作家・重松清さんの愛情、時々イジリまじりのメッセージ

更新日:2023-01-04 06:00
投稿日:2023-01-04 06:00
「日めくりコクハク」でおなじみ、写真家・Koji Takano(髙野宏治)さんの個展「めくりゆく日々」が1月7日~15日、開催となります。
 それに先駆け、作家・重松清さんから愛情たっぷり、時々イジリありのお祝いメッセージが届きました。
 えっ、直木賞作家がなぜ? どういうこと?? その種明かしは読めば納得、特別公開いたします!

髙野宏治という写真家

 いつもニコニコしている。

 目鼻立ちだけを見ればコワモテになるはずなのに、笑うと少年のような屈託のない顔になる。どんなに強行軍の取材でも、その笑みを絶やすことなく、撮影ばかりか時にはレンタカーのドライバーも買って出て、現場を駆け回る。こんがりと――という形容を使いたくなるほど、よく陽に焼けている。

 腕が太い。手の甲がゴツい。背丈こそ小柄でも、いかにも体幹が強そうで、ちょっとやそっとのことではビクともしない頼もしさが全身からたちのぼってくる。

 髙野宏治という写真家は、そういう人なのだ。

 最初に会ったのは2011年秋だった。東日本大震災の被災地をルポした『希望の地図』の取材で写真を担当してもらった。出会いの場は仙台駅のホームだっただろうか。一目見て、「おっ、頼もしそうだな」と感じた。

 数時間後、石巻市での初日の取材を終えたときには、「ああ、この人は現場の難しさも面白さも知り尽くしてるんだな」とわかった。肝の据わった頼もしさや、タフな状況になっても穏やかな笑顔になれる大らかさは、現場でしか鍛えられないものなのだから。

 よし、この人とならいい仕事ができそうだ――。

 そのときの判断は、いささかも間違っていなかった。出会いから11年、『希望の地図』のあとも何度も髙野さんとコンビを組んで、さまざまな現場をめぐった。

「ドタドタ」が似合う男

 心身ともにしんどい旅もあったが、そういうときにこそ、髙野さんが相棒であることのありがたさを痛感する。頼もしさに救われたことが何度もあった。

 それに甘えてきたことは、もっとたくさんあった。気がつくと、髙野さんは、僕の写真を誰よりも数多く撮ってくれた写真家になっていた。

 思い出をたどると、カメラのストラップを首に掛けて現場を走りまわる後ろ姿がすぐに目に浮かぶ。擬音をつけるなら「ドタドタ」だろうか。決して格好の良い走り方ではない。

 けれど、撮影ポジションを見つけてバチバチッとシャッターを切り、一息ついてこっちを振り向くときの笑顔……いいんだよなあ、ほんとうに。

厳しさを知ってるからこその優しさ

 写真家として独立する前、髙野さんは30年にわたって『日刊ゲンダイ』に勤務していた。写真部長まで勤めたうえでの独立だったのだ。夕刊紙という現場第一のメディアで数々の修羅場をくぐってきた、歴戦の斬り込み隊長だったわけだ。

 そんな髙野さんが、女性向けのサイト『コクハク』で日替わりに写真を掲載する――?

 最初は意外な取り合わせに面食らったものの、髙野さんの笑顔を思いだすと、こっちまで頬がゆるむ。

 髙野さんの写真は、どれも優しい。少なくとも僕との仕事では、驚くほど優しい仕上がりの写真ばかり撮ってくれた。現場の厳しさを嫌というほど知っているのに……いや、知っているからこその優しさなのかもしれない。それが『コクハク』の読者にも伝わるといい。

 で、その連載の写真を集めた個展が――いま、ここ。

 どんな作品が展示されるのか、僕は知らない。

「愛おしい瞬間」の数々、そして…

 でも、予言はできる。

 優しい写真が並ぶはずだ。その優しさは、ニヤけ顔のヤツが得意技のように繰り出すものとは違う。まるで正反対。ゴツいコワモテのオヤジが、不器用に、誠実に、ドタドタと現場を駆け回りながら切り取ってきた「愛おしい瞬間」の数々が、ギャラリーを彩っているだろう。

 え? 髙野さん、期間中はギャラリーにずっといるの?

 じゃあ皆さん、写真を堪能したあと、髙野さんの顔を見てごらん。僕の言っている優しさの意味がわかってもらえるはずだ。

 もっとも、照れ屋の髙野さんは、誰かにじっと見つめられるとうつむいてしまうかもしれない。そのときには「あ、シゲマツさんが来た!」と言ってください。あのオヤジ、ちょっとあわてて顔を上げてくれるはずです。

 髙野さん、オレたち二人とも1963年生まれ。還暦だね。またいつか取材の旅に出られるかな。もう無理かな。いやいや、オレ、髙野さんとなら、近所の多摩川の河原を散歩するだけでも、旅の写真を撮ってもらえそうな気がするんだけどね。

 あなたの優しさって、そういうことだと思うんだ。

 2022年師走
 重松清

  ◇  ◇  ◇

【開催期間】2023年1月7日(土)~1月15日(日)
【会場】K2+ギャラリー(東京都中央区八重洲2-6-16 北村ビルB1)

 個展「めくりゆく日々」詳細はこちら

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


昼と夜で違う顔 ガード下で見つけた芸術作品 2023.3.3(金)
 暗闇をバックに造形が際立つ、まるでガード下の芸術作品。  明るい時間にはなんてことない風景なんだけど、まったく違...
イジリとイジメの違いは?関西出身者は思う「わからん人は使用厳禁!」
 みなさんの生活圏には「イジる文化」はありますか? 私は関西出身なので、お笑いの文化が身近にあり、小さな頃からイジリ慣れ...
プレゼン怖い問題 緊張しない5つの方法で苦手意識をなくす!
 会社でのプレゼンや学校での保護者会など、人前で喋るときに緊張して本領発揮できなくなってしまう人はよくいます。たしかに、...
にゃんたま撮影=合法! プリプリな美少年“たまたま”に大注目
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
職場にひとりはいる!? 驚くほど「働かないおじさん」対策法
 会社で働いていると、びっくりするほど仕事をしないおじさんっていませんか?  働き盛りのアラサー、アラフォー女性にとっ...
三匹寄れば文殊の知恵 2023.3.1(水)
 北海道で暮らす、まん丸で真っ白な小さな鳥「シマエナガちゃん」。動物写真家の小原玲さんが撮影した可愛くて凛々しいシマエナ...
超絶かわいい! 春の花「シレネ サクラコマチ」最強の飾り方
「へー!」  以前なにげなく見ていたNHKの特集番組で、思わず声が出たことがございました。なぜテントウムシは自然と...
写真の黒枠は要注意! 40代なら知っておきたい年賀状マナー
 年々、デジタル化が進む現代では、年に一度、心を込めて書く年賀状の意義も大きくなっていますよね。でも、実は年賀状には意外...
BiSHセントチヒロ・チッチ「ハクと坊のきょうだい猫は人を虜にする」
 私、このコたちを我が家に迎える前から、ふたりのファンだったんです。 「セントチヒロ・チッチ」の名前の通り、私はジ...
「新井モーニング」からのストリップ劇場へ 2023.2.28(火)
 書店員でエッセイストで踊り子。コクハクで連載中の新井見枝香さんが出演するストリップを観に行ってきました。ストリップ初心...
自分を追い詰めないで アラフォー女性管理職5つの悩み&解決法
「課長に昇進したのはいいけど、意外とツラい〜!」そんなアラフォー女性、増えています! 豊富な経験から職場で責任あるポジシ...
日光浴&岩盤浴♡ くるんとしたポーズで“たまたま”をチラリ
「にゃんたま」とは、猫の陰嚢のこと。神の作った最高傑作! 去勢前のもふもふ・カワイイ・ちょっとはずかしな“たまたま”を見...
見栄っ張りな女の「隠れ心理と付き合い方」を知って楽になる
 あなたの周りに、見栄っ張りな女はいませんか。友達だと思っていても、会うたびに見栄を張られると、疲れてしまいますよね。こ...
職場にウジャウジャいる!?「老害社員」特徴5つと付き合い方
 さまざまな年齢の人が働いている職場では、かなり年の離れた定年間近の上司や先輩とも付き合わなくてはなりません。人生の先輩...
何でもない日、いつか良い思い出になる時間 2023.2.27(月)
 行きかう電車を眺める2人。  なにか会話をするでもなく、ただ同じ方向を向いている。  記念日やイベントごと...
ママ友が10人目のご懐妊!? ヤバいカミングアウトLINE3選
 人は見かけによらないといいますよね。実際に普段抱いている印象とはまったく違う「意外な一面」を持っている人がいたりいなか...