独身と既婚、正反対な女ふたりの悲しい共通点。高級ディナーより“551の肉まん”が羨ましい理由

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-07-12 11:45
投稿日:2025-07-12 11:45

聞かれたことしか言っていなかっただけだ

 3人の子供。しかも、彼女の胸には小さい赤ちゃんが抱かれていた。私と彼が沖縄旅行に行っていた、その辺りに産声をあげたらしいその子。計算することは苦手だけど、こういったことに頭はよく回る。


 彼は、嘘はついていないだろう。隠してもいないはず。

 ただ、聞かれたことしか、事実を、言っていなかっただけなのだ。

 立ち回り的に、当然のことなのに。

 ――別に…想定内だし。私たちは、単なる遊び友達なんだから。

 わかっていたことだから、傷つきは、しない。彼の人生から、生活から、別枠の存在であることを、改めて実感しているだけ。
 

「あれ? 帰るの? 超ダッシュできたのに」

 ホテルの部屋をそのままに、自分の生活に戻ろうと駅に着いた時、ちょうど彼も駅についたところだった。

 少し前なら、運命だと思うシチュエーション。だけど、なぜか何の感情もわかなかった。

「ごめんね。ちょっと疲れちゃってね」

「大阪みやげのタコ焼きあるのに」

「タコ焼き? 大阪行っていたんだね」

「そうそう。部屋で一緒に食べようと思って」

私は「都内近郊の観光地」なんだ

 開封の跡がある、冷めたそれ。新幹線の中で食べ残したものだろうか。私はあの親子が「夕飯はタコ焼きにしよう」と言っていたことを思い出した。

「タコ焼きはいらないけど、ホテルのレストランでディナーならいいよ」

「オッケー。飛び込みで行けるかな」

 あっさりと受け入れられたことに自信の立ち位置を改めて知る。所詮、自分はこの場所のような、都内近郊の観光地なんだって。

 右手にある特別言及もない551の保冷バッグに、いちいち消耗する感情が嫌だった。

 ――ディナーをおごってもらったら、タクシー代もらって帰ろうっと。

 今晩、寝る前にインスタをアップしようと思った。

 この後、近所の居酒屋に行って、仲のいいマスターと一緒にはしゃいでいるストーリーをあげるつもりだ。タイムスタンプをわざわざ押して、今日の日焼けの跡を見せつける。

 “彼女”には、ゆっくり寝てもらいたいと思った。

 私も、今日は家のふとんでひとり、ぐっすり眠りたい気分なのだ。

Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


ダブル女偏の「嫉妬」の語源は何?美容院でジェラシった話。
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
おひとりさまって身軽だYO! ダヴィンチ、ニュートンetc.も生涯童貞!?
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
飲み会でLINE交換→「えっ院長なの?」素性知った途端に本性見えたよ
 人には誰しも、表の顔と裏の顔があるものです。どんなに普段いい顔をしていても、ちょっとした瞬間に本性が垣間見えることも…...
この景色は宝物だ いつかまた理由もなく思い出すんだろう
 ふと、なんの脈略もなく浮かぶ景色がある。  小学校への通学路、家族旅行の思い出、好きな子にフラれた帰り道。どうせ...
元TBSアナで画家の伊東楓さん ほぼ手ぶら&すっぴん!? メイクで現れた
 元TBSアナウンサーで、現在は画家として活動する伊東楓さん(30)と待ち合わせたのは寒の入りを迎えた東京・新宿。ドイツ...
元TBSアナ→画家に転身 伊東楓さん「心の中の闇が創作欲をかきたてる」
 元TBSアナウンサーで画家として活動する伊東楓さん(30)は現在、ドイツの首都ベルリンを拠点にしている。なぜ、ドイツな...
「わがままだね」と言われたら…悪口どころか褒め言葉のワケ
「わがまま」と聞くと、みなさんはどんなイメージを持ちますか?  私は思いっきりネガティブなイメージしかなかったのです...
書店パトロール空振り?いや、逆ヤバ!文具女子博の雑誌付録は使い方∞
 慌ただしい年末年始で雑誌付録をチェックできていなかったな〜と書店をパトロールしました。  ピンとくる雑誌の付録が見つ...
Amazon1位の白湯用マグカップは“以外”でも大丈夫? 販売元に聞く
「Amazonベストセラー1位」のオレンジ色のワッペンよ、なぜこうもわたしの購入意欲をかきたてるのか…。「知らんがな!」...
ありがたい幸運お年玉! 激レア縞三毛猫の“たまたま”に合掌
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
絶対買い!運気満タンなシンピジュームは手軽価格&ランなのに寒さに強い
 年末のお歳暮商品として人気の高い「シンピジューム」の花鉢ですが、実は切り花としてもスゴイんだとか。華やかで可憐な見た目...
【開運&金運UP】日本三大金運神社・安房神社のお参りで、ご利益が!
 日本三大金運神社とは、山梨県富士吉田市・新屋山神社(あらややまじんじゃ)本宮・奥宮、石川県白山市・金劔宮(きんけんぐう...
便利家電を使いこなすお婆ちゃんが教えてくれたこと
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
虫歯1本に治療費100000円!? ベラボーな額を請求される米国の高額治療費
「アメリカに住んでます!」 と聞くと、日本にはないキラキラした素敵な生活を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。 ...
2024-02-26 19:02 ライフスタイル
〆ラー卒業のアラフォーに!「かに鍋&水炊き」缶のススメ
 お酒を飲んだ後、人はなぜラーメンが食べたくなるのでしょうか? アルコールに浸った体が脂と塩分を欲しているのか…。  ...
子どもの友達に「ばあば」と間違えられたショック! 高齢出産の後悔4つ
 世間では、高齢出産する人がとても増えていますよね。晩婚化が進んだ背景や、不妊治療が保険診療になった変化も大きいでしょう...