「お好きなところをご自身で調べてください」
「今朝の病院の処置がよかったみたいで、とりあえず大丈夫だと思いますけど、いつまた出血するか分からないですね。もし心配なら今すぐに本院へ入院していただけますが?」
本院。それはいま私が住んでいるところから電車で2時間以上かかるところ。
「手術は本院でするにしても、たとえば、抗がん剤とか放射線はこちらのサテライト院でできないんですか?」
そうと聞くと、「すべて本院なんです」との回答。
なんということでしょう。抗がん剤治療を行うのかはこの時点では不明でしたが、もし行う場合、体調のすぐれない中で2時間以上もかけて通えるの? 到底、ムリ。
「その場合、たとえば抗がん剤だけ別の病院でできないんですか?」
「できません」
「じゃあどうしたらいいですか?」
「そうなると病院を代わっていただくことになりますね。お好きなところをご自身で調べて行ってください」
ご自身で? 今朝大量出血して救急車に乗った私に、ご自身で……。
突き放されたような気がして、私はもう死んじゃうのかもしれない、と涙があふれ出ます。“ダム”は決壊しました。
「自分でって、今自分のがんがどんな状態かも分からないのに。どうしたらいいんですか!」
ずっと冷静にやりとりをしてましたが、もうダメです。
むせび泣きながら先生に訴えます。
先生はなにも言いません。
ただ嗚咽する私を静かに見つめていたのではないでしょうか。
「S病院、A病院、C病院。この中で通えない病院はありますか?」
ふと先生が言いました。どれもがん治療で有名な病院です。
「ないです、みんな近いです」
「今から受け入れができるか、電話で確認します。30分ほど待合室で待っていてください!」
診察をストップし、先生が電話をかけてくださるというのです。
(あとから分かったことなのですが、がん宣告した先生はこの病院の幹部的な方で、なにがなんでも本院で治療を受けさせようとしていたんですね。ところが、この日の先生は病院の方針にじつはちょっとだけ異論があったのではないかなと思います。転院したのちに、私の執刀医にデータを自ら届けに行ってくださったり、手術前の私に電話をくださったり、じつはいい先生でした)
私はといえば――。まわりの患者さんを不安にさせるから待合室では絶対に泣かないと決めていて、これまでもずっと泣かなかったのですが、この日は恐怖、不安、怒りなどすべての感情を抑え切れず、声を上げて泣いてしまいました。
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