「代官山のトレースだね」地元同級生からの“皮肉”が刺さる…“私は違う”と信じた女が虚飾に気付く瞬間

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-10-18 11:45
投稿日:2025-10-18 11:45

「地元の誇りです!」大輝の言葉を思い出す

 その時、このカフェに欠けていたものがわかったような気がした。

 朱里は思い出す。大輝がここに来た時に言われた言葉を。

 ――代官山や鎌倉あたりにも普通にありそう――

 所詮この場所は、東京や湘南のトレースだったのだ。おしゃれに見えるだけで、個性も信念も何もなかった。つまり、有名アニメを使った町おこしやチェーン店と、客観的にはなんら変わらなかった。

 あがいても20代のうちに東京で成功できなかった自分。心が折れる中で、都落ちする理由が欲しかった。地元で、東京にいた感度の高い自分というアイデンティティを示したかった。

 根本は、そんな下心で作った居場所だった。ここが、カルチャーやアートがなにもない場所だと見下すことで、都会かぶれの自己顕示欲を満たしたかった。

 そもそも自分は地域おこしなんて、興味はなかったのかもしれない。

 大輝はそこを見透かしていたからこそ、あの言葉で皮肉ったのだ。結局、地元で大きい顔をしたいだけの松波のおじさんと変わりなかったんだ。

「くそダサい」と言った自分を悔む

 朱里は、東京に再び居を構え、2拠点生活を始めることにした。

 カフェ運営を妹に任せ、オーナーとして携わりながら、もう一度イラストレーターとして、改めて勝負してみる。

 地元で東京の真似事をするより、地元の人間が広い場所で活躍して、その存在を知らしめることが本当の地域おこしだと気づいたのだ。

 ――私は、この町のことを、何も知らなかったんだ。

 大輝がいきなり釣りをはじめたのも同じこと。最近、彼は個人YouTubeで、釣りチャンネルをはじめ、地元の海の素晴らしさを語っているらしい。自分本位でない、地域への影響の起こし方をわきまえていると思った。

 東京へと向かう、東海道線の駅のホームで、ちらりとアニメ絵の看板が朱里の目に入った。

「あの美少女アニメ、ちょっと見てみようかな」

 さっそく鈍行列車で2時間。その世界に浸ってみる。意外とすぐにハマってしまった。

 どおりでアニメを見た観光客がこぞってくるはずだ。自分の目には見えていなかった、地元のいいところがたくさん詰まった作品だった。

 かつて、この町を「くそダサい」と評したことをたまらなく悔いた。

 Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


出産で疎遠に…結婚後に態度が変わる女友達の特徴&無理しない付き合い方
 学生時代に仲の良かった女友達も、結婚した途端に疎遠になってしまったというのはよくある話です。どうせなら、結婚しても長く...
発達障害グレーゾーンの長男が憎い…ある一言で私の何かがプツンと切れた
 ステップファミリー6年目になる占い師ライターtumugiです。私は10代でデキ婚→子ども2人連れて離婚→シングルマザー...
パーフェクト“たまたま”の精悍&クールな眼差しに痺れちゃう
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
ゴールデンボンバーの「女々しくて」は言い得て妙だった!
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「女ことば」では、女性にまつわる漢字や熟語、表現、地...
LINEのない生活は無理!父の死、仕事の失敗、自分の病…心が救われた話
 仕事で大きなミスをして落ち込んだり、大事な人を失って悲しんだりと、気持ちが沈んでしまう瞬間がありますよね。そんなとき、...
他人の不幸は蜜の味でも不倫より「よろめき」のほうが風情があっていい
 コミックや書籍など数々の表紙デザインを手がけてきた元・装丁デザイナーの山口明さん(63)。多忙な現役時代を経て、56歳...
義母が若すぎるとこうなるのか!介護の心配もジョークで交わせるって素敵
 年下の男性と結婚した場合や、夫の母親が若くして出産している場合には、若すぎる義母が誕生するケースがあります。中には、義...
ほっこり読み切り漫画/第59回「ボクは君で、君はボク」
【連載第59回】  ベストセラー『ねことじいちゃん』の作者が描く話題作が、突然「コクハク」に登場! 「「しっ...
「たかが、ものもらい」じゃなかった 30代女、霰粒腫の手術をしました
 先日、眼科で右目のまつ毛の生え際にあった“しこり”の切除手術をしました。「たかが、ものもらい」と思っていたのですが、こ...
久々に会ったペルシャ料理店の友人は変わらず元気だった
 お互いにいい歳。出合った頃より額は広くなったし、シワも増えた。  そして、なぜだか年々服装がハデになっていくんだ...
木下優樹菜はイチャイチャ公開…子の将来に悪影響を及ぼす母親の恋愛は?
 元タレントの木下優樹菜(35)が“アクセル全開”、SNSの投稿や出演番組があれやこれやと話題になっている。  た...
子供の言葉遣いが悪い時はどうすれば? 考えられる4つの原因
 子供が保育園や小学校に通い出すと、悪い言葉遣いを覚えて帰ってきます。また、悪い言葉遣いはSNSや動画サイトなどからも大...
“たまたま”の日常♡ この写真にぴったりな名前を選んでニャ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
コクハク専属ライバー コクハクリーダーズ第1期生を大募集!
 日刊ゲンダイが運営する女性webメディア「コクハク」では、メディア制作に協力してくださる「コクハクリーダーズ第1期生」...
金木犀の香りが空前のブーム!甘く懐かしくアンチエイジングに運気UPも
 とある量販店に行った時のことです。入り口付近に黄金色の商品ばかりが並び、遠巻きに見ると店舗全体が黄金色に輝いてみえる。...
タイパ? なにそれ。映画館で初対面の作品と出会う胸のときめき
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...