食事は私と“推し”のデートだ。男たちよ、どうでもいい愛の言葉より目の前の寿司を見ろ

新井見枝香 元書店員・エッセイスト・踊り子
更新日:2025-05-30 06:00
投稿日:2025-05-30 06:00

食事は推しと私のデートだから

「〇〇の××はぜひ食べてください」「△△は絶対おススメです」

 食べもののことばかりSNSに上げているせいか、見ず知らずの人からDMやコメントで食情報が届く。世の中には親切な人がたくさんいるようだ。しかし送られてくる情報の99パーセントは、すでに知っている。私がどれだけの時間と情熱と愛を食につぎ込んでいると思っているのだ。すでに何度も自分のSNSに上げている店について教えられても、反応に困ってしまう。

「知っています」「何度も行きました」などと正直に返せば、相手に恥をかかせてしまうかもしれない。しかし「情報ありがとうございます」とだけ返すと、あとで私の投稿に気付いた相手が、気を遣わせてしまったと落ち込む可能性がある。ああもう、めんどくさいな!

 食の情報は常に求めているが、見ず知らずの人はもちろん、よっぽどでなければ知人にも、おすすめの店は訊ねない。私に対して下心のある男性には、特に警戒が必要だ。

「今度連れてってあげるよ」「ご馳走してあげる」この極上の親切に対しての返答は、既知情報の提供以上に神経を使う。それが年上で、経済的に余裕があり、食への知識は人並み以上と自負するおじさんならなおさらだ。

「大丈夫です」は遠慮と取られるし、「うれしい」と喜んでみせれば、その場で日程が決まるだろう。もう逃げられない。食べ物には興味があるがあなたには全く興味がない、ということをあらかじめ伝えておかないと面倒なことになる。お気持ちはありがたいが、情報だけくれ。そして愛する食べ物には、身銭を切りたい。人の金で推しに課金するつもりはないのだ。

 私はグーグルマップも使いこなせるし、常連客100%の小さな酒場にだって潜り込める。会員制でもない限り、連れて行ってもらう必要は全くないのだ。推しにはひとりで会いに行く。それは食事であり、推しと私のデートだから、付き添いは邪魔者でしかないのである。

新井見枝香
記事一覧
元書店員・エッセイスト・踊り子
1980年、東京都生まれ。書店員として文芸書の魅力を伝えるイベントを積極的に行い、芥川賞・直木賞と同日に発表される、一人選考の「新井賞」は読書家たちの注目の的に。著書に「本屋の新井」、「この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ」、「胃が合うふたり」(千早茜と共著)ほか。23年1月発売の新著「きれいな言葉より素直な叫び」は性の屈託が詰まった一冊。

XInstagram

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ほっこり癒し漫画/第68回「コウメばあちゃんはどこ?」
【連載第68回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「しっぽ...
女+家=嫁…「嫁ぐ」と「結婚」の違いはある?
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
電マの営業からラブホの清掃員へ…羞恥心とも戦うストリッパーが思うこと
『電マの営業・新井です!』(略して「電マの新井」)という新作が大変好評だ。  書店員にとっての新作といえば「新しく...
貸したお金を催促するのにこんな手が…! モヤモヤを解消するLINE3選
 人にお金を貸した後、なかなか返してくれなかったら、とても嫌な気持ちになりますよね。  とはいえ、お金の話は、言い...
口喧嘩で負けたくない! 勝ちたい時に使えるマル秘戦術3選
 みなさんは誰かと口論になった時、どんな戦法で勝ちにいきますか?  方法は十人十色ですが、今回は代表的な勝ちパターン...
凍り付いた湖の夜が更けて
 もしも突然、この瞬間に、氷が解けたらどうなるんだろう。  そう思いながら、凍て付いた湖の上に立つ自分が結構好き。...
私って性格悪い? 自分のダークサイドを自覚した4つの瞬間
 誰の心にだって、優しい部分と優しくない部分が存在するもの。そうわかっていても、自分の心のダークサイドを自覚すると「もし...
青空にオレンジボディが映え“たまたま”の見返りメンチにキュン
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「レンジでゆたぽん」人気じわり..足を温めると眠りやすい!
「レンジでゆたぽん」を知ったのは、年末年始に長野県の義実家に行った時。寒がりな私を気遣って、義母が用意してくれたのです。...
真似から始まったファッションも、いつか体に馴染むもの
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
仕事のサボりがバレた瞬間4選 リモートワークは意外と見られている!
 近年では、リモートワークやフレックスタイムなどの制度が導入されて、数年前よりも働きやすくなりました。  一方で、自由...
「とにかく盛り上がるやつ頼むよ」ってさぁ 先輩の無茶ぶりLINEがすぎる
 お笑い芸人の松本人志とその後輩芸人たちによるアテンド飲み会が話題になっていますね。  ニュースの真偽はともかく、...
2024-02-21 06:00 ライフスタイル
卒入学、彼岸、送別会【花屋が教える】予算内で理想の花束を贈る7カ条
「斑目さん、今年こそは頑張って期限内にお願いしますよ!」  お正月がなんとなく終わったばかり、なんて思っていたら、我が...
仕事のモチベが上がらない!30女40女のやる気スイッチをONにするテク
 どんなに好きな仕事でもモチベーションが上がらない時だってありますよね。気持ちが乗っていない時は、ミスしたり、時間が永遠...
年の差婚の弊害?夫の“昭和の価値観”を持つ息子の将来が不安すぎる件
 セックスレスやセルフプレジャー、夫婦の在り方などをテーマにブログやコラムを執筆しているまめです。  私の夫は10...
今夜は誰と出合おうか…人で溢れる街の隅っこに転がる心
 先に仮想世界(?)でお互いを見つけて、そこから顔を合わせるって最初は気まずくないのかな? と昭和の世代は思っちゃうけど...