「君は容姿がいいけどダンスは今一つだね」というお言葉
お客様から「君は容姿がいいけどダンスは今一つだね」というありがたいお言葉を頂戴した後輩の踊り子は、ご指摘を真摯に受け止めて、オフの間も自主練に励んでいた。私はそんな彼女の素直さがまぶしい。ストリップに限らずステージに立ってスポットライトを浴びると、そうやって余計なことを言って爪痕を残したがる人間が近付いてくるのものだが、たいてい言うことは的外れだ。
本当のところ、彼女は容姿が抜群に良い上にダンスも丁寧で美しい。身体能力の高さと、センスの良さが伺える。それに加え、「は? じゃあ、あんたが踊ってみろよ」などと私のように脊髄反射で言い返さない賢さが、なおまぶしい。あなたより一回り以上も長く生きているというのに全然大人になれないよ、見枝香姐さんは。
お客という生き物は傲慢だ
高校生の頃のコンビニバイトから始めて、飲食店でも書店でも、お客という生き物はえてして傲慢だった。自分のことを棚に上げて相手に多くのことを求めては、全て思い通りになって当然という顔をしている。
私はおめぇの下僕でも親でもねぇぞ、と何度思ったことだろう。大事にされるのが当たり前、おもちゃもおやつも好きなだけ、座っていれば毎日温かいごはんが出てきて、気に入らなければ王様みたいに文句を言って、ふんぞり返っていればテーブルがきれいに片付く。
怒りがぶり返して話が飛躍してきたが、そんな人間、たとえ顔が超好みな恋人だってきっと長くは続かない。かくいう私がそういう傲慢なお子様だったから、余計頭にくるのだ。給料をもらう仕事だから、ぎりぎり飲み込めているだけである。
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長く勤めた書店でも、面倒なお客に訳知り顔でああだこうだ言われると、つい《じゃあ、あんたが〇〇してみろよ》と喉まで出かかることはあった。だがそれを言っては、身も蓋もない。人ができない、または人がしたくないことをするから仕事として成立しているのである。
お客がストリッパーに対して何か指摘するためには、ストリッパーみたいに踊れないと資格がない、なんてことは決してない。
そもそもストリップはコンテストでも競技でもなく、一般のお客に楽しんでもらうためのダンスであるから、例え世界的プロダンサーにアドバイスをもらったところで、ストリッパーとして有益とは限らないのだ。とんちんかんなお客の言葉の中にこそ、金言はあるのかもしれない。
小汚い定食屋で思ったことに、あれ?
ところで仕事を終えストリップ劇場を出た私は、やれやれお疲れ様と手近な定食屋に飛び込んだ。古い店で小汚いが、逆にそれが期待値を上げる。しかし昔ながらのごはんと味噌汁が付いたハンバーグは、大きいばかりでつなぎが多く、付け合わせはほとんど業務スーパーのものだった。ボリュームはあるけど味は今一つ。
あれ、どこかで聞いたセリフだな。美味しいハンバーグや手間暇かけた付け合わせを作ることはできるのかもしれないが、それとこうして定食屋を続けることは全く別だ。ハンバーグ定食は、儲けを心配するほどに安かった。もし私が爪痕を残そうと余計なことを言えば、店主は心の中で思うだろう。
「じゃあ、あんたがやってみろよ」と。
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