「恋人」「同棲」に見せかけた支配の檻 美沙さんのケース#5

神田つばき 女と性 専門ライター
更新日:2020-01-11 07:06
投稿日:2019-05-25 06:00

女性を洗脳支配するゲームの依存症

私はATMに過ぎないんだと気づいた日

 10月のある日、美沙さんは出版社を解雇されました。デリヘルでバイトしていることがバレたのです。

 身バレしないよう、お店のキャスト紹介ページには首から下の写真しか写していませんでした。それなのに、会社の誰がどんな目的で見たのか、服とおしゃれなネイルが美沙さんのものだとわかってしまったのです。

 驚いたのは健斗の反応です。解雇と聞くと、怒るでも責めるでもなく、値踏みするような目でジーッと美沙さんを見つめました。

「優良企業だったのにもったいないな。それで、どうすんの? すぐ就職すんの? それともバイトの日数ふやす?」

 畳みかける事務的な口調に、美沙さんは心が底から冷えてくるのを感じました。「私のクビなんて、この人にとってはATMの故障でしかないんだなあ……。あれっ、私は何のために頑張ってきたんだろう……?」。

 言葉で抗議はできない。でも、何とかして健斗に意地悪を言いたい、思い通りになんかならないんだぞって思い知らせたい。美沙さんの口から、嘘が飛び出しました。

「36歳だからね、次は当分決まらないと思うよ」

「じゃあデリヘルの日数ふやせば?」

「無理。よほどの売れっ子じゃないかぎり、毎日なんて入れてくれないよ」

「えっ。じゃあ、お前どうすんの? ここの家賃払えるの?」

利用価値のなくなった女を演じてみせる

 次が決まるまであなたが払ってよ、とふつうの恋人どうしなら言うでしょう。いや、ふつうの恋人どうしだったら、そもそもこうはなっていなかったはず……。

「払えないかも……再来月、家賃の更新なんだよね。どうしよう……更新料払えないから、一時的に実家に戻ろうかな」

「えっ、お前、なに勝手に決めてんの?」

「ううん、健斗が決めて。なんなら健斗も実家に来る? 狭いけど、親たち喜ぶよ」

「やだよ……俺は、行かない」

 美沙さんを洗脳しながら、美沙さんに依存していた健斗という男。“優良企業のOL”という価値を失ったと理解すると、あっさり美沙さんを手放して消えました。

 美沙さんが実家に引き揚げる日、健斗は外泊して顔を合わせることもありませんでした。解約日の前に美沙さんが掃除に行くと、いつの間にか健斗の私物は消えていました。

 健斗にとっての利用価値がなくなったフリをして、美沙さんは救われたのです。実家に帰った今は、夜のバイトをやめ、失業保険の給付を受けながら求職活動中。

 身も心も元気をとりもどしていますが、一つだけ気になっていることが……。

「健斗は両親のことが許せないので、実家には帰っていないはず。泊まりに行ってた女のところに転がりこんだんじゃないかと……」

 その女性も、自分と同じことをされている可能性がある、と美沙さんは言います。健斗のようなモラハラ男は、女性が洗脳され、言いなりになっていく過程が面白くてやめらません。自分より弱い立場の女性を支配するゲームの依存症なのです。

 “恋人”“同棲”という隠れみのの中でどんなモラハラが行われていても、周囲の人間には見えにくく、当の女性も自分を被害者だと意識できなくなっています。おかしいと思ったらすぐに逃げ出せるように、女性の皆さんには、モラハラ男の狡猾な手口を知っておいてほしいと心から願います。

モラハラ男の体験コクハクをお寄せください

 ※登場人物はすべて仮名です。また、取材相手の個人情報が特定されたり、登場する男性の恨みを受ける恐れがある場合、別のエピソードを入れるなどの変更を加えています。

 モラハラ男から被害を受けた体験のある方、エピソードをコクハクしたい方、teamコクハクの質問・相談・その他のご依頼はこちらから、執筆者で“神田つばき”を選択して体験談をお寄せください。お待ちしております!

【あわせて読みたい】
夢みたいな新婚生活に落ちた黒い影…志穂さんのケース#1
無言で脅迫するモラハラ夫との2年間…真由さんのケース#1

神田つばき
記事一覧
女と性 専門ライター
離婚と子宮ガンをきっかけに“目がさめて”女性に生まれたことの愉しみを取り戻すべく、緊縛写真のモデルとライターに。私小説「ゲスママ」、イベント「東京女子エロ画祭」「親であること、毒になること」などを企画。最近は女犯罪者や緊縛表現者に関するZINEの制作・販売を開始。Xnoteblog

関連キーワード

ラブ 新着一覧


女子会でも写真付きのLINE報告はマスト! 心配性すぎる夫の仰天エピ
 大好きな旦那さんから心配されるのは、女性にとって嬉しいことですよね。しかし、度がすぎると疲れるケースもあるようです。 ...
恋バナ調査隊 2023-08-15 06:00 ラブ
給料日に「5000円貸して」の少額無心…別れた夫のしょーもなLINE3選
 離婚大国とも言われる日本では、毎日実に多くの夫婦が愛にピリオドを打っています。でも「離婚したからもう自由!」とはいかな...
恋バナ調査隊 2023-08-15 06:00 ラブ
コクるのもデートも基本受け身!? 女性にリードされたい男性の心理
 女性をかっこよくリードしてくれる男性って素敵ですよね。でも近年では「女性にリードされたい男性」が増えているそうで……。...
恋バナ調査隊 2023-08-14 06:00 ラブ
気づかないのは当人たちだけ? どう見てもバレバレな「ご近所不倫」話
 不倫といえば、配偶者にバレないようにできるだけ遠くでデートをしているイメージがありますよね。でも実は、意外にも家のご近...
恋バナ調査隊 2023-08-14 06:00 ラブ
ズボラとナチュラルは似て非なり!男心を掴む「自然体な女性」4つの正体
 好みのタイプを聞かれて「自然体な女性」と答える男性は多いですが、その“自然体”を勘違いしてしまうと撃沈するので気をつけ...
恋バナ調査隊 2023-08-13 06:00 ラブ
「結婚したい。けど真面目メンタルな女は飽きる」41歳自称モテ男の憂鬱
「冷酷と激情のあいだvol.155〜女性編〜」では、恋人のノリユキさん(41歳・仮名)が自分に心を開いておらず、夜の生活...
並木まき 2023-08-12 06:00 ラブ
「やりたいようにやらせてるだけ…」恋人との“夜の生活”に指折り耐える女
 男女の関係では、交際相手や配偶者の態度に悩む人も少なくありません。愛し合っている男女間でも、価値観や物事の判断には個人...
並木まき 2023-08-12 06:00 ラブ
なるほどふむふむ、ふむふむいいね♡ 男女の似た者同士ほっこりLINE3選
 カップルの中には、同じような価値観や行動パターンだったり、性格が似ていたりと「似た者同士のカップル」がいますよね! 似...
恋バナ調査隊 2023-08-12 06:00 ラブ
夫の給料を知らない妻は多い!? 我慢せずにさりげなく聞き出す3つの方法
 意外にも、自分の夫の給料を知らない妻は多いそうです。夫としては「生活費をきちんと入れているんだから、すべて言う必要はな...
恋バナ調査隊 2023-08-11 06:00 ラブ
手放す苦痛は耐えがたい!? 天性か魔性か…浮気しても許される女性の特徴
 浮気してもなぜか彼氏や夫に許される女性っていますよね。男性の器が大きいことも許される要因の1つですが、女性に“手放した...
恋バナ調査隊 2023-08-11 06:00 ラブ
バチェラーに学ぶ シャイなイケメンはどうすれば陥落できる
 人気恋愛リアリティー番組『バチェラー・ジャパン』の新シーズンがスタートしました。今回は元プロバスケットプレイヤーの経歴...
内藤みか 2023-08-10 18:47 ラブ
夫が「FIREを目指す」と言い出した! 妻が“冷静に諭すべき”4つのこと
 皆さんは「FIRE」という言葉を知っていますか? コロナにより人生への価値観が変わる中、「もっと自由な生き方をしたい」...
恋バナ調査隊 2023-08-10 06:00 ラブ
“2度目の夫”はより慎重になる…どこで再婚相手と運命の出会いをしたの?
「再婚したいけどそもそも出会いがないから無理」と、諦めている女性もいるでしょう。しかし、再婚をして新たな幸せを掴んでいる...
恋バナ調査隊 2023-08-10 06:00 ラブ
失恋は「心のリソースが空いた」と考えよ!史上最強の自分磨きをする方法
 ひとつの恋が終わると、何か心にぽっかりと穴が空いたようになります。  仕事に手がつかないくらい泣いちゃう自分もい...
若林杏樹 2023-08-09 06:00 ラブ
「俺にとってはかわいい子♡」か弱いより“気が強い女性”がモテる説…!
 好きな男性に、か弱い姿を見せる女性が多いですよね。それが男性の望む姿だと考えて、演じている人もいるでしょう。  でも...
恋バナ調査隊 2023-08-09 06:00 ラブ