家族のあり方を描いたヒューマンストーリー
「今の時代、タイトルに『ヤクザ』を入れる!?」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、本作はヤクザ稼業の男たちを軸に、家族のあり方を描いたヒューマンストーリーです。綾野剛さん演じる山本賢治は、証券マンだった父親がバブル崩壊後に手を出した覚醒剤で命を落とし、母親はすでに他界。身寄りがなく、その日暮らしの生活を送っていましたが、舘ひろしさん演じる柴咲博(広域指定暴力団の3次団体・柴咲組の組長)を、チンピラの襲撃から救ったことをきっかけに、血のつながらない2人は父子の契りを結ぶのです。
本作は3部構成で、1995年から2019年の20年間を描いています。この20年間は、ヤクザが裏で幅を利かせていた時代から、暴対法の影響で、存続すら危うい状態に変化した過渡期です。時代に翻弄され稼業で生き抜くことが難しくなっている存在だからこそ、人間の原点である、家族関係を浮き彫りにできたのではと、筆者は感じました。
キャッチコピーは「父も母もいないけど、私には《家族》がいました。」です。現在はコロナ禍で思うように人に会えず、必然的に人間関係を見直す時期に突入したといえます。本作で監督と脚本を担当し、シム・ウンギョンさんと松坂桃李さん主演の映画「新聞記者」(2019年)などでも世間に実力を知らしめた藤井道人氏と本作でもタッグを組んだスターサンズは、時代を先読む力があると、作品を鑑賞するとおわかりいただけると思います。
綾野剛さんは取材で“神対応”してくれる俳優
藤井監督は「綾野さんのストイックな役への姿勢は、本作の脚本の世界を何倍にも広げてくれました」と語っています。何度か綾野さんを取材させていただいた筆者は、ストイックなうえにサービス精神にあふれた、紳士的な方だという印象を持ちました。綾野さんクラスの有名俳優さんは、複数媒体が同時に取材する「合同取材」から、媒体別の「個別取材」へ移行するパターンが一般的ですが、合同取材前のときでした。複数媒体のライターがそろっていると確認してから、「せっかくみなさんが早めに来てくださったのですから、少し早めですが始めましょうか」と、席についてくださったのです。そして、合同でも個別でも、ライターが良質な原稿を書けるよう配慮してくださったのでしょう。少し時間が押すぐらい、たくさんしゃべってくださいました。
その役者魂は、作品にも惜しむことなく発揮されたようで。綾野さんは、山本が車に轢かれるシーンを、スタントマンに頼まず3回もトライしたとのこと。驚きで声が出てしまいそうなリアルな映像に仕上がっています。
セクシーな舘ひろしさんから目が離せない…
山本を「ケン坊」と、実の子のようにかわいがる柴咲を演じた舘さんのお芝居にもしびれます。ご本人は「スカーフェイス」(1983年)のアル・パチーノをイメージしたとのことですが、ただカメラ前に立っているだけで放つ存在感は圧倒的。年齢を重ねて重みを帯びた、低く渋い声はセクシー。漢(おとこ)だけれど包容力のある柴咲は、舘さんにしか演じられなかったのでは……と、画面から目を離せませんでした。
次世代ブレーク女優 小宮山莉渚さんに注目
作品には寺島しのぶさん、豊原功補さん、市原隼人さんなど豪華キャスト陣が物語の屋台骨を支えていますが、個人的に注目していただきたいのは本作が女優デビューとなる、15歳の小宮山莉渚(こみやま・りな)さん。綾野さん演じる山本と、尾野真千子さん演じる工藤由香の間に生まれた娘・彩役を演じています。出演シーンは少ないものの作品展開の鍵を握る重要な役を担っていて、きちんと作品に“爪痕”を残しているのです。ソフトバンクのCM「5Gってドラえもん? タケコプター篇」で若い頃のしずかちゃん役で出演もしています。個人的な意見ですが筆者は、数年後に「次世代ブレーク女優」として取り上げられるような気がしています。
本作に話を戻しますと。海の底へと沈む山本の姿で始まり、沈んでいく山本で物語を締めくくるラストは、理由がわかるので切なくなります。家族とは。自分は家族を持つのか、持たないのか。今、大切にすべき人間関係とはーー。自分にとって大事なものはなにかを突きつけられる作品です。
1月29日全国公開(PG12)。配給:スターサンズ/KADOKAWA
出演:綾野剛、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、菅田俊、康すおん、二ノ宮隆太郎、駿河太郎、岩松了、豊原功補/寺島しのぶ、舘ひろしほか。監督&脚本:藤井道人
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