謎を深めただけの「ラストインタビュー」 藤島ジュリー景子の話題の本を読んで「それはあり得ない」と思った部分
【週刊誌からみた「ニッポンの後退」】
「知らなかったでは決してすまされない話だと思っておりますが、知りませんでした」
2年前の2023年5月14日、藤島ジュリー景子(旧ジャニーズ事務所代表取締役)は「ジャニー喜多川の性加害事件」について「謝罪動画」を公開、同時に公表した文章にこう書いた。
何も知らなかったのだから、批判されても答えようがない、という開き直りともとれる物言いが、さらなる批判を招いたことは記憶に新しい。
そして今月18日、そのジュリーが「ラストインタビュー-藤島ジュリー景子との47時間-」という本を出した。版元は新潮社。インタビュアーは小説「イノセント・デイズ」などで知られる作家・早見和真。
新潮社の名物おばちゃん重役の中瀬ゆかりが仲介したようだが、本を出すというのはジュリーの強い意志だった。最初、早見はこの話を週刊文春の竹田聖編集長に持っていって、連載インタビューすることになっていたというのだ。もし、それが実現していたら内容は随分違ったものになっていただろう。
早見のスタンスは、ジュリーの言ったことはそのまま載せる。その言葉の裏は取らないというものだ。
さっそく読んでみたが、早見には失礼な言い方になるが、ジュリーの「言いっ放し」本である。
ジュリーの冒頭の言葉を、個別具体的に語ってはいるが、結局、「知ろうとしなかったことって、こんなに糾弾されなければいけないことですか?」「それでも、私は自分から知ろうとしなかったので。私の生きる術だったんです。深追いして傷つくことを恐れて、知らない方がいいと思ってしまう。はぁ……。それは今回の件に限らず、私は万事そうなんです」と自分の穴に潜り込んでしまう。
叔父のジャニー喜多川についてはこうである。
「小さい頃に限らず、二人でご飯を食べたことは一度もありませんでした。印象に残っていることでいえば、『少年隊』がデビューする前に、アメリカでいろいろなショーに出そうとしたことがあったんです。その時期に通訳として一緒に連れていかれたことがありました。そのときにしゃべることはありましたが、そのくらいですかね」
ほとんど話したことがないのだから、性加害についてなど知るわけはない。文春がジャニー喜多川の性加害問題を連続追及し、ジャニーズ事務所が名誉毀損で訴えた裁判で、高裁は「彼のセクハラについては認定した」。だが、母親メリー喜多川の、「本人が無罪だといっている。負けたのは弁護士のせい」という言葉を今でも信じていると言っている。さらに、「メリーがジャニーの蛮行に気づいていなかったことはあり得るのか」という質問にも、「それはあり得たと思います。(中略)母も弟であるジャニーの性癖を知ろうとはしなかったでしょうから」。
それはあり得ない! 文春が追及する8年前に週刊現代がジャニーの「ロリコン趣味」を取材したとき、メリーは記者に対し体を張って阻止しようとした。さらにメリーは、「弟は病気だから」と周囲に漏らしていたのだから。
ジュリーは、自分が手掛けた「嵐」の成功に母親のメリーが嫉妬して決定的な溝ができ、以来、まともに話したことがない。ジャニーとメリー両方と会話もなかったのだから、性加害のことなど知るわけはないと言い募る。
本を出せばまたいろいろ言われるがという問いには、「私はもうたくさんのものを失ってきましたから。これ以上なくすものはないと思うので」と最後まで開き直る。
「嵐」成功までの秘話や「SMAP」解散の舞台裏など、ファンなら喜ぶであろうエピソードもある。だが、全体としては「ジュリーという謎」をさらに深めただけの本と言わざるを得ない。 (文中敬称略)
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)
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