更新日:2025-10-18 11:45
投稿日:2025-10-18 11:45
スカスカの街に迎合したくない
アートやカルチャーの素養が一切ない故郷。簡単なのは、自分のセンスを降ろして地元の感覚に迎合し、商売を成功させることだ。
しかし、それらに迎合した結果が今のアニメ絵だらけのスカスカの街である。
「わかった…いろいろ考えてみる」
葛藤の末に、とりあえず業務用のパスタとパスタソース、冷凍ピザを業者に注文した。メニューを増やす、これが自分の出来る唯一の妥協点だった。
メニュー改定して数日後。
「ここ、ランチやってるの?」
店前に『ランチ』と大きく書かれたのぼりを掲げると、すぐにお客さんがひとりやってきた。朝釣り帰りの男性のようだった。客を選んでいる余裕はない。朱里は笑顔で出迎えた。
「はい。おすすめは手作りのスパイスカレーとレモネードです」
サングラスとひげ面の長身男性。大きなリュックとクーラーバッグを傍らに、店の真ん中のちゃぶ台の前にどかりと座った。
朱里が手書きのメニューを差し出すと、その男性は固まった。
聞き馴染みのある低い声、現れた男性は
「ん…?」
朱里も固まる。松波さんのように「値段が高い」「メニューが少ない」とでも言われるのでないかと背筋を伸ばして構えた。
「あの、なにか?」
「あーちゃん、だよね」
聞き馴染みのある、低い声だった。
顔をあげ、朱里は思わず高い声を上げた。
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