「この初老の女が私?」映像に映った“残酷な姿”に凍り付く。もう若くない…悟った女が辿りついた答え

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2025-12-13 11:45
投稿日:2025-12-13 11:45

脳内の自分と現実のギャップに衝撃

 気持ちと現実のギャップ。

 脳内で描く理想の自分の齟齬。まさに、目の前で突きつけられた気がした。

 崇は気にしていないようだった。それでもいい。それが前向きな受け止め方。だけど私は、玉手箱を開けてしまったような感覚に陥った。

 私は崇から身体を離す。彼は人目をはばからずノリノリだ。だけど、ライブも中盤に差し掛かった頃、途端に大人しくなった。息が荒くなっていた。

 柱代わりに彼に身を寄せる。彼は私にキスをしたそうだったけど、恥ずかしいフリをして顔を逸らした。

 汗と、年齢を重ねた男性の匂いを私はかみしめた。

 ――……いつまでもアラサー気分のままでいいの?……

一番楽しくて、夢中だったあのころに、自分は逃げようとしている。

 いや、今までもそうだった。ずっと、輝いていた頃にしがみついて生きていた。これから先も、「あの頃はよかった」そんなことを言い続けながら、私は後ろ向きで歩き続けるのだろうか。

 結局、崇は年を取った以外はなにも変わっていなかった。他人としては安心できる存在だけど、きっとまた同じことを繰り返す。後ろ向きのままで。

「この後、どこ行く?」

「疲れたから、帰るね」

「そうだね。2日連続は疲れるよね」

 まるで何もなかったかのように、坂の途中で、私たちは次の約束をせずに別れた。

 誘いがあれば、会ってもいいけど、少なくとも私は自分から誘う気力はない。それはくたびれた大人になってしまった証拠だ。

置いて行かれたんじゃない。進もうとしなかっただけ

 ――辞令、うけてみようかな……。

 今を思い切り楽しんでいる世代の人波を逆走しながら、もうここは私の街でないことをはっきり理解した。

 若者の町に、居心地が悪くなっていたことはわかっていた。

 だけど、違うんだと言い聞かせて、必死に抗おうとしていた。時代に、年代に、乗り切れないことを、必死に言い訳して。

 駅に向かおうとする足を止めて、タクシーを止める。

 タクシー。それがいまの私に相応しい手段。もう若者ではない私は、受け入れるためにあえてそうしてみる。

 乗り込むなり、自宅の場所を告げた。

 流れてゆく街の景色はいつもの2倍速だ。優越感と町の彩りが目に優しかった。

「お姉さん、ごきげんだね」

 運転手のおじさんに声をかけられる。知らぬ間に鼻歌をうたっていたみたいだ。オザケンのアルバム曲、どうやら同世代だそうだ。曲名を簡単に言い当てられた。こころなしか、会話がはずんだ。運転手さんは今、子どもの影響で、アイドルソングにハマっているらしい。

 時代に置いて行かれたわけじゃない。進もうとしなかっただけ。まだまだ時代は続いていくのだから、今からでも乗り遅れずに歩むこともできるはず。

 坂道を登りきると、そこにはどんな景色が広がっているだろう。

 なぜだろう、心なしかワクワクが芽生えている自分に気づいた。

 Fin

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


目標を必ず達成するには? 新年の抱負を叶える4つの方法!
「一年の計は元旦にあり」と言いますが、まさに今、「今年はこんな1年にしたい」と、気持ち新たに新年の目標を立てている方もい...
ストレスはスマホのせい? 気軽に「デジタルデトックス」を
「仕事をしているとき、なんだか集中力が続かない」「睡眠が浅い気がして疲労がどうも抜けない」――。それ、もしかしたらデジタ...
初詣は神社とお寺どっちが良いの? ご利益アップの方法♪
 普段は神社やお寺に行かない人でも、新年の始まりに「初詣」に向かう方は多いでしょう。でも、「初詣は神社とお寺どちらが正し...
思わずキュン…男が遊び目的の女子に言う危険なセリフとは?
 男性に弱みを見せられると「キュン!」ってしちゃいますよね。でもそのキュン、実は遊びたいだけの男性が利用している場合があ...
番組タイトルを考えながら実力を磨きチャンスをつかんだ日
 誰だって一度は「こんな仕事がしてみたい」「こんな世界で働いてみたい」と夢を見る。でも実現できる人は多くはないし、それで...
年末の大掃除でうっかり処分…断捨離して後悔したもの4選
 12月は大掃除の季節。窓掃除に換気扇拭き、床磨き、そして断捨離に踏み切る人も多いでしょう。 「来年こそミニマリストに...
来年は絶対幸せに!福を呼ぶ縁起物「正月花」をゲットして
 ブサかわ猫店長率いる我がお花屋さんは、毎年お正月に使う竹の伐採のため竹林に参ります。  毎年お世話になる竹林の持...
福袋でガッカリするのをやめたい…失敗しないで楽しむコツ!
 お正月の楽しみの一つに福袋があります。「2万円の福袋の中身に10万円分! こんなにお買い得なのは福袋だけ!」ーー“限定...
「万年猫年にゃろー!」ねずみ年に物申す茶トラ“にゃんたま”
 年の瀬も近づき、今年もたくさんのにゃんたまωに感謝して振り返る時期となりました。  きょうは、モフモフな鈴カステ...
2019-12-26 06:00 ライフスタイル
拒薬という問題…高齢者が薬を飲まない時に試したい方法3つ
 一昔前まで、薬は“化学物質”という認識が強く「体に良くないもの」という概念があったような気がします。ところが近年では、...
20代だけじゃない パパ活市場でアラフォー女性が人気のワケ
 女性が男性と食事やデートをし、その対価としてお金やプレゼントをもらう「パパ活」。ほとんどの場合、20代前半の女子が若さ...
本命クンを狙いつつ…ハンター女子に必須の“合コン後”の行動
 合コンや忘年会などのイベントが多い年末。ちょっと気になる人がいても、宴会の最中は動けなかったり……そんな経験はありませ...
セクシーに! 振り向きポーズがキマった横チラ“にゃんたま”
 きょうのにゃんたまωは、南の島から横チラωをお届け。  形の良い、グラデーションプリ玉です。  ん!? ...
種類豊富で美容と健康の味方! 絶品の台湾フルーツをご紹介
 台湾フルーツといえば、マンゴーと答える方が多くいらっしゃると思いますが、実はマンゴー以外にも日本ではあまり見かけない、...
来年のアナタの幸福は年始の玄関がキメ手「門松」と神のお話
 毎年年末になると、門松を納めさせていただく某旅館がございます。  東京に住む友人とのたわいない話で「そういえば斑...
とにかく安く旅行したい! 3つの節約アイデアで思い出作りを
 日々のストレスから「こんな現実、忘れたい!」「刺激的な体験をしたい!」と思うことはありませんか? そんな日常に贅沢を与...