すいかばかのレシピ~'23年<4>すいかが死ぬほど好きな男の一日に密着

Koji Takano フォトグラファー
更新日:2023-08-01 06:00
投稿日:2023-08-01 06:00
 すいか生産量全国47位、ごくごくレアな山梨県ですいか作りに情熱を注ぐ「寿風土(こどぶきふうど)ファーム」代表の小林栄一さん(58)さん。
 彼のことを周囲は親しみとリスペクトの意を込めて、「すいかばか」と呼んでいる。

【午前5時】収穫作業

 午前5時。ねじりハチマキで気合いを入れ、朝日が斜めに差す畑に向かう。

 13年かけて作った土の効果が表れ、今年の畑はこれまでとは比べものにならないほど、蔦が伸び葉が生い茂っている。例年より大きな実も目立つ。

 冷たかった空気が徐々に温まり、気が付けば汗をかいている。すいかに触れることで何かを感じ、考えているのだろう。難しい顔で黙々と繁った畑の中に鼻先まで埋め、収穫していく。

 キャタピラ付きの運搬車で2往復、満載したすいかを運ぶ。

 北杜市のふるさと納税の返礼品にも選ばれ、その出荷と常連からの依頼の発送に追われる。店で販売する分は、毎日朝採りが基本だ。

【午前10時】開店

 午前10時の開店に合わせ、数組のお客がやって来る。東京や神奈川、埼玉方面のナンバーが目立つが静岡や岐阜などもちらほら。

「俺のすいかは、時間で食べる種類が決まってるんですよ!」

「はい! どうぞ、食べて!!」

 試食コーナーのテーブルにお客が座ると、すいかばかの“エンジン”始動だ。

「ハイ、起きて歯を磨く前には、まず『夜明けのセレブ』を食べて。あっ! ちょっと待って! この音楽を聴きながら食べて欲しいから、始まってからね」

 スピーカーから大音量で、由紀さおりの「夜明けのスキャット」が流れる。

「はい! どうぞ、食べて!!」

人は好き、すいかが死ぬほど好き

 一体ここはどこなのかと思ってしまうが、8種類ものすいかの試食を終えたお客は販売コーナーでも、皆楽しげな顔だ。

 価格は各種1kg550~600円。選んだすいかを秤にのせて決まる。たくさんのすいかが並ぶ前で、一組ずつ丁寧に会話し、好みのものを納得して買ってもらうのが基本方針だという。

 会話を止めることなく、手は忙しく動き、選ばれたすいかに一玉ずつ自分のブランドのシールを貼り、手提げの紐をかける。

 ほとんどのお客が「また来るね」と笑顔で帰っていく。無駄に時間をかけ過ぎる接客と言えなくもないが、それが「人は好き、すいかが死ぬほど好き」なすいかばかのやり方であり、目指すところだ。

 客足が途切れる合間を見計らって、出荷する分を箱詰めする。やっぱり、自分でやらないと気が済まない。まさしくバカみたいに丁寧にシールを貼り、クッションを敷いた箱にそっと詰め込む。

 へとへとになりながら一日中働き続ける。あきれるほどに時間と手間をかけることをいとわない。

【午後5時】再び畑に

 午後5時閉店。再び畑に出ると「玉回し」という生(な)っているすいかにまんべんなく日に当たるよう、ひっくり返す作業を繰り返す。

「ちょっとここらで軽くひと雨欲しいなぁ。でも降りそうもないから水を撒くか」

 軽トラに積んだ300リットルのタンクに水を溜めて畑に向かう。

「産地の大手農園のなかは土の中にパイプを埋設させてあって、バルブをひねれば、水が染みていくところもあるんですよ。でも自分は、水は葉っぱから吸わないと味が甘くならないと思うんですよ」

 ホースで水を撒き、畑の中を歩き続ける。日が暮れても作業は続いていた。

【午後11時】箱詰め作業

 そして夕飯の時間。

「あの出荷分、明日までに作らなきゃいけないの忘れてた」

 結局この日、作業は夜の11時過ぎまで続いていた。

「すいかばか」と検索するだけで…

 ポータルサイトのマップやカーナビで「すいかばか」と検索するだけで、寿風土ファームの所在地が出てくる。本人にも理由はわからない。

 白州の標高は東京スカイツリーの634mと同じ。夏も本番、同地へ足を向けてみてはどうだろう。

 スカイツリーの高さで育まれた絶品すいかとバカな男に会いに。


「寿風土ファーム」

address:山梨県北杜市白州町台ヶ原615
営10時~17時

Koji Takano
記事一覧
フォトグラファー
1963年神奈川県横須賀市生まれ。日芸写真学科卒業後、外国航路の船乗りとして世界を股にかけ、出版社勤務を経て、現在はフリーのフォトグラファーとして活動。近著は写真集「東京の風に漂う」(銀河出版)。
http://www.kojitakano.com/

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


仕事に遅刻! 信頼を失わない言い訳&連絡時のビジネスマナー
 社会人でも、寝坊をして遅刻をしてしまった経験がある人も多いでしょう。でも、会社に勤めていると、遅刻した際に大人として正...
“にゃんたま”は神様の化身?幸せを呼ぶまあるい鈴カステラ
 あけましておめでとうございます。今年も「にゃんたま詣」でスタート!  神社で動物に出逢うのは、神様の歓迎サインと...
ご祝儀は新札しかNG? 土日の入手方法やアイロンでの作り方
 友人の結婚式が近づいて、美容院の予約やドレス、靴の手配まで完璧なのに「ご祝儀の新札がない!!」と焦った経験はありません...
来年は猫年じゃない? 干支に入れず恨み節の“にゃんたま君”
 昔、神様は元旦に動物たちにあいさつに来るよう言いました。12番まで先着順に、年の動物になれるという大イベントでした。 ...
本当に自分のために? 素直に聞くべきアドバイスの見極め方
 昔から「素直さは大切」だと言われます。大人になっても素直さを忘れずに、周囲のアドバイスを聞き入れられる人のことは尊敬し...
脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #3
 投資していた友人の失脚により、K社長はブラックな債権者から追われる身となりました。  社長は行方をくらまします。...
縁を切るべき友達の5つの特徴&上手に縁を切る方法とは?
 どんなにコミュニケーション能力が高い人でも、「苦手だな」「付き合いにくいな」と感じる人は、誰にだっているもの。仕事の付...
後ろ足で器用にポリポリ…一緒に“にゃんたま”も揺れちゃうの
 きょうは、首元がカユ~イにゃんたま君です。  首を掻くのに、うしろ脚を使うなんて…ニャイす!  一本だけ爪...
脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #2
 自分の作品がヘアヌードブームに引っかかることも、世間はこんなにエロが好きで、女性のヌード=男性の下半身への奉仕物、と見...
脱いだ作家を守るために…作品を山に埋めた編集者の話 #1
 女が脱ぐ仕事をするのには、いまも昔も危険や煩わしいことが付きまといます。  私自身、音楽をやっていた頃に自分の作...
お葬式に黒いタイツはダメ?寒い日の防寒対策&喪服のマナー
 真冬にお葬式に参列することになった時、黒のストッキングでは足元が寒いことってありますよね。でも、暖かい格好で行こうと思...
配信者にとっては厄介!「察してもらいたい欲」がすぎるひと
 ライブ配信は、まさに魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめく世界。今日も今日とて、多くのライバーやリスナーは、配信をめぐっ...
この匂いはあの子かにゃ?チェックに余念のない“にゃんたま”
 猫の嗅覚は、人間の嗅覚の数万倍から数十万倍鋭い、といわれています。  猫の鼻先は常に湿っていて、空気中に流れてい...
今年の実付きは最高!「千両」と共に迎える幸せなお正月
「今年の千両、実付きがいいよ!」  花市場でいつもお世話になっているセリ人のお兄様が電話の向こうで叫んでおります。...
旅行できない今こそ…年末年始におすすめグルメサービス2選
 政府の観光支援策「Go To トラベル」の全国一斉停止が決まり、年末年始の予定を変更した人も少なくないはずです。こんな...
静かな時間の終わりなき毛繕いに感じる“にゃんたま”の美学
 男には自分の世界があるらしいと知ったのは、小学校低学年の頃。  テレビでルパン三世のアニメのテーマ曲が流れていて...