脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #1

うかみ綾乃 小説家
更新日:2020-12-28 14:30
投稿日:2020-12-27 06:00
 女が脱ぐ仕事をするのには、いまも昔も危険や煩わしいことが付きまといます。

 私自身、音楽をやっていた頃に自分の作品でヌードを出したところ、勝手に湧いてくる厄介事への対応に時間とエネルギーを費やし、音楽仲間にも嫌な思いをさせたことがあります。

 ただ結果的にそれが、エロの世界で仕事をはじめるきっかけとなり、20数年経ったいまも続けているのは、やっぱりこの世界が好きなのと、もうひとつ、当時、私を守ってくれた、ある出版会社のK社長のおかげです。

 その出版社はいまはなく、K社長の行方も、私は知りません。

 ただ、姿を消したときに、大袈裟でなく、命がけで私を守ってくれたK社長の思い出を、今回は書かせていただきます。

社長と出会った1990年代半ば

 K社長は、新人のインディーズミュージシャンだった私の歌詞に目を留め、詩集をつくろうと声をかけてくれた人でした。

 時代は1990年代半ば。CDも本も、日本史上でもっとも売れていた頃。

 私自身は、東京ローカルでささやかに歌っていたマイナーミュージシャンで、ただ、性をテーマにした歌が少し注目されており、でもメジャーな媒体ほど「セックスを歌う若い女=男のためのエロコンテンツ」や、当時流行っていた「不思議ちゃん」系の扱いだったので、面倒臭いなぁ、放っておいてほしいなぁ、と思っていたところでの、K社長との出会いでした。

 彼の小規模な出版会社が発行していたのは、主に随筆や詩集、鉄道や風景の写真集。

 一見は温厚で紳士的なK社長は、話せば話すほどに、反骨精神と理想に燃える文学青年の魂を持ち続けている人でした。

 私の歌詞のなにを素晴らしいと感じたのか、淡々と語ってくださる社長の言葉に、言葉の力を改めて教えられる思いでした。

開放感からヌードに

 制作が始まりました。その過程で私は、詩集に写真をつけたい、と思いつきました。

 ちょうどその頃、以前からファンだったある写真家さんと仕事でご一緒し、一緒に作品をつくろうと話していたのです。

 その写真家さんは、少女のあどけなさとグロテスクが内在した幻想的な作品を撮る方でした。

 K社長にとっては予想外のことですが、社長も私も、やるかやらないかなら、やる性格。そして社長は作家のやりたいことに、基本的にNOは言いません。

 その写真家さんとのセッションのことも、そのうちここで書きたいと思いますが、彼の暮らす旧い日本家屋で、気心の知れたごく少数のスタッフたちと寝泊まりしながらの撮影の中、私はどんどん開放的になり、やがて「よーし、脱いじゃえ」となりました。

 天気が良くて、木漏れ日がきれいで、なんかそういう気分だったんですね。

 ところが、その写真を見たK社長は、初めて私にNOと言いました。

「あやさん、このヌードは入れないほうがいい。なぜなら僕たちは、脱ぐ女の子を守るノウハウを持っていない」

「脱ぐ女の子を守るノウハウ」

私の世界で好きなことをするのなら…

 K社長の言ったその言葉の意味が、当時の私にはわかりませんでした。

 作品を出す以上、多少の不本意な反応は覚悟の上ですし、私の好きな表現者やインディーズの周りでも脱ぎたい人は脱いでいましたし、そもそもマイナーミュージシャンである私が、小さな世界で好きにやったところで、私の表現に興味のない人たちは、ふつうに通り過ぎていくものだと思っていました。

 とにかく、せっかく自信のある作品をつくったのだから、発表したい。私は粘って交渉し、社長は作家の熱意に心を動かす人でした。ヌード写真も数点入れた作品を発売しました。

 そしてその後、私はK社長の言葉の意味を、思い知ることになりました。

 折しもヘアヌードブームの後期。

 自分には無縁だと思っていたそのブームに、私の作品がプチハマりしたのです。

 次回に続きます。

うかみ綾乃
記事一覧
小説家
2011年「窓ごしの欲情」(宝島社文庫)で日本官能文庫大賞新人賞受賞。’12年「蝮の舌」(悦文庫)で第二回団鬼六賞大賞受賞。コラムニスト、映画の原作&脚本家としても活躍中。近著に「蜜味の指」(幻冬舎アウトロー文庫)。2020年から原作映画『モンブランの女』(『モンブランを買う男』AubeBooks)が全国で公開中。
ブログ http://ukamiayano.blog.fc2.com/

ライフスタイル 新着一覧


見事な“おばさん体型”にショック! 食事は1日3食か、1食か…正解はどっちなの?
 女性なら誰でも通る茨の道、更年期。今、まさに更年期障害進行形の小林久乃さんが、自らの身に起きた症状や、40代から始まっ...
やる気が見えない…原因はこれかも。若者が “静かな退職”を選ぶ理由「やるべきことだけ淡々と」が主流に?
「ここ最近、入社してくる若い世代の仕事に対する熱量が感じられない…」「部下が仕事のやる気を出してくれない」とモヤモヤして...
カワイイが大渋滞! “にゃんたま”の無防備な寝相、ポンポン尻尾…9連発に癒されて♡
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 2025年7月にご紹介したもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかし...
「え、誰?」“親戚ズラ”する義母の親友にウンザリ…39歳女性が撃退した最強のカード
 令和を迎えた今の時代にも、姑の行動に深刻な不快感を示す妻もチラホラ…。一方、激しい対立をするほどの事柄ではなくても妻が...
社長の「お気に入り」で準主役に大抜擢…芸能界の“暗黙ルール”に飲み込まれたタレントの悲劇
 世間を揺るがす芸能界の黒い噂。ニュースとして報じられ、真実が明らかになることも増えました。現在は清浄化が行われている芸...
メルボルンはカフェ天国♡ 噂の「世界一のクロワッサン」って本当に美味しい? オーストラリアで正直レビュー!
 オーストラリア・メルボルンへ3泊6日の旅に出ることに。夜に日本を離れて翌日早朝にメルボルンに着きます。飛行機の時間は1...
港のにゃんたま様「食い損ねたんじゃ!」お目当ての魚を探索中、“たまたま”がチラリ♪
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
服を返品したい→ゴミだけ送られてきた!フリマサイトの「仰天トラブル」体験談
 普段からフリマサイトを利用している人、これから利用しようと思っている人は必見! 今回はフリマサイトでのトラブル経験談を...
「会社行きたくねえ」がマシになる!? BGMは中島みゆき、ログインボーナス…社会人の神ワザ5連発
 職場に苦手な人がいる、業務がきつい、通勤時間が長い…毎日の仕事がつらいとき、あなたはどうやって乗り越えていますか?  ...
【女偏の難読地名クイズ】「女影」って何て読む?(難易度★★★☆☆)
 知っているようで意外と知らない「ことば」ってたくさんありますよね。「校閲婦人と学ぶ!意外と知らない女ことば」では、女性...
「でも、だって」の嵐で話が進まん! 距離を取りたい人の特徴8つ。クレームが生き甲斐って楽しみないの?
 皆さん、どのような人を見ると「ちょっとお近づきにはなりたくないなあ」と思いますか?  今回は世間の声とともにその...
えっ、夏の“汗染み対策”を27%がしてないの? 最低限やっておきたい4つの方法
 夏のお悩みといえば、洋服の汗染みですよね。外をちょっと歩いただけで、脇や背中がぐっしょり濡れて洋服にも汗染みが出没して...
ごめん、私が悪かった…友達に嫌われたLINE3選。「彼氏のために迷惑かけるの?」ってごもっとも!
 今回ご紹介するのは、友達をなくすことになった原因のLINE。失いたくない友達がいる人こそ参考にしてみてください。
お客様は神様…じゃないよ! 地獄の“カスハラ”5連発。「400万払え」の脅しで転職に追い込まれ
 接客業をしているとお客さんから理不尽なクレームを受けたり、必要以上のに暴言を吐かれたりなど、カスタマーハラスメントを受...
一目惚れした“にゃんたま”様に会えるかな、美しい島で奇跡の出会い。ふと見上げた先に…いた!
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
「最後の命を燃やしてるみたい」海中カメラマンの話に植物の“終わり”を思う。花が教えてくれた“命”の使い方
 「やっぱり生態系が崩れていると実感する」  猫店長「さぶ」率いる我がお花屋に、沖縄の友人が数年振りに遊びにやって...