ヒモ以下の“ロープ”と呼ばれた男…法廷で暴かれた惨めなウソ

高橋ユキ 傍聴人・フリーライター
更新日:2019-05-24 06:00
投稿日:2019-05-24 06:00
 甘酸っぱい恋から始まる男女の仲も、時間の経過や環境の変化とともに色あせてしまうもの。痴話ゲンカから果ては刃傷ざたまで、痴情のもつれから起こった男女の壮絶トラブルを数多く裁判所で傍聴してきました。今回は、ヒモを通り越して“ロープ”と呼ばれた長身イケメンの裁判を紹介します。

恋人を手にかけた被告が法廷で語ったこと

 数年前、ある地方都市のアパートで看護師の仲本こずえさん(20代/仮名)が絞殺体で発見されました。そして、数日後に逮捕されたのは、彼女の同棲相手で2歳年上のアクセサリー販売業・加藤隆容疑者(仮名)。

 のちに開かれた裁判員裁判。事件の背景に別れ話があったことは、検察側も被告側も争っていませんでしたが、決定的に違っていたことが……。

 被告は仲本さんから「殺して」と頼まれた……と、彼女からの依頼を受けた“嘱託殺人”だと主張したのです。

「殺したのは間違いありませんが、彼女から頼まれたので、殺人ではありません」

 こう罪状認否で訴えた長身細面のイケメン被告。後日行われた被告人質問でも、こう話し始めたのです。

「事件の1カ月前、彼女から別れて欲しいと言われました。気持ちがなくなったとか、仕事してないからとか、そういうことを言われました。そのあとセックスをしていたら彼女が『殺して』と言ってきたんです」

 情事の最中に、別れ話を切り出してきた仲本さんからこう求められ、当然、加藤被告は止めたと主張します。

「『彼女のことを大事に思っている人たちが悲しむ』とかいろんなことを言って説得しました。でも、届いてないなー、と感じました。すごく悲しく、すごく辛いと思いました。別れることを決めましたが、僕にとって彼女は大事ですごく好きな人。その人に殺してと頼まれること自体、すごく悲しい……」

 葛藤して悲しみにくれたものの、最終的には求めに応じ、彼女の首に手をかけ殺害……。こう加藤被告は言いました。

 ところが、検察側の主張は正反対でした。彼女は加藤被告に完全に愛想を尽かしていた、というのです。

証人から相次いだカミングアウト

 証拠も次々と出てきました。まず仲本さんの同僚だった看護師が証人としてこう述べます。

「彼女は、加藤被告からやり直したいと言われていましたが、それを断っていました」

 看護大学の同級生だった女性も「別れると聞いていました」と彼女の強い意思を生前に聞いていたのです。さらに「事件直前に韓国旅行に行きましたが、帰国したその足で新しい彼氏のところへ行ってました」と、新たな男性との関係が順調にいきかけていたことをカミングアウト。

 その新しい彼氏は「彼女とはキスまでしかしていませんでした。『前の彼氏(加藤被告)と決着をつけてから』と言われていました」と、仲本さんが加藤との関係にケジメをつけるつもりだったことも明らかに。

 神妙な面持ちでそれらの証言を聞く加藤被告でしたが、当人もそれを薄々感づいていたことが暴かれてしまいます。事件前、知人に「そろそろ追い出されかけている」「次の住居がないよ」など、泣きのメールを入れていたことも証拠として提出されたのです。

 看護師として順調に成長を続けていた仲本さんに対し、加藤被告は停滞していました。

 彼女が家賃を払うアパートで、アクセサリーを手作りしてはネット店舗で売る生活をしていましたが、当然、収入は安定しません。そんな加藤被告のことを、仲本さんは友人らとのメールで「ロープ」と呼んでいたことまで検察官は暴露した。

 別れ話の末に、肌を寄せ合って愛情を確認しあい、最終的に彼女の求める嘱託殺人を犯した……と、主張したかった加藤被告でしたが、実際はヒモを通り越した「ロープ」だったために、仲本さんに愛想を尽かされた揚げ句、アパートを出て行くように言われていたのでした。

 それなのに加藤被告は、最後まで法廷でこう悪あがきをするのです。

「逮捕されて拘留中ずっと、自分が何をすればいいのか分からなかった……。でも法廷では本当のことを述べることができました」

 彼女との秘密だった「殺して」という依頼を自分は叶えただけなのだ……最後までそう言い張っていました。そんな加藤被告の言い分は、当たり前ながら「到底信用できない」として懲役16年の判決が言い渡されています。

 事件の日、加藤被告は仲本さんの首を手で絞めたあと、ロープではなくベルトを使って首を絞めました。強い力で引っ張られたため、それは真っ二つに切れていたそうです。
(文中の登場人物はすべて仮名です)

高橋ユキ
記事一覧
傍聴人・フリーライター
著作に「暴走老人・犯罪劇場」(洋泉社新書)、「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)、「木嶋佳苗劇場」(宝島社)、古くは「霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記」(新潮社)など。殺人事件の取材や公判傍聴などを主に行なっている。

関連キーワード

ラブ 新着一覧


脳筋知ってる?筋肉LOVE彼氏をおバカで可愛いと思えるか判定LINE3選
「脳筋」とは、「脳みそまで筋肉」の略語。ポジティブな言葉として使われる時もあるけれど、とにかく頭を使うより体を使うのが得...
恋バナ調査隊 2024-06-29 06:00 ラブ
夫や彼氏からの「ドン引き誕プレ」5選 女ゴコロが1ミリも分かってないな
 夫や彼氏からの誕プレには期待しちゃいますよね。自分のことをよくわかっている相手ですし、誰よりも「喜ばせたい」と思ってく...
恋バナ調査隊 2024-06-28 06:00 ラブ
「私、CAの試験に受かっていたの」お見合い現場で遭遇する"怪しい経歴”
 アラフォー世代の婚活で見栄を張って“怪しい経歴”を語る方がいます。これまで何件か聞いたのが、航空会社のCA(客室乗務員...
植草美幸 2024-10-24 14:24 ラブ
やる気マンマン? 起業したい系男子が増殖中…本気か、金目当てか?
 年上の女性を狙う「起業したいんです」系男子が増殖しています。そのなかには起業を口実に女性からお金を引っ張ろうとするウソ...
内藤みか 2024-06-27 06:00 ラブ
田舎に住んでるとマッチングアプリは役立たず!? 婚活女性が涙した悲劇4選
 マッチングアプリが普及してからは出会いの幅が一気に広がりましたよね。ですが、田舎ではあまり役に立たないようです。いった...
恋バナ調査隊 2024-06-27 06:00 ラブ
1年365日少年すぎる夫の操縦法 うちの旦那はピュアなの? おバカなの?
 結婚すると、女性はより現実的な思考になる人が多いのに比べて、男性はいつまでも夢を追いかけがち。時には、少年すぎる考えの...
恋バナ調査隊 2024-06-24 06:00 ラブ
夫はバツイチ。元妻の「あんた」呼ばわり“カチコミ”LINEどう対応する?
 夫がバツイチだった場合、どうしても避けられないのが元妻との関係…。理解のある人ならいいのですが、夫に未練があったり、不...
恋バナ調査隊 2024-06-23 06:00 ラブ
ゾッコンした女は恋愛上級系?それなら…交際戸惑う48歳バツ1男の胸の内
「冷酷と激情のあいだvol.200〜女性編〜」では、たまたま入ったバーで出会った男性と友達以上恋人未満の関係が続き、40...
並木まき 2024-06-22 06:00 ラブ
40代、昔なら“無い男”と告白前旅行はアリ?恋の始め方を見失う45歳女
 男女の関係では、交際相手や配偶者の態度に悩む人も少なくありません。愛し合っている男女間でも、価値観や物事の判断には個人...
並木まき 2024-08-17 09:01 ラブ
人気の電話占い師は20年前からお見通し 新しい彼氏が最速でできる方法
 恋をすると占い師に頼る女性がかなり多いのではないかと思います。特に梅雨時は、気持ちもじめっとしてしまうのか、思い悩んで...
内藤みか 2024-06-20 06:00 ラブ
略奪婚その後の幸せは確約されていない? 4人の女が直面したリアルな現実
 不倫の末に掴む幸せは、果たして長く続くのでしょうか?  今回は“略奪婚のその後”に迫ります。現在不倫中で、相手と...
恋バナ調査隊 2024-06-19 06:00 ラブ
【調香師監修】4タイプ別 熱い夏に負けないスパイシーな香り&オイル解説
 夏になるとスパイスの効いた料理が食べたくなりませんか? スパイスには体の代謝を高めて血行をよくする働きがあり、中東など...
太田奈月 2024-06-18 06:00 ラブ
「なぜ不倫したかって? お宅の夫に騙されたからよ」不倫女の言い分7選
 婚期を逃したり、相手の奥さんにバレて慰謝料を請求されたりと、不倫はハイリスクですよね。なのになぜ、不倫する女性が後を絶...
恋バナ調査隊 2024-06-17 06:00 ラブ
50歳独女の初体験未遂は突然始まった。オタのオフ会で男を物色したら…
 パートナーなしの50歳独女ライター、mirae.(みれ)です。あなたは大好きな人に「うちに泊まっていく?」って誘われた...
mirae.(みれ) 2024-07-14 13:57 ラブ
「俺って特別な存在?」まで聞いといて言わんのかーい! 告らせたい男と女の攻防戦はLINEでも
 好きな男性には、自分から告白するより告白されたいですよね。いい雰囲気になってきたら「今言って!」と、告白を引き出したく...
恋バナ調査隊 2024-06-16 06:00 ラブ
成長させてあげる…? 男への違和感はスルー厳禁!勘が命中したLINE
「女の直感は当たる」といわれている通り、女性の「ん…?」という違和感は意外と当たるもの。信頼している彼氏やちょっといいな...
恋バナ調査隊 2024-06-15 06:00 ラブ