妻を自分に依存させる完全なる策略…真由さんのケース#5

神田つばき 女と性 専門ライター
更新日:2020-01-11 06:57
投稿日:2019-10-13 06:00

モラルの人を演じることがモラハラ男の最高の喜び

 このときモラハラ夫の心はうれしさと満足でいっぱいだったと推測することができます。「自分は病気の妻をいたわり、苦労する優しい夫である」という虚構のモラルを、他人が疑いなく信じていることがうれしいのです。

 そして家の中に戻って目にしたのは、抗議の言葉すら失うほどおびえ、へたり込んでいる心を病んだ妻の姿――そんな無力な妻はもはや怒りの対象ではありません。献身的な優しい夫像を完成させてくれる重要な脇役なのです。

 いつもなら食器をテーブルに叩きつけ、床をガンガン踏み鳴らしながら食事する夫が、「卵焼き、うまいな。早く来ないとなくなっちゃうよ~」と言いながら、目を細めて食べています。その姿を見つめる真由さんの目から涙が流れ、止まらなくなりました。目の前で起きていることをどう判断していいかわからなくなり、混乱を起こしてしまったのです。気がつくと夫が背後から真由さんを抱きしめていました。

夫への疑念とぬくもりの間でとまどう妻

「大丈夫。俺が真由を守るから。真由は何にも心配しなくていいから」

「でも……私、夜中に音なんか立てていない…」

「うん、わかってる。ねえ真由、今のままじゃ医者から薬漬けにされてしまうよ? 君は薬の副作用で、睡眠中に起き出して異常行動を取っているんだ。このまま真由が壊れていくのを、黙って見ているわけにはいかないよ!」

 それはちがう、私を壊そうとしているのはお医者さんでも薬でもない、あなたです――と言おうとしましたが、なぜか言葉がバラバラになって口から出てきません。それよりも、夫の体温を感じたことに真由さんは激しく動揺しました。結婚当初までの夫は、いつもこんなふうに暖かくて安心を与えてくれる存在だった――張りつめていた緊張が少しだけ解けはじめていました。

突然の引越しと夫の変化は幸せな未来の予兆なのか

 この日以来、夫が激昂することは少なくなり、それどころか真由さんと手をつないで買い物に行ったり、会社帰りに待ち合わせて外食に行ったりするようになりました。その後のメールでは、夫が郊外に家を買おうと言い出し、二人で中古物件を見に行ったそうです。

「離婚の話題には、その後どちらからも触れていません。でも、夫が無言で圧迫してくることが少なくなったので、私も減薬できています。『病院で高い金を払って薬漬けにされるより、自然の中で暮らすほうが体のためだよ。引っ越したら子どもを作ろう。真由はいいお母さんになるよ』と言われて、今とてもグラグラしています」

 私には、真由さんの夫は「精神を病んだ妻に献身的に尽くす夫の役」を一時的に楽しんでいるだけに見えるのですが、それは疑いすぎでしょうか? この役に飽きて、またモラハラが激しくなるようなことはないのでしょうか? 今は真由さんの幸せと、私の心配が杞憂に終わることを祈るしかできませんが……。

 ◇  ◇  ◇

※登場人物はすべて仮名です。また、取材相手の個人情報が特定されたり、登場する男性の恨みを受ける恐れがある場合、別のエピソードを入れるなどの変更を加えています。

 モラハラ男から被害を受けた体験のある方、エピソードをコクハクしたい方、teamコクハクの質問・相談・その他のご依頼はこちらから、執筆者で“神田つばき”を選択して体験談をお寄せください。お待ちしております!

【あわせて読みたい】
夢みたいな新婚生活に落ちた黒い影…志穂さんのケース#1
わずか7日で構築された支配のパターン 美沙さんのケース#1

神田つばき
記事一覧
女と性 専門ライター
離婚と子宮ガンをきっかけに“目がさめて”女性に生まれたことの愉しみを取り戻すべく、緊縛写真のモデルとライターに。私小説「ゲスママ」、イベント「東京女子エロ画祭」「親であること、毒になること」などを企画。最近は女犯罪者や緊縛表現者に関するZINEの制作・販売を開始。Xnoteblog

関連キーワード

ラブ 新着一覧


ノリ悪すぎてつまらん! 夫婦間の「関西人vs 東京人」バトル。妻が夫に感じる“地域差”あるある
 出身地域によって、常識や価値観が違うのは当然です。当たり前だと思っていたことが通じないと、イライラが溜まりますよね。夫...
恋バナ調査隊 2025-04-26 06:00 ラブ
「甘い言葉はバカバカしい」行為嫌いな46歳夫、妻に“演技で”求めた時に気付いたこと
「冷酷と激情のあいだvol.243〜女性編〜」では、夫婦間のレス解消への努力を始めた早織さん(仮名)の迷いをお届けしまし...
並木まき 2025-04-26 06:00 ラブ
45歳女が“夜の営み”作戦に悔やむワケ。友達夫婦の話に刺激されて…
 男女の関係では、交際相手や配偶者の態度に悩む人も少なくありません。愛し合っている男女間でも、価値観や物事の判断には個人...
並木まき 2025-04-26 06:00 ラブ
金目当てと罵られ…水商売あがりの女が“禁断不倫”に走るとき「義弟がたまらなく愛しくて」#1
 あまたある不倫でも「身内の婚外恋愛」は珍しくないのかもしれない。  今回取材に応じてくれたのは直美さん(45歳主...
蒼井凜花 2025-04-25 06:00 ラブ
つらすぎる!「40代の大恋愛」が終わっちゃった…別れた後の“ズタボロ”はどう癒せばいい?
 40代で失恋するのは、心身ともにとてもつらいものですよね…。今回は40代の失恋にありがちな別れの理由や、立ち直り方をご...
恋バナ調査隊 2025-04-25 06:00 ラブ
えっ、そんなことで? 勝手な男が語る「飽きる女」の特徴。尽くすのは勘弁…とか何様だよ
「付き合ってもすぐフラれる」「好きな人といい感じになっても連絡が途絶える」と、恋愛が長続きしないことに悩む女性は男性にす...
恋バナ調査隊 2025-04-25 06:00 ラブ
20代イケメン先生めぐりママたちが壮絶バトル…いまやPTAの係決めは新学期の風物詩に
 新入学や新学年の季節。子どもたちも新しい環境で張り詰めている時期ですが、そのウラで保護者のPTA役員決めの熾烈な争いも...
内藤みか 2025-04-24 06:00 ラブ
値上げラッシュで恋も砕けた… 物価高のせいで終わった恋愛エピソード。一方、得したことも?
 どこも値上がり、値上がりで勘弁してほしい! その物価高は、恋愛にも大きく影響しているのだとか…。悲喜こもごもなエピソー...
恋バナ調査隊 2025-04-24 06:00 ラブ
私はATMだった…彼が「お金目当て」と気付いた残酷な5つの瞬間。あんなにラブラブだったのに!
 世間一般的に、お金目当てで異性に近づくのは女性の方が多いと思われがち。でも、実際はお金目当てで女性に近づく男性ももちろ...
恋バナ調査隊 2025-04-23 06:00 ラブ
期待した私がバカだった…特別な日の「がっかりデート」体験談。私服に秒で蛙化、パチ屋で待機ってアリ?
 気張ったバレンタインデーの1カ月後にやって来たホワイトデーのデートに心躍らせていた女性もいるはず。でも、予想外のデート...
恋バナ調査隊 2025-04-22 06:00 ラブ
女をダメにする「メンヘラ製造機」男のヤバすぎる6つの特徴。当てはまったら即逃げて!
 不安が爆発して泣きじゃくったり、ヒステリックになって彼を追い詰めたりする、精神的に不安定なメンヘラ女は男性に敬遠されが...
恋バナ調査隊 2025-04-21 06:00 ラブ
「許されたとばかり…」10年前の浮気で離婚宣言された48歳男の遅すぎる後悔
「冷酷と激情のあいだvol.242〜女性編〜」では、夫の浮気を10年許すことなく、ついに離婚を切り出した美幸さん(仮名)...
並木まき 2025-04-19 06:00 ラブ
「10年前から決めていた」夫と不倫相手の妊娠騒動を耐えた45歳女の復讐
 男女の関係では、交際相手や配偶者の態度に悩む人も少なくありません。愛し合っている男女間でも、価値観や物事の判断には個人...
並木まき 2025-04-19 14:52 ラブ
おいおい…既婚者からLINEで告白、どうかわす? NG返信で1つですべてを失うかも!
 既婚者にLINEで「好き」と言われたら、どう返信するのがよいのでしょうか?  実際に経験がある女性たちにやりとりを見...
恋バナ調査隊 2025-04-19 06:00 ラブ
「女は求められてなんぼよね」還暦女とも男女の仲に…若旦那を共有するセレブ妻らの同盟 #3
 静香さん(35歳茶道講師/既婚子供アリ)は、祖母、母と3代にわたり、都内の邸宅で茶道教室を開いている女性だ。彼女は懇意...
蒼井凜花 2025-04-18 06:00 ラブ
会えなくて不安…彼と休みが合わない問題、どう乗り越えた? 長続きカップルに聞く秘訣
 休みが合わないカップルは、寂しさや不安が膨らんだり、相手への気持ちが分からなくなったりしがち。ただ、長く順調に付き合っ...
恋バナ調査隊 2025-04-18 06:00 ラブ