これは恋愛ではないと一気に目が覚めた…優紀さんのケース#5

神田つばき 作家・コラムニスト
更新日:2020-04-20 06:00
投稿日:2020-04-20 06:00
 半同棲状態だったのに、B男はそれきり優紀さんの前に姿を現さなくなりました。会いたいとメールすると、「弁護士に相談してA氏を訴えたらどうか」と言ってきたり、そうかと思うと「グラビアモデルとしてやって行く気はないのか」と返事してきたり。一人ぼっちで学食にいると、心配して声をかけてきたのはやはりCさんでした。

彼に新しい女? 自宅に突撃してわかったこと

 これまでの話を聞いたCさんは言いました。

「B男さんのメール、お金のことばかりだね」

「えっ、そうかなあ……?」

「ワンゲル部、マルチだって噂あるの知ってる?彼、ネットワークビジネスのリーダーなんじゃない?」

「それはないよ。私、そんなのに誘われてないし。ほかに彼女ができたんだと思う……」

 心の中にたまっていた不安を吐き出すと、ほんの少しだけ気持ちが楽になりました。

「私は女じゃないと思う。確かめてみたら?」

「でも……訴訟とかモデルやるとか、私が行動起こすまで会わないって言うの」

「じゃあ、彼の家に行ってみようよ。女がいるかどうかも、はっきりするかも」

 B男の住むマンションの名前は知っていましたが、優紀さんは一度も行ったことはありません。いきなり家に行ったらB男は怒るかも……気が進みませんでしたが、Cさんに引っ張られるようにして隣町のマンションに行きました。学生が住むにしては立派なファミリータイプのマンションでした。

見ず知らずの男から胸を凝視されて

 郵便受けで部屋番号をたしかめ、B男の部屋の前までくると、急にドアが開きました。思わず足がすくんだ優紀さんの目の前に現れたのは、B男でもなければ女性でもない、きちんとした服装の20歳ぐらいの男性でした。

「B男さん、いますか?」

 Cさんがたずねると、男性は何かを思い出したような顔になり、

「ああ! えっと…もしかして優紀さんですか?」

「いいえ、こちらが優紀ですけど……私は友人です」

「彼、今日はセミナーでいないんです。B男さんから聞いていますよ、グラビアモデルされてるんですよね?」

 言葉は丁寧ですが、優紀さんのバストのあたりをジロジロ見ています。いったいB男さんは私のことをどんなふうに伝えているんだろう? グラビアをやるなんて決めていないのに……と困惑していると、

「いいえ。人違いですね。別の優紀さんだと思います」

 Cさんはきっぱりと言い放ち、優紀さんの腕を引っ張るようにしてその場を離れました。

恋愛に擬装してモラハラやマルチを仕掛けてくる男

 コンビニバイトだけにしてはB男はいつもお金を持っていたこと、セミナーということはB男はあのマンションでほかの学生を使ってネットワークビジネスをやっていたのか、と優紀さんも腑に落ちました。

「でも、私の写真が裏サイトに流れているんじゃないか、と怒っていたのに、なんでグラビアモデルだなんて言ったんだろう?」

「だから言ったじゃない、B男さんのメールってお金の話ばかりだねって」

「えっ……」

「ああいう男はね、彼女や友だちや、親戚からだってお金を吸い上げるの。

 A先生を訴えて示談金もらっても、グラビアモデルになっても、優紀の手元にお金が入るでしょう? それからマルチに誘うつもりだったんだよ」

 にわかには信じられない話でしたが、自分のこともカモにするつもりで、会いたいのにじらされていたのかも知れない――。いくら会ってくれなくてもB男を好きな気持ちは変わらなかったのに、急に力が抜けていくようでした。優紀さんはこのときの心境の変化をこう語っています。

「怒りでも悲しみでもなくて、夢から覚めたみたいな感じでした。A先生とのことを私は正直に話したのに、彼はマルチのことを私に隠していた。そんなの付き合ってるとは言えない、とやっと気がついたんです」

モラハラ男は弱みや傷に付け入ってくる

 その夜、「今日、うちに来たんだって? もしかしてA氏を告訴した?」と、B男からメールが来ましたが、「私、B男さんのビジネスには興味ないので、もうメールしないでください」とだけ返事をすると、それきり何も言ってこなくなりました。

「心の底では、そんなの誤解だ、会って話をしようって言ってくれるかも……と、まだ思っていました。でも、それで終わりでした。たまたま学生課が学内のマルチ活動について警告を出したので、彼もあっさりあきらめたんだと思います」

 優紀さんの心の底には、あまり人に言えない高額バイトをしてしまった後ろめたさと、A氏に遊ばれてしまった心の傷がありました。モラハラ男は他人の心の弱みを察知するのが得意です。B男は「行動しろ」「自分を確立しろ」と励ますように見せかけて、優紀さんを利用しようと画策していたのでしょう。

絶対に自分一人で解決しようとしないで

 キャンパス、バイト先、マッチングサイトなどでマルチビジネスに引きずり込まれる例が増えています。特に若い女性の場合、「君はそんな生き方でいいの?」とモラハラ的に圧をかけられると、断りたいのに断れない……ということがあります。

 Cさんは「優紀が高額バイトをしたのって、私の言葉がキッカケじゃん? ちょっと責任感じたんだよね」と言ってくれたそうです。

 もしかしたらモラハラ? もしかしたらマルチ? と思ったら、誰かに力を貸してもらいましょう。

 モラハラ男は「そんなことも自分で決められないの?」と言ってくるかもしれませんが、それも周囲からあなたを分断するための常套手段です。友だちや家族、先生、上司など、誰かに話して、決して周囲から孤立しないように気をつけてください。

神田つばき
記事一覧
作家・コラムニスト
離婚と子宮ガンをきっかけに“目がさめて”、女性に生まれたことの愉しみを探そうと緊縛写真のモデルとライターに。私小説「ゲスママ」、女性の悩みや疑問を解き明かすコラム「性に纏わるあれこれ」
イベント「東京女子エロ画祭」「親であること、毒になること」などの企画も。X

関連キーワード

ラブ 新着一覧


「高収入なのに金出せってイミフ」自らの女運を憐れむヒモ男
「冷酷と激情のあいだvol.131〜女性編〜」では、事実上の同棲中の恋人・トモキさん(仮名)に対して、お金にまつわる違和...
並木まき 2023-02-25 06:00 ラブ
「カップル旅行あるある」お金で喧嘩するのは目に見えている
 付き合いはじめて3カ月のラブラブな時期に旅行に出かけるカップルは多いとか。旅行中は相手の性格か見え、相性がハッキリわか...
恋バナ調査隊 2023-02-25 06:00 ラブ
男性のうざい武勇伝は強制終了が正解!ベストなあしらい方
 男はかっこつけようとする生き物。目の前に気になる女性がいるとしたら、その意識は格段と強まります。  そこでやらかしが...
恋バナ調査隊 2023-02-24 06:00 ラブ
宅飲みに誘われた!付き合っていない男だよ、上手な断り方は
 まだ付き合っていない男性から、宅飲みに誘われたらどう断っていますか?「もう少し相手のことも知りたいから、断って嫌われた...
恋バナ調査隊 2023-02-24 06:00 ラブ
40代彼女の“草”発言にゲンナリ…「あ、無理」と感じる男性たちの本音
 今回ご紹介するのは、40代の彼女を持つ男性の不満。直接彼女には言えないけれど、ひそかに「そこ無理!」と思っていることが...
恋バナ調査隊 2023-02-23 06:00 ラブ
優良物件!妻や彼女を大事にする「いいマザコン」の見抜き方
 恋愛や結婚相手を選ぶ際、あなたは何をNG条件にしていますか? 人それぞれとはいえ、きっと「マザコンだけは避けたい!」と...
恋バナ調査隊 2023-02-23 06:00 ラブ
「僕からは動きません」マッチングアプリで急増する“定型プロフ”に要警戒
 コロナ禍以降、すっかり市民権を得たマッチングアプリ。その中には首を傾げたくなるようなプロフィールをアップしている男性も...
内藤みか 2023-02-23 06:00 ラブ
デートのお礼LINEは二の矢三の矢を!「また今度」の社交辞令回避テク
 素敵な男性とせっかくデートまでこぎつけても、2回目につながらずフェードアウトしてしまう恋はたくさんありますよね。実は、...
恋バナ調査隊 2023-02-22 06:00 ラブ
本命彼女になりたい…男性を沼らせて手放せない女になる方法
 いつも彼女になれず、都合のいい女止まりになってしまう。彼女になっても全然大切にされない……。  男性になかなか大事に...
若林杏樹 2023-02-22 10:58 ラブ
既婚者マッチングアプリで出会った男性と“お寿司ランチ”した
「コクハク」の本コラムで、「既婚者マッチングアプリって?実際に使ってみた感想と注意点」を書いたのですが、今回はさらに深掘...
豆木メイ 2023-02-21 06:00 ラブ
黒歴史!借金、束縛、浮気常習…別れてよかった元カレ大集合
 交際中に「この人しかいない」「絶対結婚する!」と、相手に執着してしまう女性もいるでしょう。でも、もしかしたら“別れたほ...
恋バナ調査隊 2023-02-21 06:00 ラブ
マンネリ打破に!夫婦のラブホテルデートはメリットだらけ
 新婚の頃は夫への愛情でいっぱいだったのに、結婚生活が長くなり、子供が生まれてみると、すっかりときめきがなくなってしまっ...
恋バナ調査隊 2023-02-20 06:00 ラブ
サレ妻が浮気夫に復讐!ダメージ100倍・スカッと1000倍エピ
 世の中には、浮気や不倫をして、愛していたはずの妻を「サレ妻」にしてしまう夫が存在するようです。でも現代において、黙って...
恋バナ調査隊 2023-02-19 06:00 ラブ
私のテクじゃつまらない? 交際1カ月でのレスに悩む37歳女性
 男女の関係では、交際相手や配偶者の態度に悩む人も少なくありません。愛し合っている男女間でも、価値観や物事の判断には個人...
並木まき 2023-02-18 06:00 ラブ
ムラムラするのに反応しない! 予想外の事態に困惑する50男
「冷酷と激情のあいだvol.130〜女性編〜」では、交際中の恋人と交際1カ月にしてすでにレスに悩んでいる女性・里香さん(...
並木まき 2023-02-18 06:00 ラブ
夫の2回目の不倫が発覚! 冷静にソッコーで手を打つべきこと
 一番信頼している人に「不倫」という形で裏切られた妻は、たくさんの葛藤や苦しみと戦いながら、必死で笑顔を作ろう、前に進も...
恋バナ調査隊 2023-02-18 06:00 ラブ