「ひざの触れ合い」が親密さを加速
――見事な誘い方ですね。
「ありがとうございます。『お得感』ある誘い方じゃないと、人の心は動かないと思ったので……で、タクシーを飛ばして、青山のイタリアンレストランに行ったんです。シェフや店長は変わっていましたが、店内のメニューもインテリアも当時と一緒。そこで、私たちはカウンターで横並びに座ったんです」
――急速に距離が縮まりましたね
「そうですね。お酒や食事をオーダーし、ワインで乾杯しました。最近はお酒を呑まない若者が多いようですが、Dさんはお酒が好きらしく、『ありがたく、ご馳走になります』と、喜んで味わっていました。
実はその店には主人が勤める商社の飲料部門がおろしているワインがあるのですが、主人の話題は出さず、ワインの飲み比べもしましたね。『私のワインも呑んでみる?』ってグラスを差し出したら『いただきます』って、無邪気に吞んでくれて……わ、間接キス……と少女みたいなことを思ってしまいました」
――続けてください。
「料理も運ばれてきて、お酒もさらに進みました。
先ほどの就活とは一転、プライベートな話題になったんです。そこで、わたしたちが共に岩手県出身、つまり同郷だとわかりました。うそ、信じられない――と思った時、カウンターの下で、互いのひざがぶつかったんです。この「ひざの触れ合い」が親密さを加速させましたね。と言うのも、私、数秒だけひざを離さずにいたんです。
もちろん『あ、ごめんなさい』と、その後ちゃんとひざをを戻しましたが、彼も「いえ、こっちこそ」と言いつつ、ドギマギした様子で――」
心理学から学んだ誘惑方法
――続けてください
「で、そこからは、地元の方言も交え『ドカ雪の時期は大変よね』とか『○○公園はデートスポットだった』など、故郷の話で大盛り上がりです。彼も、就活の時とは別人のようにリラックスして、ワインを何杯もお代わりしていましたよ。でも、さすが東北人。お酒が強いんです。
私も強いほうですが、彼も悪酔いはしない――だから、私のほうから「彼に口説いてもらうよう仕掛けちゃおうかな」と言う気になったんです」
――Y美さんの誘惑法、ぜひ伺いたいです。
「私は事前に彼の手指はチェック済みだったんですが、あえて『Dさん、手を見せて』と両手をパーにしてもらったんですね。で、『あ、すごい。人差し指と薬指を比べて、薬指が異常に長いわ』と驚いたように言ったんです。
彼は『どういう意味ですか?』と訊いてきました。で『人差し指と比べて薬指が長い男性って、男性ホルモン・テストステロンが優位なの。つまり、オスとして優秀な証拠。だから運動神経もいいし、オスとしての生殖能力や生命力も強い。ここだけの話、Dさん、セックス強いはずよ』と、淡々と告げたんです。
セクハラにならないように、あくまでも『オスとして優秀』と言うことを褒めたんですね」
――続けてください。
「彼はセックスと言う単語に驚いていましたが、『確かに……草食男子じゃありません』と言ってましたね。私は『サッカーをやっているから腰も強いと思うし、生殖能力も抜群のはずよ』と、畳みかけました。
こうやって生物学的な側面からセックスの話題をふると、エッチな話もしやすいんです。これは、私が心理学で学んだテクニックです。淡々としたトークの中に、さりげなく『セックス』『オスとして優秀』『腰が強い』などを交えると、エロティックな話題もスムーズにできるし、彼自身もエロティックな気分にさせることになるから」
――素晴らしい技ですね
「ダメ押しで、『エッチするときは、自宅派?シティホテル派?ラブホテル派?』と訊いたんです。もちろん、口調は淡々とです。スケベ心をいっさい見せることなく訊くと、『うーん、自宅派ですかね。金があるときはラブホもいいけれど……』と言い出して……。で、私が『最近のラブホの設備は凄いもの。カラオケやダーツもできるし、フードも充実しているから最高』って言ったんです。
すると、『ラブホ……Y美さんも行くんですか?』と、驚いたように訊いてきたんです。すかさず、私は『やだ、もうDさんたら』とにっこり笑って、そのまま化粧室に立ちました。
一番盛り上がった場面で、さっと消えるのは、私が男性を口説くときの常とう手段なんです」
――プロですね。
「いえいえ……ただ、このテクニックはあらゆる場面――ビジネスや人間関係でも使えます。相手がもっと知りたいと思う直前で、少しだけ『待った』をかけるんです。
化粧室に入った私は軽くメイクを直しました。唇にグロスを塗り、ボブヘアを髪留めで上げ、うなじがよく見えるような装いで戻ると、予想通り、彼の視線が私のうなじに向けられたのが分かりました」
タクシーで道玄坂のラブホ街に
――続けてください。
「私は『まだ九時だけれど、帰りましょうか? それとも、もう一軒行きます?』と彼に訊きました。
ラブホの返事をおあずけにした状態ですが、男に追わせるにはこれくらいしなきゃダメですから。すると、『せっかくだから、もう一軒行きましょう』と言う返事が来たんです。やった!と思いました。
あとは、私が手早くお会計を済ませ、青山の街を歩きました。私が彼の手に指を絡めると、彼もぎゅっと握り返してくれて……そして『さっきの話の続き……ラブホ、しばらく行ってないから行きたいな』と彼を見上げたんです。
彼、私の手をさらにギュッと握りしめて、そのまま強く私を引きよせたんです。あたりは人もまばら。でも、知り合いに会うとマズいので、『待って、タクシーを拾うわ』と、空車を拾い、道玄坂のラブホテル街に向かいました」
――続けて下さい
「以前、一度だけ行ったことのあるお洒落なラブホがあることを思い出しました。彼と手をつないだまま、素早く入り口から入り、フロントで部屋を選んで……部屋に入るなり、私は彼に抱きつきました。
すると彼も大きな手で強く抱きしめてくれて……。サッカーの練習の時以上に彼の汗の匂いが濃く香り、私は胸いっぱいに吸い込みました。夫とは違う若々しい体臭と、逞しい筋肉に覆われた体……。
いつしか、互いに唇を押しつけていました……温かな唇の感触とワイン交じりの唾液の味に、興奮が一気にヒートアップしましたね。こんなドキドキするキスなんて何年ぶりだろうと、一瞬、頭の中が真っ白になりましたが……この後、Dさんに抱かれる期待と後ろめたさに、ますます体が火照りを増していくんです。パンティに、トロリと熱い蜜が滲んできました。
続きは次回。
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