独身と既婚、正反対な女ふたりの悲しい共通点。高級ディナーより“551の肉まん”が羨ましい理由

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-07-12 11:45
投稿日:2025-07-12 11:45

【大磯の女・水野実久28歳 #3】

 実久は妻子ある男性と交際をしているが、その日は彼に「仕事が入った、先に行っていて」と言われ、大磯のプールリゾートに先乗りしてひとりでバカンスを楽しんでいた。しかし、隣のパラソルに同い年くらいの子連れ母がやってきて……。【前回はこちら】【初回はこちら

 ◇  ◇  ◇

 少年真っただ中の、男の子の目元は、私の愛する少年のような中年にそっくりだった。

 一度目を逸らし、恐る恐る再び凝視する。水泳帽に書かれた名前が目に入った。

『あだち かんた』

 名前も苗字も、彼の顔にピッタリだった。

パラソルの隣の謎の親子、実は…

「わかった、帰ろう。なんか食べて帰る?」

「今日、パパは?」

「大阪に泊りで出張なの。たこ焼き買って帰ろうか」

 ざわめきの中、彼女と子供たちの会話だけが際立って聞こえる。もしかしたら、聞こえるように話しているんだろうか。

 ――わざとここに……? 

 夫のスケジュール帳や、インスタのDMのやりとりを覗き見てきたのかもしれない。

 妻が、夫の愛する人の前に来て、やることと言ったらただひとつ。私は唾をごくりと飲み込んだ。

「いつもの豚まん、買ってきてくれるかなあ」

 本当の少年が弾んだ声で言う。私は耐えられず、その場を立った。

 逃げるために――。

「ごめんなさいね」

 母親の女性は、なぜか申し訳なさそうに頭を下げた。私もつられて頭を下げた。そして目の前の流れるプールに逃げ込んだ。

彼女の「謝罪」の意味は

「ハァ…」

 浮き輪に身を委ねて、彼女の謝罪の意味をずっと考えていた。

 そのまま受け取れば、子供が騒いでごめんなさい、ということだろう。だけど、素直に受け取れない病に罹っている私にとって、何重もの意味があるものに思えた。

 ――何しに来たんだろう。

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


「先生、会えそう♡」修羅場不可避!ズル休みが招く誤爆LINE
 みなさんは会社をズル休みしたことがありますか? 世の中には「浮かれ気分のズル休み」が原因で、身を滅ぼしてしまった人もい...
「40代ならではの終活」時間を味方に5つの取組みから始める
 終活は「高齢者がするもの」と思っている人が多いでしょう。中には「終活を考えるのは悲しい……」と感じる人もいるかもしれま...
“たまたま”の秘密の地底基地にご案内! 美シッポにも注目♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「トイレ掃除の水滴かも」いざ復讐!鬼嫁を撃退した賢いLINE
 世の中には鬼嫁の尻に敷かれた可哀想な夫が数多く存在します。その多くは、夫自身が平和主義で優しすぎたり、妻が抱える夫への...
これが熱中症? ランニング中にぶっ倒れた話 2022.07.30(土)
 7月もあとちょっとで終わりですねえ。いよいよ、夏本番です。セミの声に、まぶしく照りつける太陽。テンション爆上がりですよ...
「たんだ☆」「たんだ☆」必殺オウム返し!自慢LINEの対処法
 会話の中で、なにかと自慢話ばかりしてくる友達にうんざりしていませんか? うっかり「すごいね!」なんて言ってしまうと、会...
こじれた”かまってちゃん”になるのはこんなヒト すぐにできる予防法
 みなさんの周りには、他人に「私の長所ってどこ?」と聞いてしまう人、いないですか? リアルには知らなくても、SNS上でそ...
威嚇じゃなかった!“たまたま”君の大きなあくびに思わず脱力
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
一生独身でもいいじゃない! 将来の不安を断ち切る4つの方法
 友達の結婚や出産の知らせが届くたび、「もしかして私は一生独身なのかな……」と、不安を感じてしまう女性は多いでしょう。若...
「蓮」の実で運気アップ!開運花師が教える簡単アレンジテク
 暑いのがとにかく苦手で、夏が大っキライなワタクシ。どうやら子供の頃に一生分の海遊びをしてしまったせいか、海を見てもワク...
「パパとりこんできる?」キュン死必至! 子供の可愛いLINE
 子供の言動って、素直で奇想天外でとても可愛いですよね! 最近では、子供の安全のために、小学校低学年からスマホを持たせる...
ザ・にゃんたま天♡ “たまたま”全開で無防備すぎるやろ~!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「15人のお侍さんが…」霊感のある女友達からのゾゾッとLINE
 あなたには、霊感のある友達はいますか? 彼女たちには、普通の人には見えないはずのものが見えるようです。そして、中には、...
すいかばかと呼ばれる男<3>「水果」でささやかな夏の贅沢を
 山梨県のすいかの生産量は全国で最下位の47位。その山梨県北杜市で、ひとりこだわりのすいかを作る男がいる。寿風土(ことぶ...
私、性格悪い?「シャーデンフロイデ」に気づいた時の処方箋
 みなさんは、シャーデンフロイデ(独:Schadenfreude)という言葉を聞いたことがありますか? 日本語に直訳する...
部長にサマるって“部長様”?カタカナでやらかした赤っ恥LINE
 いつの間にかすっかり私たちの日常に溶け込んだ「カタカナ語」。普段何気なく使っている人がほとんどだと思いますが、正しく覚...