NHK「あんぱん」絶好調の理由は朝ドラの“キモ”が分かっていること
NHK連続テレビ小説「あんぱん」の評判がいい。アンパンマンの生みの親、漫画家やなせたかし(北村匠海)と小松暢(今田美桜)夫婦をモデルにした波乱とヒューマンのドラマで、NHKプラスのドラマ最多視聴数を記録し、週間視聴率ランキングでも常に上位だ。人気の理由はなにか。とにかくわかりやすいのだ。
「子どもが父親の急逝や母親に捨てられたとき、青春の失恋のとき、学校の受験のときも、あんぱんを食べるとたちまち元気が出るなんて、わかりやすいですよ。もちろん、そこは演出なのですが、もし本当にそうだったらいいなと明るい気分にさせてくれます。朝から暗い話や理屈っぽい話は勘弁。前々作の『虎に翼』もそうでしたが、ヒロインがあすはどんな活躍をするだろうと楽しみになる、そんな朝ドラらしい朝ドラです」(テレビ情報誌編集デスク)
誰もが知っているアンパンマンの誕生話というのもわかりやすいし、登場人物たちがそれぞれの立場で語る「自分のために生きる」というメッセージも、ストレートで共感できる。各週タイトルの「なんのために生まれて」(第3週)、「なにをして生きるのか」(第4週)は、「そうだ うれしいんだ」で始まる「アンパンマンのマーチ」の歌詞で、それに気づいてちょっと愉快になるなど、まあ、これで人気にならない方がおかしい。
「戦争と正義」をどう描くか今後の評価は決まる
でも、ただ明るくて元気になるドラマというわけではなさそうである。大きなテーマは戦争と正義で、制作統括の倉崎憲氏は「今までの朝ドラ以上に戦争というものをちゃんと日数を使って描いてます」と語っている。やなせは20代で中国戦線に送られ、「戦う前に腹ペコでフラフラ。タンポポの根っことか手当たり次第に喰べてました」と書き残している。それを演じる北村匠海は、3日半何も食べず役作りをしたという。
「主人公ののぶの朝田家も嵩の柳井家も戦禍は免れず、出征して帰ってこない人も出てくるようです。その戦争と敗戦からやなせが知ったのは、絶対と言っていた正義ほどあてにならず、逆転するということ。皇国神話などは最たるものでした。では、逆転しない正義はあるのか。そこから生まれたのが、飢えた人がいたら、自分のほっぺたをちぎって与えるアンパンマンだったのです。自己犠牲と人助けこそ正義というメッセージです」(前出の編集デスク)
戦争とアンパンマン誕生を手だれの脚本家、中園ミホはどう描き、どんなドラマになるのか。「あんぱん」の評価はそこで決まる。
(コラムニスト・海原かみな)
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