お客は昔の恋人か? 傲慢な一言に「じゃあ、あんたがやってみろよ」と反論するか問題

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-04-30 17:00
投稿日:2025-04-30 17:00

後片付けすらしない男…おーい、金払え?

 飲食店ではなく家庭で人に食事を作る場合、そこに値段は付かない。作ってあげたいという気持ちからの行動だ。しかし感謝がないどころか食事に文句を付けられると《じゃあ、あんたが作ってみろよ》という思いが湧きあがる。

 まさにその言葉がタイトルになった漫画『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(谷口菜津子/現在3巻まで刊行)では、いったい何十年前の感覚をお持ちですか? という亭主関白的古い価値観のイケメン彼氏と、そういう男に守られてお嫁さんとして生きていくことが女の幸せだと信じる彼女の、結婚を目前とした破局から始まる。

 外食より家庭的な手料理が好きな彼氏と料理が得意な彼女は、相性が良さそうに思えたが、付き合ううちに彼女の料理が当たり前になり、彼氏からのダメ出しが増え、当然のように彼氏は後片付けもしない。おーい、金払え?

 私はそれを読みながら、傲慢な彼氏より、それでも微笑みながら作ってあげてしまう彼女に対する怒りで、コミックを八つ裂きにしそうだった。家に泊まった彼氏に朝ご飯を用意した記憶が蘇る。

 普段は朝飯なんて食べないくせに、さりげなく材料を買っておいて、いそいそと作って出したのだ。フライパンで炒めたウインナーとカレー味のキャベツをクロワッサンに挟んで、有機野菜を切ってきれいに並べて……。

実は、後日談がある

 鮮やかな朝食プレートを運んでも彼は感謝するそぶりを一切見せず、あまつさえ飲み物を変えてくれと要望したのである。ところで書きながら気付いたのだが、私はこの話を以前にも書いている。(#28)恨みが深い。《じゃあ、あんたが作ってみろよ》という怒りを貯め込んだところどうなったかは過去回で確認して欲しい。ここでは後日談だ。

 なんと彼は父親が料理人で、彼も幼い頃より料理を得意としていること、料理が下手な母親の料理は一切口にしないことを、あとになってコクハクしたのである。

 こいつ、私より料理がうまい可能性があったのか。それを知らずに「作ってみろよ」などと啖呵を切って、私の今一つな朝食の遥かに上をいく極上のブレックファーストを出されたら、それはそれで鋭い爪痕だ。件のお客だって、ダンス界では知らない人はいないダンス評論家だったのかもしれない。

 なんにせよ、《じゃあ、おまえが〇〇してみろよ》は感情に任せて口にしないほうがよさそうだ。健気な後輩ストリッパーのおかげで、見枝香姐さんはひとつ大人になったのである。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「一緒にトイレ行こ!」40代でそれはキツい。“大人の自覚ゼロ”な女のイタイ言動。謝らないって中身は5歳児?
 40代は立派な大人。だからこそ言動には注意したほうがよいかもしれません。あなたも普段、こんな言動していませんか!?
グサッときたぜ…「孫の顔も見れずにあの世行き?」未婚ガチ勢の心をエグる“親からのLINE”3選
 結婚するかどうかは自分で決めること。でも親から「結婚はまだ?」なんて言われると、モヤモヤしたり焦ったりしちゃいますよね...
神かよ…つら~い生理中、男性にされて感動したエピソード6選「喧嘩ばかりの弟がナプキンを買ってくれた」
 女性にとって、心身ともに負担が大きい生理中。あなたの周囲の男性は、どんな風に寄り添ってくれますか?  今回の記事...
親と“SNS共有”が裏目に! 教えて「我が家のスマホルール」。リアルな成功&失敗エピソード6選
 制限がないと、いつまでも触れ続けてしまいがちなスマホ。今回は夫婦間、親子間などで決めている「我が家のスマホルール」にま...
増える通り魔的事件、現代人の「狙われやすい」歩き方。危険時に身を守る方法とは【元警部が解説】
 神戸市のマンションで24歳女性が刺殺された事件は、見知らぬ男に50分間つけ回された末の凶行だった。犯人は数日前から神戸...
「色恋営業」は人を選ぶ? スナック嬢が教える“地味に長続きする”接客テクニック
 夜の世界は接客業。来ていただいたお客さんになるべく気持ちよく、そしてなるべく多くのお金を継続的に落としてもらわなければ...
元芸能人「売れるため覚悟を決めた」“暗黙の関係”を選んだ女の後悔。スポットライトの裏で失ったもの
 芸能界の華やかさに憧れて飛び込む若者は多い。しかし、その裏には語られにくい現実がある。元タレントのAさん(仮名・30代...
見返り猫が尊すぎる!神聖なる“たまたま”を近くで拝める幸福よ…
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
なぜおばさんは“早朝ウォーキング”するのか? 運動音痴の私が中年になって実感した朝
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
ふわぁ~眠すぎる…でも寝ちゃダメ! 一瞬で覚醒できる「私の目覚まし対策」6選
 仕事中、急な眠気に襲われて意識が飛んでしまう…。社会人なら誰しも一度は、もしくは日常的に経験しているのではないでしょう...
不安体質は性格のせいじゃない、変えられない自分を責めないで。穏やかな生活を送るコツ【専門家監修】
 2012年に59歳で亡くなったロック歌手・桑名正博さんとアン・ルイス(68)の長男でミュージシャンの美勇士さんや、タレ...
なぜ『鬼滅の刃』は心に響く?ボロボロだった女が“ある台詞”で救われた話「雷に打たれたような衝撃でした」
 最終決戦が描かれる映画三部作の第一章が公開され、アニメの歴史を塗り替える伝説を打ち出し続けている『鬼滅の刃』(フジテレ...
SNSだらだら、安物を爆買い…全部やってる! やめらない“ムダ習慣”7つがじわじわ刺さる
「やめたいのに、なぜか続けてしまう」そんな“惰性の習慣”に心当たりはありませんか? 毎日の行動の中には、「なんとなく」「...
生きる伝説、“スター★にゃんたま”の貫禄あふれるポージングを見よ!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「自慰行為」の語源になった人物の悲劇。“悪いこと”と罰された本当の理由
 職場や近所、SNS界隈に現れる「残念な人」、いますよね。実は今から約2000年前から現在に伝わる「聖書」にも「残念な人...
「イラつく顔ね」にグサッ…義母が放った“ひどい言葉” 5選。離婚すればってそりゃないよ~
 嫁姑の関係が悪化する原因の1つに、姑の悪意ある発言があるのかもしれません。こんなことを言われたら、姑への憎悪が膨らむの...