならないと、努力している。けれど「無理しないで…」と言われるたび、脳内に陽気なおじさんが両足ギプスで松葉杖をつきながらヨロヨロ登場するのだ。もう、残念すぎて見ていられない!

 ちなみに今回の入院は、体質的な問題なので、ストリップの仕事とは全く関係がないことをここに発表する。これ以上の詮索はするべからず。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


美STの開運マスク付録ってなに?ドモホルンリンクルは一式試せて嬉しい
 今回ご紹介する雑誌付録は、「美ST」2024年3月 増刊号(松嶋菜々子表紙)の「開運&美肌見え! PITTA MASK...
話し合い好きは平和主義?むしろ支配欲強め!一歩間違えるとモラハラに…
 話し合いで解決を図る人、みなさんはどんな印象がありますか? たぶん平和的とか、論理的なイメージが強いのではないでしょう...
季節の中へ向かう道で 黄色のまぶしさに目がくらんだ
 鮮やかな黄色がまぶしくて思わず目を細める。季節の色ってなんでこんなに力強いんだろう。  葉も実も花も落ちて枝だけ...
YOUはどうしてバンザーイ?  全開“たまたま”にあれこれ妄想
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
生まれた性別で誰かが誰かに恋をした きっとそれだけのこと
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
「財布落とした」→先週もだよね? サボり言い訳LINEはリスト化必須
 普段、一生懸命仕事をしていても、人間なら時には「サボりたいな」と感じる日もあるはず。  でも困るのが、サボるため...
冬の園芸は難しい?花屋が教える「ご注意あそばせ」な4項目
 お花屋さんは1年中忙しいイメージがあるかもしれませんが、寒さこたえる1、2月は比較的まったりムード。慌ただしかった年末...
誰かを待つのも悪くない 夜の片隅とそれぞれの大切な時間
 誰かを待つ時間、実はそんなに嫌いじゃない。街の片隅に留まるには周囲が納得する理由が必要だったりするから。  最近...
スマホ中毒な娘にお手上げ!不要で必要な事情、鍵付き棚に入れたのに…!!
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
鍵シッポでつかんだ幸せを“たまたま”にたっぷり貯めこんで♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
先輩から「デートのチークはピンク系」デキる女アピの熱血LINE指導w
 他人からの評価を気にして、仕事や意識の高さ、モテ力など、「デキる女アピール」をしてくる女性は多いですよね。  で...
マナーを守って一緒に楽しもう!子連れライブ参戦キホンのキ
 40代女性は子育て世代。今までみたいに気軽にアーティストのライブには行けません。諦めるか、子連れで行くかの選択肢を迫ら...
ダブル女偏の「嫉妬」の語源は何?美容院でジェラシった話。
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
おひとりさまって身軽だYO! ダヴィンチ、ニュートンetc.も生涯童貞!?
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
飲み会でLINE交換→「えっ院長なの?」素性知った途端に本性見えたよ
 人には誰しも、表の顔と裏の顔があるものです。どんなに普段いい顔をしていても、ちょっとした瞬間に本性が垣間見えることも…...
この景色は宝物だ いつかまた理由もなく思い出すんだろう
 ふと、なんの脈略もなく浮かぶ景色がある。  小学校への通学路、家族旅行の思い出、好きな子にフラれた帰り道。どうせ...