#2 専業主婦がライブ配信にハマるわけ「誰かが私の才能を見出して…」

ミドリマチ 作家・ライター
更新日:2023-11-18 06:00
投稿日:2023-11-18 06:00

【立川の女・黒澤麻美30歳 #2】

#1のあらすじ】

 かつて2流アイドルグループの中堅メンバーだった麻美は、現在立川で専業主婦として平凡な毎日を送っている。彼女は現在、ひっそりとライブ配信者として活動しているのだが……。

  ◇  ◇  ◇

 10代後半から20代の半ばまでは、人生で一番美しいと時期と言われている。

 麻美はその限られた期間に華々しいスポットライトを浴びることができたが、もう終わった、と認めたわけではない。

 確かに子供を産んだ時は、「これからは、子供が主役の人生の母親キャラとして生きなければならないのだ」という諦めに似た決意を抱いたこともあった。

 だが、時折、まぶたの奥によみがえってくるのだ。

 あの時。武道館に立った時の歓声や、お渡し会で声をかけてくれたファンの笑顔が――自分はまだ物語の主役でありたい。

 だからこそ、どこかで自分の存在をいまだ待ち続けていてくれて、隠れた才能を見出してくれる誰かがいるはずだと信じたくて……。

ライブ配信中に起こった小さな異変

「おはよーございます。まみりんです」

 朝10時。麻美がライブ配信アプリを立ち上げるなり、フォロワーからあいさつコメントとハートが投げられた。

 ほとんどがいつものメンバーだが、そのゆるい内輪感も楽しい。配信ルーム名が『ゆるーりまみりんラボ』のため、麻美は自分のルームを“ラボ”、集まってくるフォロワーを独自に“研究員”と呼んでいる。

「どもども。さとちさん。今日入るの遅いね、なんかあったの? 『寝坊、夜勤だった』……夜勤て。お仕事何だっけ。あ、タクシーだっけ。『そうそう』てか、ラボのみんな、夜勤率高過ぎ。研究員、みんな夜職? 夜職ってちとちがうか」

 いつものように、ゆるりとコメント返しや日常トークで楽しんでいると、ゲストの入室通知があった。

「ゲストさん、こんにちは。逃げないでー」

 麻美は画面の奥を引き留めるように呼び掛けた。ほとんどが怖気づいてすぐ退室してしまうが、10人にひとりくらいはそのまま留まり、研究員になってくれる。

「歌のリクエストある?」

 どうやらそのゲストも、10人のうちのひとりのようだった。その人はコメントもせず、留まるのみだったが、1時間ほど退出せずにいた。

「あー、じゃあ、ヒマなんで、歌でもうたおうかな。リクエストある?」

 終盤、会話が途切れると、カラオケコーナーに移るのがラボのお決まりの流れだ。

 研究員からリクエストを募り、流行りの曲を熱唱する。

 アイドルグループ『TOWER LOVER』在籍時代は、メンバー内でも歌唱力が高い方だった。だから自信があったし、歌うことも好きなのだ。

 AdoやYOASOBI、あいみょんなどの今どきのアーティストの楽曲がリクエストに並ぶ中、初めて発せられたゲストのコメントに目を疑った。

『ゲスト:“幸福ジェネレーソング”お願いします。』

ミドリマチ
記事一覧
作家・ライター
静岡県生まれ。大手損害保険会社勤務を経て作家業に転身。女子SPA!、文春オンライン、東京カレンダーwebなどに小説や記事を寄稿する。
好きな作家は林真理子、西村賢太、花村萬月など。休日は中央線沿線を徘徊している。

関連キーワード

ライフスタイル 新着一覧


冷えたガラスが気持ちいい♡夏が苦手なフワフワ“にゃんたま”
 きょうは、空中浮遊のにゃんたまωにロックオン。  長毛種の猫にとって、日本の夏は……湿度サイアク! あつくるしい...
「天命」を受け入れ死にゆく友人へ…最期にしてあげたいこと
 考えてみるとお花屋さんというお商売は、亡くなるご本人やそのご家族、あるいは、その知人との距離が微妙に近い不思議な職業で...
ガリガリ~♪ 爪とぎでストレス発散の揺れる“にゃんたま”君
 きょうは、爪とぎ中のにゃんたまωにロックオン。  ガリガリガリ♪♪♪ ストレス発散!きもちイイな~!  猫...
貯金がないのに急な入院や手術…高額療養費制度で乗り切ろう
 病気入院や手術が急に決まったとき、すぐに直面するのが治療費と収入に関する不安です。例えば日本人女性に多い子宮頸がんは若...
気になる白猫を見つめて…片思い中の“にゃんたま”の後ろ姿
 仲間たちが噂していた「白ユリのような可憐な女の子」があっちにいる!!!  きょうは、スグに声を掛けず、まだ若い白...
香りが苦手な人も ニューヨーカー直伝「パクチー」の食べ方
 アメリカ、特にニューヨークではメキシコ料理、ベトナム料理、中華料理が人気です。そして、それらの料理にはパクチーがよく使...
美意識を刺激 知的なアナタを演出する「グラマトフィラム」
 ネコ店長「さぶ」が率いる我がお花屋さんには、おかげさまで最近ネコ以外の生き物も生息するようになりました。いや、無理やり...
電話の主は意外な人物…浮かび上がった“怪しい女性”の存在
 郊外に念願の一軒家を手に入れた、1組の「パワー夫婦」。会社への通勤には少々不便な地でも、テレワークがメインの今は「少し...
聖なる秘密の島で出会ったカッコイイ見返りイケ“にゃんたま”
 尊いにゃんたまωを求めて遠い島へ。  地図上で見つけにくい、ここは神聖なる秘密の「にゃんたま島」。  初め...
栄養士が太鼓判!“幸せホルモン”がアップする食べ合わせ3選
 梅雨が明け、いよいよ本格的な夏の到来です。例年ならばバーベキューや旅行など、楽しみがたくさんある季節ですが、外出や旅行...
男女にモテる優しい女性の特徴5選!本当の優しさを身につけるには?
 いつでもニコニコしていて優しい女性、あなたの周りにいませんか? そういった女性は男女問わず、人気があるでしょう。しかし...
身を滅ぼしてもウソがやめられなかったコスプレ虚言癖男の話
 一生に一度も嘘をついたことのない人はいないでしょう。人をだます悪質な嘘をつく人は少ないと思いますが、隠しごとをしたり、...
ハードボイルド“にゃんたま”のタフでクールな姿に惚れ惚れ♡
 きょうは、惚れ惚れするにゃんたまωに出逢いました。  張りがあって、形も色も……なんて美しいのでしょう! ...
男性も女性も憧れる♡ “ハンサム女子”の外見&性格12の特徴
 近頃、外見も性格も男前な“ハンサム女子”が大人気。男性も女性も憧れるハンサム女子には、一体どのような特徴があるのでしょ...
アナタにチャンスをもたらす!極楽の花「蓮」は幸運最強の花
 まさか自分がお花屋さんになるなんて思ってもいなかった、社会人1年目の夏。初めていただいた夏のボーナスで、仏教の国「タイ...
夫宛の怪しい封筒に戸惑う妻…すると固定電話が突然鳴って
 郊外に念願の一軒家を手に入れた1組の「パワー夫婦」。会社への通勤には少々不便な地だが、最近ではテレワークがメインになり...